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緑の王さま異世界漫遊記  作者: 太地 文
38/94

38、古代植物と己惚れ


「おっ、今度はゴーレムか」

 上に続く階段近くにいたのは3mを超す岩の塊、ロックゴーレムだった。

濃い魔素により無機物が妖魔化したゴーレムは明確な意思は無く、近付く者を殲滅するだけの存在だ。

マリオ達の存在に気付き此方にやって来る。

どうやらこのゴーレムが20階層のボスのようだ。


「僕が相手をしてみるね」

 そう言うとマリオは握っていたクルミ大の種をゴーレムに向かって投げ付ける。

「頼んだよ、ラフレア。【成長】」

 マリオの声に応えて種が芽吹くと爆発的に葉や茎が伸びてゆき、着地した時にはゴーレムに負けぬほどの大きさになっていた。

伸びた太い茎の先に開いたのは…巨大な口を持った赤紫の花だった。


 突然、目の前に現れた敵にゴーレムが軋みを上げて襲い掛かる。

振り上げられた大岩の拳。

しかしそれはすぐに消滅する。

バリボリと音を立ててラフレアが咥えたゴーレムの腕を噛み砕いてゆき、そのままゴクリと飲み込んでしまったからだ。

「うーん、さすがは『暴食の大華』の称号を持ってるだけあるな」

 なんでも食料にしてしまう特性にマリオは感心仕切った声を上げる。


やがて奮闘むなしくゴーレムはラフレアのお腹の中へと消えてゆき。

ケプッと魔石を吐き出し満足そうに葉を振るラフレアにマリオが声をかける。

「ありがとうね」

 礼を言うマリオに、いいってことよーとばかりにラフレアが上機嫌で身体を揺らす。

「そう言えばこんな風に踊る花のオモチャが昔あったな」

 クスリと笑うとマリオはその葉を撫でながら言葉を継ぐ。


「戻ってゆっくり休んで。【退行】」

 するとラフレアの姿がどんどん小さくなってゆき、元の種へと戻る。

「お疲れ様」

 労わるようにそっと種を腰の袋に戻すマリオにリョクが声をかける。


「どうだ、レベルは上がったか?」

「うん、ゴーレムが消えた後にレベルアップの声が聞こえたから」

 頷きながらステータスを確認してみると。


 Lv.29

 HP 680/680

 MP ∞


に変わっていた。


「おし、この調子でどんどん行くぜっ」

 そう意気込むとリョクは目の前の階段を駆け上がる。



「ん?先客か」

 21階に着くと奥で4人組のハンターチームが戦闘の真っ最中だった。

「剣士に盾役、弓師と魔法師か。バランスが取れてるな」

 リョクが言う通り前衛の男2人と後衛の女2人はチームワーク良く敵であるメタルゴーレムに巧みに攻撃を加えている。


「仕方ねぇ。また人族に擬態するか」

 面倒臭そうに呟くリョクに、いいんじゃないとマリオが声をかける。

「此処は街中じゃなくダンジョンだもの。姿を変える必要は無いと思うよ。

それにこの辺りまで来れるハンターなら虫人を怖がったりはしないでしょ」

 マリオの言葉に、それもそうかとリョクは飛蝗族の姿のまま進んでゆく。


戦闘の邪魔をしないよう気配を消しながら進むと、ドラム缶と同じ太さの毛虫の集団に出くわした。

「チッ、奴らは毛に毒があるからな。迂闊に近づくんじゃねぇぞ」

 リョクの言葉に頷いて距離を取るマリオの前にタマが進み出る。

「タマ?」

 小首を傾げるマリオに、此処は任せろとばかりに毛虫たちの前に立ちタマは大きく口を開けた。

「ガァァッ!」

 咆哮と共に放たれたアイスブレス。

その威力は凄まじく、たちまち毛虫たちが氷の中へと閉じ込められる。

どうやら霊獣に進化したことでさらにパワーアップしたようだ。


「へっ、やるじゃねぇか」

 肩を竦めたリョクが氷の塊に軽く拳を打ち付けると簡単に亀裂が入り、次には大音量と共に粉々に砕けてしまう。

後には多くの魔石と毒針が残るばかりだ。


「ムー」

 しばらく進むとサボが前方を指さした。

見ると示した方角に結界石で囲まれた小さな広場が見える。

「丁度いいから休憩して行く?」

