39、反省だけならエイプでも出来る
「お、俺たちをどうする気だっ!?」
顔に怯えを刷きながらも気丈に言葉を綴る剣士に、マリオが笑みを浮かべたまま問い掛ける。
「確認ですけど、危険があると知りながら僕をセーフエリアから追い出そうとしましたよね。それと同じ事を他の低ランクのハンター達に何度もしてますね。その所為で死者も出てるそうじゃないですか。故意にやったとしたら立派な殺人ですよ。しかもあなた方は追い出しだけじゃなく、邪魔だと言って他のハンターの探索を妨害し、そのことに苦情を言えば暴力で無理に黙らせると言った迷惑行為を続けていますね」
「し、知らねぇっ」
「そうよ、そんなことしてないわっ」
剣士と弓師が大きく首を振って否定し、他の2人も同意するが。
「仲間に聞いたんですけど、貴方達のそういった所業への苦情がギルドに山ほど届いているそうですよ。証言だけで確たる証拠がないからまだ調査中扱いですけど、何かしらの処分が下されるのは時間の問題ですね」
そう言われて今度は何も言い返すことなく口を閉じる。
だが彼らの眼は怒りと不満と屈辱に溢れていて、その身が自由になったら瞬時にマリオを殺しに来そうだ。
「自分がされて嫌なことは他人にしない。
相手の立場に立って行動し思いやる。
僕の故郷では『我が身を抓って他人の痛さを知れ』とも言いますけど、これって生きていくうえでとても大切なことのはずですけど…貴方たちはどうしてそれを忘れてしまったんでしょうね」
ため息混じりのマリオの言葉に、喧しいっと剣士が言い返す。
「そんな綺麗事を簡単に口にする甘ちゃんのお前に何が分かるっ。この世は強い奴が成功して弱い奴はその糧にされるだけだっ。俺らも弱かったころ、さんざん同じような真似をされたんだ。強くなった今、遣られたことを遣り返して何が悪いっ」
しかし彼らの言い分をマリオはきっぱりと否定する。
「強くなるのは悪いことじゃありません。ただあなた達はその在り方を間違えた。そもそも強いからと言って弱い相手に好き勝手するのはただの弱い者虐めです。それは強者ではなく卑怯者がすることです」
「テメェっ」
憎悪に満ちた目を向けられるが、マリオは少しも怯むことなく言葉を継ぐ。
「本当に強いのは綺麗事を実現できる人です。
某ヒーローも言ってます。
『だからこそ現実にしたいじゃない。ホントは綺麗事がいいんだもん』って。
貴方たちは自分に都合の良い言い訳を盾にして逃げているだけだと思いますよ」
「俺たちはっ」
マリオの言に彼らは悔し気に顔を歪めて言い返そうとするが。
「面白れぇ話をしてるじゃねぇか」
「む、虫人っ!」
木の陰から現れた飛蝗族の姿に4人の顔に明確な恐怖が浮かぶ。
「強い奴が成功して弱い奴はその糧にされるだったか?なら此処で俺がお前らを喰っても文句はねぇよな」
ニヤリと笑って近づいてくると飛蝗族に彼らから血の気が引いてゆく。
虫人の馬鹿馬鹿しい程の強さはこの世界では有名だ。
空腹時の彼らに出会ったら、まず命はないと言われている。
「おい、そこのお前」
「僕ですか?」
「おう、こいつらに巻き付いてる草を取ってやれ。抵抗も出来ねぇ奴らを喰っても面白くねぇからな」
「分かりました」
頷くなり4人を戒めていたイバラがシュルシュルとマリオの下に戻ってゆく。
「おら、何ぼさっとしてんだ。武器くらい構えろよ」
「ひ、ひぃぃっ!」
ドンと足を踏みしめて威嚇する飛蝗族に、全員が腰を抜かしたように地に座り込む。
「弱い奴から死んでゆくんだろ。此処で死んでも弱い自分を恨めってのがテメェの言い分だったよな」
「た、助けてくれっ」
「お願い、見逃してっ」
「お金ならあげるわっ」
「何でもするっ」
歎願を口にするばかりで立ち上がろうともしない相手に飛蝗族から呆れの視線が送られる。
「ケッ、意気地のねぇ奴ばかりだな。さんざん低ランクの者らに自分らが強いって威張って無体な真似ばかりしてきたんだろ。なのに自分たちがその立場になったら恥も外聞もなく命乞いかよ」
嘲りの言葉を刷くと、やめたと飛蝗族は頭を振った。
「こんな性根の腐った奴らじゃ喰っても美味くなさそうだからな」
その言葉にホッと安堵の息を吐いた4人だったが、次に紡がれた言葉に真っ青になる。
「だがこのまま見逃すってのも間尺に合わねぇ。腕の一本も喰い千切っとくか」
近付いてくる飛蝗族が堅固な顎を見せびらかすように大きく口を開く。
その様に一つ所に集まっていた4人から悲鳴が上がり、特に女たちは失神寸前だ。
「だったらこうしませんか」
絶妙のタイミングで掛けられた声に近付いていた足が止まる。
「道に外れた行いは二度としないと誓ってもらうんです」
その言葉に縋り付くように剣士が声を上げた。
「わ、分かった。もう卑怯な真似はしないっ」
「ちゃんと言うことを聞くわっ」
続いた魔術師の言に他の2人もコクコクと何度も頷く。
「ハッ、こいつらの誓いなんてその場限りに決まってる。俺の目が届かなくなったらすぐにまた同じことを繰り返すだろうぜ」
「そ、そんなことは…」
必死に首を振る剣士を信用ならないと見下ろすが、継がれた言葉に後を振り向く。
「なら必ず誓いを守ってもらうようにしましょう。…アタランテ」
