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緑の王さま異世界漫遊記  作者: 太地 文
25/94

25、計略と借金返済


「甘い言葉で姉さんに取り入って何を企んでるのっ?

言っておくけど私はそう簡単に騙されないからっ」

「し、シェラっ」

 やって来るなりそう捲し立てたシェラの手を慌ててシーナが引っ張る。

「ごめんなさい。力になってくれるって人に失礼なことを」

「謝ることなんてないわよっ。どうせコイツらだってサウロと同じで他人からお金を巻き上げることしか考えてないのよっ」

 全身の毛を逆立てて威嚇する猫みたいだな…などと考えていたマリオが徐に口を開く。


「いろいろあって他人が信じられなくなっているのは分かるよ。

僕の故郷にはこんな言葉があるからね。


『君の為を思ってやってあげたのに』

『私はこんなにしてあげてるのに』とか言う人がいる。

でもすべての行動は結局自分の為で、そんな恩着せがましいことを言う人は

まず嫌われる。

最終的に決断を下すのは自分なんだから自己犠牲なんてものは存在しない。

自分が好きでそうしてるだけ『人の為と書いて偽りと読む』って。


僕らが君たちの為に何かしてあげたいと思うのは、僕らが好きでそうしているだけのことだから、それを受け入れるかどうかは君の自由だよ」

 そう言ってにっこり笑ったマリオに、やはり警戒の眼差しを向けてはいるが話くらいは聞く気になったようだ。

「いいわ、私たちのお店を救う手段があるって言うなら話してみなさいよ」

 言うなりシェラは勢い良くマリオの反対側の席に腰を下ろした。


「まずは自己紹介だね。

僕は草木魔法師のマリオ、それでこの仔がタマで…」

「ニャウ」

 ヒョイっとマリオの肩に飛び乗ってタマが可愛らしく挨拶する。

「んでもって俺がハンターの緑碧だ」

 腕を組んだまま顎を反らすリョクを前にして、改めてシーナが名乗りを上げる。

「私はウェスタにある菓子店『雅庵(みやびあん)』の店主でシーナ。そして妹のシェラです」

「よろしく。まずは食中毒が起こった原因を知りたいんだけど」

「そんなのこっちが知りたいわよっ!」

「へ?」

「何だそりゃ」

 シェラの叫びにマリオはもちろん、リョクも盛大に首を傾げる。

 

「そのお菓子は聖女さまが伝えた『大福』というもので、職人頭のセロが厳選した材料を使っていつも通りに作ったんです。どうしてこんなことになったのかは…今も判らなくて」

 肩を落として綴られるシーナの言葉に、マリオは腕を組んで考え込む。


「食った菓子が古かったんじゃねぇのか?」

「失礼なこと言わないでっ。残りを次の日にも売るなんて真似するわけないでしょ!。それに大福は人気商品だから売れ残ることなんてないわよっ」

「だとすると原因は大福じゃなくて他にあるってことだね」

 キッとリョクを睨むシェラだったが、マリオの言葉に訝し気な視線を送る。


「どういうこと?」

「大福そのものじゃなくて、例えば包装紙とかに有害なものが付着してた。それが大福にも付いてしまって食中毒が起こったって可能性もあるかなって」

 マリオの推理に誰もが唖然とした表情をしてから、すぐにシーナとリョクから感嘆の声が上がる。

「そんなこと考えもしなかったわ」

「おめぇ凄ぇなっ」

「今は『脳細胞がトップギアだぜ!』だからね。

まあ、同じものを口に入れても被害者は死んで犯人が生き残ったりするのは器に毒が塗ってあったからってのは推理小説ではベタなトリックだし」

 照れた顔で言葉を綴るマリオの前で、ちょっと待ってっとシェラが悲鳴に近い声を上げた。


「だったら大福以外のお菓子を買った人も被害に遭ったはずよっ」

 シェラの言に頷きながらマリオが言葉を継ぐ。

「他の商品でも被害が出たら包装紙が原因だと疑われてしまうから限定したんだろうね。それにこの方法だと相手を選ぶことが出来るし」

「…それって」

 愕然となる姉妹を前にしてマリオは自らの考えを披露する。


「今回の一件は誰かが仕組んだことだった。目的は君たちのお店を手に入れること。だけどそうまでして手に入れるメリットが分からないな。ところで借金の返済期日はいつでいくらなの?」