「そうだな、小腹も空いたことだしな」

 大きく頷くリョクと共にセーフエリアへ足を踏み入れると、マリオはリュックから150cm四方の布を取り出した。


「菓子屋の姉妹からもらった奴か?」

「うん、和風の柄が素敵だねって言ったら同じ物を探してプレゼントしてくれたんだ」

 淡い緑の地に白く花唐草文様が浮かぶ大風呂敷を見つめるマリオに、ところでとリョクがその上に腰を下ろしながら聞いてきた。


「ジジイが種をくれた時に話したことだがよ」

「確証とかは無いけど、黒の魔王の呪いがゼムさんだけに掛けられたとは限らないんじゃないかってのだよね」

「おう、そいつはマジで有りそうなのか?」

 呪いによる魔力の暴走と瘴魔化…それが他でも多発的に起こったら、世界が滅びる程の惨事となる。


「聞いた話だけだけど魔王って頭の切れる合理的な考えの持ち主らしい。その目的が大量虐殺だとしたら、時限式の呪いをあちこちに掛けておいても不思議じゃないでしょ」

「確かにそうだがよ」

 考え込むリョクを前にして、だからとマリオは言葉を継ぐ。

「イツキに頼んで少しでも異変があったら報せてくれるように植物たちにお願いしたんだ。それならすぐに対応できるから」

「お任せください」

 マリオの言葉を受け、姿を現したイツキが胸に手を当てて頭を下げる。


「他の精霊王様や王君にも注意喚起を促しましたので、大事には至らないかと」

「おう、さすがは女神さまの加護が賢者だけはあるぜ」

 感心するリョクに、何もないのが一番だけどねとマリオは肩を竦めた。


「それよりお茶にしよう。お茶請けは何がいい?」

 雰囲気を変えるように明るくマリオが声をかけると。

「そうだな…肉まんとチリドックとハンバーガーを5個づつくれ」

「…それってお茶請けってレベルじゃないよね」

 相変わらず旺盛なリョクの食欲に苦笑しつつ、マリオはリュックから言われた品を取り出してゆく。


「先程遭遇したハンターたちですが、此方を目指して移動して来ております」

 並べられた食べ物を次々と口に入れてゆくリョクの隣で、タマやサボにフルーツケーキを分けているマリオにイツキが声をかける。

「ま、この階じゃ休めるのは此処くらいだろうからな」

 リョクの言葉に頷いてからイツキはそのハンターたちについての話を始めた。



「これで今回の依頼は完了だぜ」

「苦労させられたけど、これで一人当たり金貨5枚の儲けよ」

「早速、春物のドレスを新調しなきゃ」

「俺は新しい盾、それもミスリルの奴を買うぞ」

 意気揚々とセーフエリアにやって来た『勇猛の戦士たち』一行だったが、エリア内にいる先客に揃って眉を寄せた。

見慣れぬ柄の布を敷き、その上で仔猫を膝に乗せお茶を飲んでいる茶髪の男。

いや、男と言うより年頃は少年に近い。

しかもその優男な容姿はとてもダンジョンでの荒事に向いているとは思えない。


「あ、こんにちは」

 一行に気付いた相手が、ふにゃんとした笑顔を向けて挨拶する。

「小僧、こんなところで何してるっ」

 Bランクの自分たちですら此処に来るまでかなりの苦戦を強いられた。

おかげで自慢の装備の損傷も激しい。

それなのに無傷、しかも余裕たっぷりに茶を飲んでる様が酷く癇に障る。


「友人を待っているんです」

 その答えに弓師の女が鼻で嗤って口を開く。

「ああ、そのお友達に此処まで連れて来てもらったわけ。まるで寄生虫だわね」

 自分たちより弱い存在が実力でこの階に来たとは思えない。

ならば何か不正な方法でやって来たに違いない。

苦労した分、彼らはそのことに強い怒りを覚えた。


「もしかして待ってるは友人じゃなくて御主人様じゃないの?」

 蔑む眼差しを向ける魔術師の女の言葉を受けて、盾役の男が怒りも露わに睨み付ける。

「荷物持ちの奴隷か。オラどけよ、此処は奴隷がいて良い場所じゃねぇんだっ」

 しかし盾役の怒号に怯えることなく彼は平然と言葉を紡ぐ。


「僕は奴隷ではないですよ」

「うるせぇ!お前がなんだろうと関係ねぇ。目障りなんだよっ」

