表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緑の王さま異世界漫遊記  作者: 太地 文
35/94

35、鑑定対策と七王の妃


「ところでゼムさん。相談があるんですけど」

「ん?何じゃ」

 お好み焼きを嬉しそうに口に入れて振り向いたゼムに、マリオが右手の紋章を見せながら此処に来る前にあったことを話す。


「ふむ【鑑定】か、確かにそれは厄介じゃな」

「ええ、王であることを隠しても鑑定をかけられたらお終いですから、どうにか出来ないかなって」

「そうじゃのう…」

「だったら隠蔽の魔道具を使ったら」

 マリオが出してくれたエナ大福を満面の笑みで食べていたカリーネが、そう提案してくれた。


「それは良い。そういった魔道具なら…」

 言いながらゼムはローブのポケットから小さな袋を取り出す。

「貢物として無理やり渡された中にあったはずじゃ」

 どうやら高性能なマジックバックらしい袋の中に手を突っ込むと、2つの魔道具を取り出した。


「望んだものを隠蔽出来る魔道具じゃ。今はその製造法が失われた五百年前の遺物じゃが性能は折り紙付きじゃぞ。まず見破られることは無いじゃろ」

 得意げにテーブルに置かれたのは鮮やかな赤のバングルと銀のメダル型のペンダントだった。


「しかも心の中で願うだけで隠したいものを隠せる仕様になっとる」

「便利ですね」

「いいじゃねぇか、こいつがあればエルフ共に遭ってもうるさく付き纏われることもねぇ訳だ」

 感心するマリオと上機嫌なリョクが、それぞれ気に入った方を手に取った。


「俺は戦いの邪魔にならねぇコイツにするぜ」

 左腕に着けられた赤いバングルはリョクに良く似合っている。

「じゃあ僕はこっちのペンダントにするね」

 装着すると手にあった緑の王の紋章が消えた。

「本当に隠れた」

 その効力に驚きながらマリオは疑似ステータスを思い描いてモノクルで自分を鑑定してみる。



マリオ・タチバナ

 24歳


 Lv.27

 HP 580/580

 MP ∞


〈魔法〉 

  『草木魔法』


〈スキル〉

  『言語理解』

  『交渉』

  『剪定』

  『造園』


〈称号〉

   幸せを呼ぶ庭師

   名言を与えし者

   リバーシー名人


〈加護〉

   なし

   


「こっちも消えてる。でも何でか称号が増えてるしレベルも上がってるな」

 どうやらゼムの呪いを解く行為が戦闘と見做されたようだ。

「良かったじゃねぇか。レベルが低いとちょっとしたことで簡単に死ぬからな、高いに越したことはねぇ」

 リョクの言葉に頷いてからマリオは少し考えて口を開く。


「迷惑じゃなかったらレベル上げの為にリョクさんに付いて僕もダンジョンに行ってみようかな」

「おう、俺は構わねぇぜ。ガンガン鍛えてレベルを上げてやるからな」

 意気込むリョクに、お手柔らかにと苦笑を返すマリオの横でゼムも賛成の声を上げた。


「うむ、このまま旅を続けるのなら王と言えど自衛手段くらいは持った方が良いからの」

「だったら…そのグローブを貸して」

 可愛らしく両手を揃えて出されたカリーネの手の上に、マリオは焦げ茶のグローブを乗せる。

それをしっかりと握りしめてカリーネが小さな声で呟く。


「魔石に宿る土魔法に土の王カリーネの祝福を」

 呟きが終わると手にあったグローブから淡い光が放たれる。

「これで土魔法のランクが上がったから使える魔法が増えたわ」

「ありがとう、カリーネさん」

 はいと渡されたグローブをマリオは嬉し気に手に嵌める。


「ならばワシも助けてもらった礼をしようかの。そうじゃ、同じ水の眷属たるその氷虎が良いじゃろ。緑碧はどうする?」

「俺は大したことはしてねぇからいらねぇさ」

 その言葉に笑みを浮かべて頷くとゼムはタマの額に手を翳す。


「ニャッ?」

 小首を傾げたタマに向かいゼムは水の魔力を集めてゆく。

「水の王の名の下に彼の者に祝福を授ける」

 その言葉が終わるなり、集められた魔力がタマの額にある青い石に吸い込まれた。

「にゃおぉぉっ!」

 光に包まれ力強い声を上げるタマの姿が仔猫サイズから3mの大きさになり、額の石は蒼い小さな角になった。

その身から発せられる気も神々しい物に変わる。


「タマ?」

 その変化に驚きつつモノクルで鑑定すると、種族が妖魔の氷虎から霊獣の氷雪虎へと進化していた。

「その力で主たるマリオを守るのじゃぞ」

「ガウッ」

 ゼムの言葉にタマは大きく頷いた。



 

