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緑の王さま異世界漫遊記  作者: 太地 文
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3、世界樹と話をしよう


「あれって」

 木々の隙間から現われた葉が淡い虹色に輝く天を突くほどに巨大な樹。

ドリュアスの本体である世界樹なのだろう。

その威厳溢れる姿に見惚れているマリオをドリュアスは樹の傍らにある高床式の家へと(いざな)う。


「どうぞお入りください」

「お、お邪魔します」

 年季の入った木造の大きな家のドアを開けて入室を(うなが)すドリュアスにマリオは意を決して中へと足を踏み入れた。


玄関を抜けると、そこは広いリビングのようで中央に木製のテーブルと椅子が鎮座している。

壁には飾棚があり、周囲には簡素だが品の良い調度品が置かれていて、どうやら最近まで誰かが住んでいたようだ。


「まず貴方様が我が主なのは、貴方様が【緑の王】だからでございます」

 傍らの椅子にマリオが腰を下ろしたのを見てドリュアスはゆっくりと口を開いた。

「緑の王って…称号にあった」

「はい、名の通りこの世界のすべての植物の王であらせられます。

ゆえに貴方様は我が主なのでございます」


「ええっ!?」

 ドリュアスのとんでもない話にマリオは大きく目を見開いた。

「ぼ、僕はそんな大それた者じゃないよ。偶然この世界に迷い込んだ、ただの庭師だし」

「迷い込んだ?…主は渡来人だったのですね」

「渡来人?」

 聞き慣れない単語にマリオは首を傾げた。


「異なる世界からこの世界にやって来た方々の呼び名です。

近年では70年前にオライリィ国に現れたカトウという男性が有名ですね。

錬金術に長けた彼はこの世界に『鉄道』という乗り物を紹介し、その生涯をかけて鉄道事業を発展させました。

『無ければ作る。それが鉄オタ魂だっ』というのが彼の口癖でした」

「はあ…」

 呆れとも感心ともつかない声を上げ、マリオは話の続きに耳を傾ける。


「他には120年前にウェルテリア国に出現した『光の聖女』でしょうか。

優れた治癒師であり元のジョブが医師だった彼女は『衛生』という概念をこの世界に奨励し、治癒魔法と回復薬だけでなく手術やリハビリという新たな方法で病気を治すことを広めたのです。