「…150万ドンを10日後に払わないといけないの」

 深いため息を落とすシーナに、それならとマリオは笑顔を浮かべた。

「何とかなるかも」

「「ええぇっ!」」

 仲良く揃って驚愕の声を上げる姉妹にマリオは一癖ある笑みを向ける。


「その代わり死ぬほど働いてもらうことになるけどね。大福って一つ…」

「30ドンよ。ウチは材料に最上級品を使ってるから少し高めだけど御贔屓にしてくれる人は多いのよ」

 自慢げに胸を張ったシェラだったが、続けられたマリオの言葉に仰天する。

「だったら一日5000個以上の大福を売れば10日で150万の売り上げになるね。材料費は僕が先行投資として出しておくよ。儲かったら返してくれたらいいから」

「あ、あなたねぇっ!簡単に言ってくれるけどそんな数、売れる訳が…」

「それについては大丈夫、秘策があるからね」

 ふにゃんとした笑顔を浮かべるマリオから伝えられた秘策に唖然とした顔をする一同だった。



翌朝、ウェスタ駅に到着した一行はその足で姉妹の店に向かった。

石畳が続く大通りを進み、そこから横道に入った途端に周囲の街並みが一変する。

「此処が有名な聖女通りなんだね」

 さすがは聖女が出現した場所だけあってその影響は大きく、和風の建物が数多く並んでいる。

「他が石造りでイギリスに似た街並みだったのに、此処に来たらガラッと雰囲気が変わったね。当人が大の時代劇ファンだってのもあるんだろうけど京都の祇園によく似てる」

 そう呟くマリオに、こっちよとシェラが自分たちの店がある方向を指し示す。


「ようこそ、雅庵へ」

 笑顔で手を広げたシーナの後に建つのは、青い瓦屋根に白い漆喰の壁のいかにも和菓子屋といった二階家だった。

そのままマリオは店の裏庭へと向い、2人から許可を得ると土魔法で辺りを整地し、次にその一角に石垣状の壁を作り出す。

「頼むね」

 リュックから取り出しだエナの葉を石垣の傍に植えると緑魔法の【進化】と【成長】そして【豊穣】を放つ。


「「ええぇっ!?」」

 仲良く同時に声を上げる姉妹の目の前で急速に大きくなったエナの蔓に次々と赤い実が生ってゆく。

しかしその大きさは見慣れたものではなく、3㎝程の可愛らしい実だ。

「でもって次に…」

 今度はエナが生えた反対側に回り、そこに土魔法で数十本の細い石柱を立てる。

その根元にマリオは此処に来る途中で買い付けた種を一粒づつ植えてゆき、再び【進化】【成長】【豊穣】を放つと。

「今度は何だ?」

 怪訝な顔をするリョクの前でエナとは違った葉が茂り、コイルに似た蔓が柱に絡みついて空を目指して大きく伸びてゆく。

やがてその先に小さな花が咲き、そこから細長い(さや)が姿を現す。

「うん、いい具合だね」

 莢から取り出した赤い丸豆を見てマリオは笑顔を浮かべた。



「こちらはウェスタで話題沸騰中の雅庵の前です。

発売から早くも2日が経ち、店の前には『エナ大福』と『赤豆大福』を求める人々の列が初日の3倍の長さになっています。

前回もお伝えした通り、エナ大福は白い餅と黒い餡、その中にある赤いエナの実の色彩が実に美しいです。水分の多いエナの実と餡は相性が悪い気がしますが、餅に包まれると絶妙な組み合わせになります。しかも餡の甘さとエナの酸味が得も言われぬ美味しさを生み出していて私もこれ程のものを食べたのは生まれて初めてです。次に赤豆大福ですが、餅に満遍なく混ぜられた赤豆が模様のようで可愛らしく、味も柔らかなお餅にホクホクとした赤豆の塩気、くどくならない甘さの餡子の見事なまでの三重奏!まさにパーフェクトハーモニーっ。どちらも何度でも味わいたくなる美味しさです。皆さんも足を運ぶことをお勧めします。

以上、噂の現場からウェスタ音声放送局・アネッサがお送りしました」


「お疲れ様です。初日に続いて中継に来ていただいてありがとうございます」

 店の横で新製品を絶賛してくれているアネッサやスタッフにお土産の大福セットを渡すとマリオは改めて頭を下げた。

「いいえ、お礼を言いたいのはこっちですよ。

まず『千年に一度の和菓子たち』という謳い文句がいいですよね。

聖女さま由来の菓子発売を事前に教えてもらったおかげで聴取率も上がる一方ですし、あの嫌味な上司がずっと笑顔のままなんですよ」

 上機嫌で言葉を綴るアネッサだったが、ところでと真顔になってマリオを見つめ返す。


「昨夜、この店に侵入しようとした盗賊達を捕まえたのが妖魔から乗客を守った巷で噂の『通りすがりの虫人』だったって本当ですか?」

「ええ、凄くカッコ良かったですよ。20人近い数の盗賊たちを風魔法の空気弾エアショットであっという間に打ち倒してくれたんです。その後は惚れ惚れするほどの綺麗な格闘技で次々と相手を戦闘不能にして。僕らがお礼を渡そうとしたら『礼なら美味い菓子を作ってくれりゃあいい』と言い残して『じゃあな』って片手を上げて颯爽と姿を消してしまって」

「まさにヒーローですね。貴重なお話を聞かせてくれてありがとうございます。

今日の夕方の放送で流させてもらいますね」

 笑顔で手を振るとアネッサは次の現場へとスタッフと共に向かって行った。


「おい、マリオ」

「何?リョクさん」

「さっきの話…盛り過ぎじゃねぇか」

「そんなことないよ。リョクさんが盗賊を捕まえたのは本当のことだし」

「けどよう…あんま褒められると痒くなるぜ」

 ポリポリと頭を掻くリョクに、マリオはトレードマークのふんにゃんとした笑顔を返す。

「いいじゃない、リョクさんがカッコイイのは間違いないんだし。それより昨夜はどうやら前哨戦だったみたいだよ」

「…つまり本番はこれからか」

「うん、余程このお店に成功して欲しくないみたいだね。イツキの話だと次に来るのは精鋭の傭兵だって」

「だったら少しは楽しませてもらえそうだな」

 そう言うとリョクは気合十分に手の平に拳を打ち付けた。




評価、ブックマークをありがとうございます。

「26話 真相究明とお家騒動」は土曜日に投稿予定です。

少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。

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