「それじゃあ、いろいろお世話になりました」

「それは此方のセリフじゃ。ありがとうの」

 頭を下げるマリオに、ふぉふぉふぉとゼムが大樂かな笑みを返す。


 夕食会が終わった後、宵闇が迫ってきていたので勧められるままゼムが住む(ほこら)に向かったのだが。

残念ながら祠の壁は隙間から水が流れ込んできていて、カエルであるゼムには最高の環境だが、マリオと湿気が嫌いなリョクが泊まるのは無理だった。

そこでマリオは祠の近くにゴーザで買ったテントを張り、リョクは木の上を(ねぐら)として一夜を明かすことにした。

余談ながらモグラであるカリーネは、当然のことながら一番落ち着く土の中で就寝したのだった。


「達者での」

「おう、またなっ」

 朝日の中、去ってゆくマリオとリョクに大きく手を振りながらカリーネが叫ぶ。

「良かったらアイラリスにある私の土の里にも来てねっ」

「ありがとうっ、寄らせてもらうね」

「それまでに『私なんか』って口癖を無くしとけっ」

 返ってきた答えにカリーネは笑顔で頷いた。


「ダンジョンに行く前にタニアさんに瘴気が消えたことを教えないと」

 山並みを越えたところでマリオが思い出したように言葉を綴る。

「面倒くせぇが、仕方ねぇか」

 渋々ながらも頷くリョクに笑みを返してから、マリオはイツキに問いかける。

「彼女が何処にいるか分かる?」

「はい、我が王」

 すぐに姿を現したイツキによると、タニア達一行は出会った場所近くの村に逗留しているとのこと。


「ですが…少しばかりおかしな雲行きになっております」

「え?」

 小首を傾げたマリオだったが、続けられたイツキの話にリョクと共に眉を寄せた。



「えっと…此処かな?」

 村長宅らしき大きな家の前に立ったマリオとリョクは中を覗き込むように大きく伸びをする。

「ミャウ」

 そんなマリオの足に仔猫サイズになったタマがスルリと身を摺り寄せてきた。

抱き上げると嬉し気に喉を鳴らして甘えるタマをいつも通りに肩に乗せるマリオの背後から2つの足音が近づく。


「何をしているっ!?」

 見慣れぬ者を怪しんだ騎士たちが此方に駆け寄ってくる。

「タニアさんに会いたいんですけど」

「姫様に何用だっ!?」

「胡乱な者を近付ける訳にはゆかんっ。さっさとこの場を去れっ!」

 手にした槍の先を此方に向けて威嚇してくる様に、ケッとリョクが悪態をつく。


「言われなくとも消えてやらぁ。それで困るのはそっちだしな」

 そんなリョクを宥めつつ、でしたらと落ち着いた声でマリオが言葉を紡ぐ。

「瘴気の発生は止まりましたから安心して下さいって伝えてもらえますか」

「は?」

「な、何を言っているっ」

 思わず相手を見返した騎士たちは、此処で漸く目の前にいる者の正体に気付く。

前回はすぐに土下座状態になった為、顔はおろか風体を知る間もなかったのだから無理もない話だが。


「それじゃあ」

 固まってしまった騎士たちを尻目に移動を開始したマリオ達だったが。

「お、お待ちくださいっ」

「ご、ご無礼致しましたっ」

 すぐに足元で土下座する2人に阻まれ、その足を止める。

でないとそのまま自決しかねない程、彼らの顔が悲哀に彩られていたからだ。

 

