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緑の王さま異世界漫遊記  作者: 太地 文
36/94

36、覚悟と初ダンジョン


イツキの話ではアリアナはテルマン侯爵家の令嬢として生を受けた。

国一の美女と名を馳せた祖母に似た容姿に両親や周囲の者は(こぞ)って彼女を

可愛がり、常に褒め称えて育てた。

しかしそんな彼女の優位を脅かす存在が現われた。

2つ下の従妹であるタニアーヌだ。

同じように祖母に似た容姿だけでなくタニアは魔法の才にも恵まれ、成長と共に

誰からも一目置かれるようになった。


似た容姿のアリアナとタニアは何かにつけて比較され続けていたが、彼女が宮廷

魔導士に就任したことで、最近ではアリアナがタニアの引き立て役の立場に置かれ

ることが多くなってしまった。

誰よりも美しく誰よりも気高い自分が誰かの下に置かれるなど、あってはならない

ことなのにと彼女は憤慨し周囲に当たり散らす日々を送っていた。


これは彼女だけでなく、周囲にも責任があるとマリオは思う。

確かに美人ではあるが…それ故に蝶よ花よとばかりに甘やかして育てたのだろう。

『貴女は可愛い』『貴女が一番だ』と言われ、愛でられることを当たり前として

来た彼女にとってタニアより下に見られることは屈辱以外の何物でもない。

それを打破する手段として考えたのが七王君の妃という立場。

妃になれば誰もが自分の足元に平伏すと本気で信じ、その為に父親の侯爵に無理を

言って水の王への使者に選ばれたタニアに強引に同行してきたのだ。



「そうまで言う貴女は七王の妃になる覚悟がありますか?」

「覚悟?」

 マリオの問いにアリアナは首を傾げた。

七王君の妃となり、その権力を使い社交界に君臨することしか考えていなかった

アリアナは訳が分からないといった顔をした。


王の妃なんて皆に(かしず)かれ、好きなことをしながらいつまでも美しく着飾っていれば

良いだけ。

それにいったい何の覚悟がいるのかと、訳が分からずアリアナはマリオの顔を見返した。

「七王の妃になりたい人は貴女だけじゃありません。

貴女がなったら、次々となりたい人が僕らの下に押し寄せて来るでしょう。

世界を守る王としてウェルテリア貴族である貴女だけを優遇するわけにはゆきませんから、やってきた各国の人を妃として迎えることになるでしょう。

でもそうなったら貴女はすぐに死んでしまうと思いますけど」

「なっ!」

 思いもよらない言葉にアリアナは驚きの声を上げた。


「な、何故わたくしが死ななくては…」

「みんな貴女と同じだからですよ」

「え?」

「自分より上にいる者が許せない。そう思えば第一の妃となった貴女を消そうと

するのは自然なことじゃないですか?」

「確かになぁ、群れでの一位の奴は常にその座を狙う挑戦者って刺客との戦いの

毎日だからな。どんなに強ぇ奴でも隙を突かれりゃすぐに死ぬしな。

ま、それくらいの覚悟がなきゃ頭なんてやってられねぇが」

 リョクの言にマリオも大きく頷く。


「妃になりたい人は国の威信と利益確保って役目を負ってるからね。

そうなると邪魔者を消すことに迷いはないだろうし」

 続けられたリョクとマリオの言葉に漸くアリアナもそのことに思い至った。

目の前の宝物ばかリ追いかけて妃になることのリスクを失念していたのだ。


第一位の妃となればその地位を望む者に命を狙われる。

暗殺者の襲撃に怯え、口に入れる物、手に触れる物、そのすべてに毒が仕込まれて

いるかもと常に神経を尖らせる日々。

しかもどんなに優秀な護衛であっても完璧に守り切れる保証は何処にもない。

「ま、せいぜい死なねぇように頑張ってくれよな」

 暢気な声でのリョクの励ましに、アリアナは自分の考えの甘さに真っ青になった。

浮かれるばかりで、そこまで深く考えていなかったのだ。


「冗談ではないわっ。何故わたくしがそんな目に遭わなくてはならないのっ」

 七王の妃になりたいとは思ったが、自分の命を賭けてまで欲しいものでは

決してない。

「そんなこと御免だわっ。この話は無かったことにしてっ!」

 叫ぶなりアリアナはドレスの裾を派手に(はだ)けさせて一目散に部屋を飛び出して

いった。


その様にタニアは唖然とした表情を浮かべる。

あの従姉を納得させて帰すのは至難の業と、タニアは説得は長期戦になると思っていた。

しかし緑の王君は、あっさりとそれをやってみせた。

それも『覚悟』のたった一言で。

その聡明さにタニアは畏怖に近い思いでマリオを見つめる。


「おいおい、来た時もいきなりなら帰る時も挨拶一つ無しかよ」

「も、申し訳ありません」

 呆れるリョクの前で、我に返ったタニアが深々と頭を下げる。

「アリアナのご無礼、平に御容赦を。償いはわたくしが…」

「必要ないですよ。貴女は何も悪くないのだから」

 優しい言葉に思わずタニアの瞳に涙が浮かぶ。


幼い頃からアリアナの我が儘に振り回され、困らされてきた。

我が儘を諫めても『わたくしに嫉妬してそんなことを言うのね』と泣き喚くばかり

で、そうなると逆にタニアが周囲から咎められた。

だからずっと距離を置いていたのに、今回の使者の件を知ると一行に加わりたいと言ってきた。

断ろうにも侯爵である伯父に頭を下げられ…承諾するしかなかった。