呼びかけに応じ、動き出したイバラが4人に近付く。
「痛っ」
「な、何っ?」
イバラにあった棘が彼らの頭に突き刺さる。
しかし痛みは一瞬で、すぐに消えてしまう。
何だったのかと訝る4人だったが、続けられた言葉に驚愕と恐怖に支配される。
「あなた達の頭の中にアタランテの棘を打ち込みました。
誓いを破ると棘が動いて酷い頭痛を与えます。それを無視して理不尽なことを続けると最終的には死んでしまいますから気を付けて。
僕の故郷で有名な孫悟空というお猿を改心させた緊箍経って道具と同じです。おかけで悟空は立派な僧の弟子になれました。皆さんも頑張って下さい」
「ふざけるなっ!」
笑顔で綴られた話に思わず盾師がマリオに殴りかかるが…。
「イッデェェッ!」
たちまち頭を抱え、その痛みに悶絶することになる。
「効き目はバッチリみたいですね。アタランテは他の植物と意思の疎通が図れますから監視体制は完璧です」
ニコッと浮かべられた笑顔と蹲る盾師を見比べて他の3人は顔を引き攣らせた。
「オラ、今日のところはこれで見逃してやる。さっさと行けよっ」
シッシッと手を振られ、まだ痛みに呻く盾師を連れた一行は転がるようにセーフエリアを出て行った。
「お見事です、我が王」
彼らの姿が見えなくなるなり上機嫌のイツキが姿を現した。
「聖女が伝えた『オーカエチゼン』の話にある悪人退治のようで、見ていてスッといたしました」
このシナリオを書いたイツキは楽しそうだが、当のマリオとリョクは揃ってゲンナリした顔をする。
「名奉行っていうより悪代官の気分なんだけど」
「オウ、俺なんか思いっきり悪役じゃねぇか」
もっとカッコイイ役が良かったぜとボヤくリョクの隣で、でもとマリオが少し悲し気に口を開く。
「彼らも最初は此処に来る前に会ったヤグ君達みたいに純粋に強くなることを望んでいたはずなのに、何処で道を間違えてしまったのかな。これをきっかけに改心してくれるといいけど」
「へっ、お前が気に掛ける必要はねぇさ。真面になるか、このままか。どう転ぶかは奴ら次第だしな」
尤もなリョクの言葉にマリオも小さく頷く。
その時、視界の端にコソコソと動く影が映った。
「あれって…」
影が動いた方を見れば、木の陰に隠れる木…というレアな姿を発見する。
しかし隠れてる幹より当人の方が太いので思いっきり意味がないが。
気のせいかこちらを心配そうに窺ってるように見える。
「あの…何か用?」
静かに声をかけるとビクンと全身が大きく震える。
そのままオズオズと木の陰から顔を覗かせたのは木の妖魔であるトレントだった。
幹の中央に入った罅割れ。
けれどよく見ればそれがトレントの顔だと分かる。
へにょんと下がった目尻は愛嬌があってカワイイなとマリオは笑みを浮かべた。
「良かったら近くに来てもらえるかな」
そう呼びかけると太い根っこを器用に動かしてこちらにやってくる。
すると腕にたくさんの黄金色の果実が抱えられているのが見えた。
「これ、僕に?」
ドサリと風呂敷の上に置かれた実を眺めながら問い掛けると、ぶんぶんと枝を揺らして肯定してくる。
「我が王が気落ちしていることを感じ取り、元気を出して欲しく持ってきたようです」
イツキの言葉に驚いてから、すぐにマリオに笑顔の花が咲く。
「美味しそうな果実をありがとう」
太い幹を撫でながらお礼を言うと。
プルプルと震えた後、凄いスピードで少し離れた場所に行ったと思ったら枝や幹を大きく揺らして喜びの舞を踊り出した。
リアルダンシングフラワー再び…いや、この場合はツリーか。
「いただきます」
もらった実の前で手を合わせてから一口齧ってみる。
「美味しいっ」
さっぱりとした甘みとシャリシャリした食感が梨を連想させる。
喜ぶマリオの姿に満足気に頷くと、トレントは大きく枝を振って森の中へと帰って行った。
「たくさんもらっちゃったけど…でもこれってレグルの実だよね」
御裾分けと渡された実をリョクとタマが嬉々として食べる様子を眺めながらマリオが呟く。
山を成す黄金色の実はダンジョン、それも限られた場所にしか生らない貴重品で、しかも最上級回復薬の主原料でもあるので高額で取引されている。
「気にせずもらっとけ。お前のリュックの中なら腐ることもねぇだろ」
「そうだね」
せっかくのトレントの厚意を無下にする気はなく、マリオはレグルの実をリュックにしまう。
「んじゃ、探索再開だ」
楽し気に宣言してからリョクはサボに向き直る。
「で、階段はどっちだ?」
「ムー」
タマの頭上にいるサボが左方向を指差す。
「ちゃっちゃっと進むぞっ」
そう言ってセーフエリアを出てすぐに巨大な蠅に似た妖魔が頭上から襲ってきたが…。
「邪魔だぁっ」
「ガウッ」
脚に風を纏わせたオーバーヘッドキックと冷気に満ちた爪の斬撃に簡単に殲滅させられる。
「へっ、一昨日きやがれっ」
「ガルッ」
「まあ、楽しそうで何よりだよ」
揃ってドヤ顔を浮かべる2人の後を付いてゆきながらマリオは軽く肩を竦めた。
評価、誤字報告をありがとうございます。
おかげさまで評価が 600ptになりました。
本当に感謝に堪えません。
「40話 ダンジョンと黒の使徒」は土曜日に投稿予定です。
これからも楽しんでいただけるよう頑張ります。