「お待たせしましたっ」

 貴賓室と思われる部屋に通されるてすぐに血相を変えたタニアが部屋へ駈け込んで来た。

「失礼いたしますわ」

 続いて紫の豪奢なドレスを纏ったタニアに似た面差しの妙齢の女性が部屋に入ってくる。

そのまま彼女は値踏みをするようにマリオと人族姿のリョクを見つめ徐に口を開いた。


「お初に御目にかかります。風の陛下、緑の陛下。

わたくしはタニアーヌの従姉でアリアナ・テルマンと申します。

父はカイゼル・テルマン侯爵ですわ」

 ドレスの裾を摘まんで会釈をするアリアナに、横にいるタニアが困り切った表情を浮かべる。


「申し訳ありません。二王君のことは極秘と命を出したのですが」

 頭を下げるタニアに、マリオとリョクは揃って肩を竦めた。

水の王への使者に同行してきたアリアナが、タニアの様子がおかしいことに気付き、無理やりに聞き出した経緯をイツキから教えられていたからだ。

どうやらこの面会にも勝手についてきたようだ。

彼女がそうまでして強引に事を運ぶ理由は…。


「どうぞわたくしをどちらかの妃に召してくださいませ」

「アリアナっ、貴女何をっ」

 その申し出にタニアは大いに慌て、マリオとリョウクはやっぱりかと眉を寄せる。


イツキの話では過去に何人かの王が伴侶を迎えたことがあるそうだが、不老である王と普通に歳を取る相手ではやはり上手く行かず。

皆、不幸な結果に終わったという。

その為、今では王が伴侶を得ることは無くなった。

それを知ってか知らずか、後に続いたのは速射砲のようなセールストークだった。


美貌と育ちの良さは社交界でも有名だとか、音楽にも芸術にも秀で家庭教師がこぞって褒め称えている等、マリオ達にしてみたらどうでもよいことを延々としゃべり散らしている。

本来の相手は水の王だったようだが、面会が叶わないゼムより手近なマリオ達に急遽ターゲットを変更したらしい。


「あの…ちょっといいですか?」

 いつまでも終わらない話にマリオがため息と共に言葉を挟む。

「それより瘴気についての話をしたいんですが」

 さすがに国の危機についての話を蔑ろには出来ないようで、渋々だが彼女は口を閉ざした。

「瘴気の発生は無事に止まりました。水の王さまの結界のおかげで他への影響は多くはありませんが、瘴魔が現われる可能性が皆無とはいえないので注意はしておいてください。

それと小麦の発育不良ですけど、それは僕が成長を促しておきますから心配はありません」

 マリオの話にタニアは安堵の息を吐いた。


「ありがとうございます。王には二王君のことは伏せて報告しておきます」

「そうしてもらえると此方も助かります」

「話は終わりでございますね。では引き続き…」

 ニッコリと笑うマリオの言が終わる前にアリアナが割り込んで来た。

その熱心さに感心しながらも、マリオは苦笑を刷いて言葉を紡ぐ。


「僕らは貴女を妃にする気はありません。ですからこれ以上の御自慢は時間の

無駄ですよ」

 素っ気なく断りを入れるマリオに、アリアナの顔がたちまち憤怒で真っ赤に染まる。

「何故ですっ。わたくしほど素晴らしい令嬢はこの世にいませんのに断るなんて間違っていますっ」

「…そのスゲー自信は何処からくんだ?」

 言い切るアリアナにリョクは明確な呆れ顔を浮かべた。


「何故かと問われるならお答えしますけど。アリアナ嬢は機嫌が悪くなると使用人に暴力を振るうのでしょう。鞭で殴られて顔に酷い傷を負ったメイドがいるとか」

「そ、それは根も葉もない噂ですわっ。わたくしは決して」

「アリアナ、もういい加減に…」

 必死に言い返すアリアナを見かねたタニアが制止の声を上げるが、貴女は黙っていてっと逆に睨み返してきた。


「わたくしほど王君の妃に相応しい者はいませんわ。わたくしを選ばないなど許されるはずがありませんっ」

 何故か上から目線でそんなことを喚くアリアナに、マリオとリョクは揃って深いため息をついた。





評価、ブックマークをありがとうございます。

「36話 覚悟と初ダンジョン」は土曜日に投稿予定です。

少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