二王君に会いたいと言われた時も断ったが結局押し切られてしまい、お二方に御迷惑をかけてしまった。

そんな自分の不甲斐なさが悔しくてならない。


「謝ることは無いけど反省はした方がいいですね。

それが貴女の優しさからくるものだとしても、相手に遠慮して言いたいことを飲み込むのは、問題を先延ばしにして逃げているだけだから」

「あ…」

 その言葉にタニアは顔を伏せた。


確かにマリオの言う通り、揉め事を起こすのが嫌でいつもアリアナの我が儘を受け入れてしまっていた。

どんなに嫌味を言われようが、泣き叫ばれようがきちんと断れば今回のようなことにはならなかった。


「僕も昔、面倒を嫌って人とちゃんと付き合わなかった時期がありました。

でもそんな時、こう言われたんです。

『嫌われる覚悟を決めるんだな。全員に好かれるなんて無理な話だ。

誰かにとっての良い奴は、誰かにとっての悪い奴。

誰かに好かれるという事は誰かに嫌われるという事だと思って諦めろ。

どうでもいい存在になれば誰にも嫌われないが、好かれも嫌われもしない存在なんて嫌だろう?』って。

それからは言いたいことはちゃんと言うようにしたんです」

 小さく頷くとタニアは毅然と顔を上げた。


「アリアナは周囲に当たり散らすことで嫌なことから目を背けてきました。

でもわたくしは黙り込むことで逃げ、勝手に他人のステータスを覗き見てその憂さ晴らをしていた…さらに最低な者です。

だからこそこのままではいけないと思い知りました。

わたくしも嫌われる覚悟を決めます。アリアナのことだけでなく面倒だと逃げずにきちんと問題と向き合います」

「ええ、頑張って下さい」

 決意をその瞳に宿すタニアをマリオは笑顔で見返した。




「此処がダンジョンなんだね」

 子竜車から降り立ったマリオは目の前に聳え立つ巨大な塔を見つめた。

ダンジョンと言うと洞窟を思い浮かべるが、此処ロクサスのダンジョンは上に行くほど攻略が難しい天空型だ。

全部で50階層あるが、今のところ39階層までしか攻略されていない。


「俺としちゃぁ地の中は苦手だから天空型は大歓迎だぜ」

 湿気を苦手とするリョクが楽しそうに蔦の絡まる石の塔を見つめる。

「此処はゴーレムと虫系、それに植物系の妖魔が良く出るんだよね」

「おう、腕がなるぜ」

 意気込むリョクに、ですがと姿を見せたイツキが口を挟む。


「我が王ならば植物系の妖魔は敵にはならないかと」

「あ、やっぱりそうなるんだ」

「はい、我が王はすべての植物の王で在らせられます。妖魔と言えど例外ではありません」

「チッ、まあいい。他の奴らで我慢しとくぜ」

 戦う気満々のリョクはそう言うと塔の近くにあるギルドの出張所に向かって行く。


「ようこそ、ロクサス天空ダンジョンへ」

 笑顔で迎えてくれた受付嬢にマリオとリョクはそれぞれのカードを手渡す。

此処で登録しないとダンジョンに入ることが出来ないからだ。

「ダンジョンは初めてですか?」

「ええ、注意事項とかがあれば教えて欲しいんですけど」

 マリオの問いに受付嬢が頷く。 


ダンジョン内では基本、早い者勝ち。

獲得品は先に戦っていたハンターに所有権が有る。


ダンジョンでの戦闘の阻害及び獲得品の横取りは禁止。

違反した場合、厳罰に処される。


「他にハンター同士の戦闘も禁止されています。

ですがギルドがハンター同士の揉め事に介入することはありませんので、そこは御了承下さい。

違反しない限りは後はお好きなように攻略していただいて結構です。

ですが命は一つしかありませんから、くれぐれも無理はしないでください。

無事のお帰りをお待ちしております」

 頭を下げる受付嬢に礼を言ってマリオ達はダンジョンに向かった。


「食料は此処に来る前にいっぱい仕入れたし、飲み水は水筒があるから良し。

テントに薬関係も大丈夫っと」

 念の為、持ち物チェックをするマリオの横でダンジョンの様子を窺っていたリョクが少しばかり眉を寄せて口を開く。


「此処でもタカリが横行してやがる」

「タカリ?」

 首を傾げるマリオに、ああとリョクは離れた所にいる一団を顎で指し示す。

そこには十代と思われる若い3人組の男女に年嵩の4人の男が何やら詰め寄っていた。

「守ってやったんだから分け前を寄こせだとよ」

 人族に擬態していても聴覚の鋭い虫人であるリョクが、彼らの会話を拾って教えてくれる。


「後をついてきただけで何もしてない奴に渡すものはねぇって言い返してやがる。

若いがしっかりしてるぜ」

 3人組のリーダーらしき少年をリョクが褒めた時だった。

いきなり先頭の男が少年を殴りつける。

どうやら口ではなく力で捻じ伏せることにしたようだ。


辺りを見回すが、誰も彼らの暴挙を止めようとしない。

「一応は横取りじゃなく助勢の報酬要求ってやつだからな。取られて悔しいなら

強くなって取り返すしかねぇ」

「それが此処の流儀なら部外者の僕が口を出す訳にはゆかないけど」

 言いながらもマリオは得物の殆どを奪われ消沈する3人の元へと足を向けた。





お読みいただきありがとうございます。

「37話 初エルフと天空ダンジョン」は火曜日に投稿予定です。

楽しんでいただけましたら幸いです。

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