 声を荒らげる盾役に向かい、小さなため息を吐いた口が言葉を綴る。

「そうやって格下認定した相手を蔑んで粗略に扱うのは止めた方が良いですよ。

『大仕事を成功させた後は、いつも人を避け、身を隠す事を命じる』

僕の故郷の聖書って書物に有る言葉です。

これは成功は多くの人力によって支えられている事を悟り、常に慎み深く在り、調子に乗ってはならないという教えなのだと思います」

 しかしその忠告は彼らの怒りを買っただけだった。


「生意気なことを言うんじゃないわよっ」

「そうよ、さっさと出てきなさいっ」

「でも此処を離れたら妖魔に襲われるかもしれません」

 相手の言葉に、知ったことかと剣士が言い捨てる。

「此処じゃ弱い奴から死んでくんだよっ。恨むなら弱いテメェを恨めっ」

 そう言い捨てると剣士は強引に相手を退かそうとその肩に手をかけるが…。


「うわぁぁっ!」

 触れた途端、剣士の身を鋭い棘を持ったイバラが絡め捕る。

他の3人もマリオを敵認定して攻撃を仕掛けるが。

「きゃぁぁっ」

「クソォォっ!

「いやぁぁ」

 こちらも簡単にイバラに捕らえられ、まったく身動きが取れなくなる。

「イツキの話の通りだね。此処まで傍若無人なのも珍しいな」

 やれやれとばかりに首を振るマリオの脳裏に、いつか読んだ本の話が甦る。


『自分より優れている者に対する嫉妬という感情を認めず。

認めれば自分が惨めになるため相手が悪いと思い込む。

自分は悪い奴に対して怒っているという感情にすり替えて正当化する。

つまり自分が今、どんな感情になっているかを見失い、自分の都合のいい感情にすり替えてしまう。

「いじめる側は感情のすり替えで行動を正当化している」

いじめの理由はいじめる側にある』


「程々にね、アタランテ」

 そうマリオが声をかけると、その背後から蜘蛛に似た姿のイバラの塊が姿を現す。

「な、何だそれはっ?」

 顔を引き攣らせる剣士に、ああとマリオは背後のイバラを紹介する。

「この子は古代植物のアタランテですよ。『攻守の堅茨』の称号を持っていて、称号通り攻めも守りも完璧にできる凄く優秀なイバラなんです。

迂闊に動くと攻撃対象に認定されてしまうから気をつけて下さいね」

 剣やナイフを必死に振り回してイバラを断ち切ろうとしていた4人の動きが、その言葉にピタリと止まった。


 

「彼らはランクがBと実力はありますが心根は上等とは言えず。自分達より格下と認定した者を馬鹿にし、理不尽な扱いをするため、かなりの数の被害者が出ております」

 セーフエリアで寛ぐマリオ達の前でイツキが『勇猛の戦士たち』の事を口にすると、ケッとリョクが忌まわしそうに言葉を返す。


「大した失敗もなく順調に来た奴ほど自惚れて、自分たちが偉ぇと勘違いする。

そうやって付け上がった奴は、自分ら以外はゴミ屑だと本気で思ってんのさ。

ま、そんな奴ほど転がり落ちるのも早ぇがな。

虫人にもそんな奴らがゴマンといたぜ」

 リョクの話にマリオはどうしたものかと考え込む。


「放っておくとさらに被害が増えると分かっていて見て見ぬふりってのは心苦しいかな」

 マリオの正直な感想に、ではと何故か楽しそうにイツキが言葉を綴る。

「まずは忠告をして、その後どうするかを決めては?」

 何かを企んでいると丸分かりのイツキに、マリオは猜疑の目を向ける。

そんなマリオの視線の先でイツキが嬉々として言葉を紡ぐ。

「このようにしてはいかがでしょう」

「それって…」

「お前の趣味全開じゃねぇか」

 告げられた計画に呆れ返るマリオとリョクだった。




お読みいただきありがとうございます。

「39話 反省だけならエイプでも出来る」は火曜日に投稿予定です。

楽しんでいただけましたら幸いです。

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なんか人の名言ばかりなのがちょっと萎えます
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