おかげで死にゆく者の数が随分と減りました」

「凄い人だね」

「はい、今でも医療師たちの間では神のごとく崇められております。

ですが残念ながら渡来人はそんな良い方々ばかりではありません」


「何をやらかしたの?」

「200年前にやって来た『黒の魔王』…魔法に長けた彼は自らの心のままに生きることを望み、見境なく殺し、虐げ。

結果、5つの国を滅ぼし、3万を超えた命を刈り取り、悪逆非道の限りを尽くしました。

『せっかく手に入れた力を好きに使って何が悪い』と言って」

「うわぁ…」

 その行いにドン引きながらもマリオはその先を聞いてみる。


「それでその魔王はどうなったの?」

「七王君の一人、火の王によって粛清されました。

王の業火によって焼き尽くされ、最後に『これで終わったと思うなよ。俺を倒してもいずれ第二、第三の俺が現われるだろう』という言葉を残してゆきました」

 テンプレな悪の捨て台詞にマリオは深いため息を吐いた。


女神の言葉通りに現われた時と場所が違っているが、どうやらその3人はマリオと同じエレベーターに乗っていた人達のようだ。



「でも随分と詳しいんだね。まるで見てきたみたいに」

「ええ、実際に見たのは我でなく眷属の木や草たちですが」

「それって…世界中の出来事をドリュアスは眷属経由で知ることが出来るってこと?」

「はい、氷大陸や砂漠のような眷属がいない場所以外でしたら」

 笑みと共にドリュアスが頷く。


「凄いな、刻々とに更新される情報アプリみたいなものだね。

情報戦ではドリュアスに敵うものはいないんだろうね」

「いえ、我と言葉を交わせる者は限られておりますゆえ、活用できねば宝の持ち腐れです」

 そう言ってドリュアスは軽く肩を竦めてみせた。



「ところで魔王を倒した火の王って…」

「この世界には各種族の国王の他に7人の王がおります。

【火の王】【水の王】【風の王】【地の王】【光の王】【闇の王】そして我が主の【緑の王】。

この世界にはすべてに意思があり、それらが具現化したのが精霊と呼ばれるものです。

精霊の主として力を振るい、世界の調和を保つのが七王君の役目です」

「はいぃ!?」

 とんでもない話にマリオは驚嘆の声を上げた。


「いや、マジでそれは何かの間違いだよっ。僕はただの…」

「ですが我が主、その右手に浮かんでいるのは【緑の王】の紋章に

違いありません」

「えっ?」

 言われて自らの右手を見ると、いつの間にやら甲の部分に緑色の魔法陣のような模様が浮き上がっている。

「なっ、いつの間に!?」

 驚いてゴシゴシと左の手の平で擦ってみるが、まったく消える様子がない。


「それこそが我が主が王である証です」

「いきなりそんな事を言われても…王様なんて大役を僕が出来る訳が」

「ご心配なく」

「へ?」

 思い切り首を傾げるマリオにドリュアスが胸を張って言い切る。


「【緑の王】は存在するだけで良いのです。

その身から溢れる魔力は植物たちの成長と進化を促します。

王の役目は多くの植物を育てることなのですから」

「えっと…つまり僕は特に何もしないでいいってこと?」

「その通りです」

 大きく頷くドリュアスにマリオは安堵の息を吐いた。


「良かったよ。いきなり王様ですとか言われてもどうしていいか分からないもの。…さてっと」

 立ち上がったマリオにドリュアスが怪訝な視線を向ける。

「君と話せて楽しかったよ。それじゃ」

 軽く手を上げて歩き出したマリオを慌てた声が止める。


「どちらに行かれるのですっ?」

「ん?そうだな、取り敢えず人里を目指すよ。

それからこの世界をいろいろと見て回ろうかなって」

「何を馬鹿なことをっ」

「へ?」

「歴代の王は対となる精霊と共に過ごし、生涯外界に出ることはありません。

外界は魔物が跋扈し、悪意に満ち、常に死の危険があるからです。

どうぞこのまま此処でお暮しください」

 ドリュアスの話にマリオは困ったようにポリポリと頭を掻きながら口を開いた。


「確かにドリュアスに守られてこのまま此処に居たら安全なんだろうけど、それじゃあ面白くないだろう」

「面白くない…と」

 呆れ顔を向けるドリュアスに、そうとマリオは頷いた。


「僕は多少の危険があってもいろんな場所を旅したい。

綺麗な景色を見て、美味しい物を食べたり、たくさんの人と友達になりたい」

「ですが我が主が王と知れれば、その力を利用しようとする輩も近付いてまいりましょう」

「まあ、確かにそうだね。植物を意のままに出来る力なんて脅威以外の何物でもないもの」

「でしたら…」

「だったらこうしよう」

 ポンと手を叩くとマリオはドリュアスへと向き直った。


「僕がこの力を悪用したり、捕まえられて無理に力を使わされそうになったりしたらドリュアスがそれを止めてよ。

最悪、それで僕を殺すことになってもいいから」

「な、何を…」

 マリオの言にドリュアスは驚愕の眼差しを向けた。


「【緑の王】の保護という名の監視。それがドリュアスの役目なんだろう。

魔王みたいにこんなチートな力を好き勝手に使われたら大変だからね。

監視役は必要だって僕も思うよ」

「こんなに早く気付かれた王は主が初めてです。

確かに主を守るだけでなく、天命を失い、王の座を退くまでの間に暴虐を尽くさぬようお止めするのも我の大切な役目。

我が主は見かけによらず能吏な方のようですね」

 感心するドリュアスの前で、それでとマリオは話を続ける。


「殺す時は出来たらあまり痛くないように頼むね」

「馬鹿なことをおっしゃいますなっ」

 自らを殺すことを笑顔で依頼するマリオをドリュアスが睨みつける。


「何故そのようなことを言われるのです」

「そうだな…きっと僕が庭師だからだろうね」

「は?」

 訳が分からないとった顔で呆けるドリュアスの前で笑みと共にマリオが先を続ける。


「世界樹であるドリュアスに言うのは面映ゆいけど、木はちゃんと剪定してやらないと場合によっては枯れてしまうんだ。

不要な枝や葉を落として見た目を綺麗にするだけじゃなく効率よく養分を回せるようにして生育を促進したり、病気を予防する効果があるからね」

「…つまり世界という木を守るために害になるものを排除するのは庭師である貴方様の矜持…ということですか」

 痛みを堪えるような顔で問うドリュアスに、うんとマリオは頷いた。


「どの枝を切れば最良の結果になるのか見極めるのは凄く難しいし迷うけど、切る時に迷ってはダメなんだ。

落とすことが木のためになると信じて容赦なく切り捨てないとね。

それにじいちゃんが『人様に迷惑をかけるような真似はするな』って。

あと『絶対に人を傷つけたり、泣かせたりするな』って言ってたしさ。

その言葉に反するようなことは死んでもしたくない」

 マリオの言葉に唖然としていたドリュアスだったが…。

驚きが治まるとクスクスと楽し気な笑い声をあげた。


「長きに渡り【緑の王】に仕えてまいりましたが、貴方様のような主は初めてです。実に興味深い」

「まあ、僕はこの世界の住人じゃないし。少しばかり考え方とかが違うんだろうね」

「そうだとしてもです。…主ならば黒の魔王のように自らの力に溺れることなく。きちんと律してゆくことが出来ますでしょう。

我が主にお願いがございます」

「何かな?」

「我に名をお与え下さい」

「名前?…ドリュアスがそうなんじゃないの?」

「それは通り名に過ぎません。どうぞ我に真名を付けていただけませんか」

 その言葉に、うーんとマリオは首を傾げて考え込む。


「だったら(いつき)ってのはどうかな」

 何の捻りもない名だがドリュアスは気に入ったらしい。

「ありがとうございます。真名をいただいたからには臣として力の限り王をお守りいたします」

「うん、よろしく」

「はい、親愛なる我が王」

 胸の上に手を添えて恭しく頭を下げたイツキに、あれっとマリオは首を傾げた。

「主じゃなくなってる」

「長く歴代の【緑の王】にお仕えしてまいりましたが。

この度、初めて真名をいただき従属契約にて臣下となりましたので」

「はい?」

 イツキの衝撃発言にマリオは大きく目を見開いた。


「い、いいの?そんなことしてっ」

 名付けが従属の契約となるとは知らず、思いっきり慌てるマリオにイツキが笑みを浮かべて頷く。

「我が望んだことです。実を申すと王を見守るばかりの退屈な日々にいささか飽いていたのです。

外に出ることを恐れぬ異界からやって来た王。

王がこれからこの世界で何を成すのか、その行く末を見届けたいと存じます」

 悪戯な子猫のような笑みにマリオも笑顔を返す。


「だったら僕はイツキが退屈しないよう頑張るよ」

「はい、楽しみにしております。我が王よ」

 マリオの返事にイツキは大きく頷いた。

 

 






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