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緑の王さま異世界漫遊記  作者: 太地 文
2/94

2、能力把握と初戦闘


「ここがラノベにあるみたいな異世界だとしたら…こういうのも有りかな。

ステータス・オープン」

 呟いた途端、半透明な板が目の前に現れる。

「おおっ、本当に出たっ」

 感動しつつ並んでいる文字を目で追ってゆく。



マリオ・タチバナ

 24歳


 Lv.1

 HP 30/30

 MP ∞


〈魔法〉 

  『草木魔法』

  

〈スキル〉

  『言語理解』

  『交渉』

  『剪定』

  『造園』



〈称号〉

  異世界からの迷子

  神気を浴びた健康優良体

  緑の王


〈加護〉

 女神イネスの加護(賢者)



「HP低っ!?しかもMPが∞ってどういうこと?…バグってるのかな?」

 思い切り首を傾げたマリオだったが、見慣れない文字に目を留める。

「この称号…迷子は分かるけど残りの二つは何だろう」

 不思議そうに文字の上に指を滑らすと。

「わっ!」

 いきなり文字が光って、その下に詳細が浮かび上がる。



【神気を浴びた健康優良体】

 神界の気を浴びたことで身体能力が向上、特に病や異常状態を無効化出来る。

 

【緑の王】

 すべての植物を使役することが出来る力を持つ者。



「はい?」

 追加された文章をまじまじと見つめる。

「病気にならないのは有難いけど…植物を使役って」

 半信半疑ながらも近くに生えている蔓草に聞いてみる。


「どっちに向かえば人里に出れるか教えてもらえる?」

 すると…。

「うわっ!?」

 蔓草が集まって『手』に似た形を作り出す。


「う、動いたっ」

 突然、目の前に現れた緑の手に驚きながらも傍に歩み寄ると、手は斜め前方を指さした。

「こっちに進めばいいわけ?」

 すると緑の手は正解とばかりに指で輪を作ってみせる。

「あ、ありがとう」

 礼を言いながらマリオは示された方に向かって歩き出した。


「ん?」

 再び動いた気配がしたので振り向くと、緑の手が親指を突き上げてサムズアップをしていた。

どうやら『がんばれよ』と励ましてくれているらしい。

そのさまに笑みを零しながらマリオも元気よく親指を突き上げ返した。



「じゃあ、人里を目指してGOっ」

 勢い良く駆け出したマリオはすぐに自らの異変に気付いた。

「早っ!」

 走り出した途端、信じられないスピードで周囲の景色が後方へと流れてゆく。


「これって…称号にあった【神気を浴びた健康優良体】のおかげかな。

だったらこんなことも出来たりして」

 ものは試しと思い切り地を蹴ってみる。


「うへぁぁっ!」

 思った以上に高々とジャンプしただけでなく、着地点の背の高い木々の細い枝の上を軽々と飛び回ることが出来た。

その動きは完全に某ゲームのキャラクターと一緒だ。


「…名前が同じだからって訳じゃなんだろうけど。

でも称号の力って凄いんだな」

 そんなことを呟きながらマリオは、失敗を繰り返しながらも何とか体の使い方を会得してゆく。


やがて努力の甲斐あってどうにかジャンプやダッシュの力加減が分かり、支障なく森の中を進めるようになった。

「このまま何事もなく森を抜けられたらいいけど」

 しかしその呟きは完全なフラグだった。



「な、何っ!?」

 先を急ぐマリオの後方からズンと響いた大きくて重たい音。

その音のした方角にいたのは。

「か、怪獣っ!?」

 一狩り行く某ゲームに出て来るモンスターによく似た巨大生物が此方に向かって歩いて来る。

それは白銀の毛に覆われた地球で見る虎に似ていた。

何より目を引くのは額の中央に輝く青い石。

 

「これ、完全にダメな奴じゃん」

 確かに今のマリオでは向かっていっても倒すどころか虎のおやつになるだけだろう。

「これは…じいちゃんが言ってた『三十六計逃げるに如かず』だな」

 形勢が不利になった時、あれこれ思案するよりも逃げてしまうのが一番良い。

つまり面倒な事が起こった時には逃げるのが得策であるということだ。


「女神さまが生きるのが厳しい世界って言ってたのはこのことか」

 ため息混じりに呟いて速度を上げたマリオだったが、後方で起こった破壊音に驚きの表情を浮かべた。


「へ?…何で付いて来るんだよっ!?」

 見れば物凄い勢いで虎が此方に向かって駆けてくる。

しかも時折、氷のブレスを辺りに吐き散らすオマケ付きだ。

たちまち辺りが白銀の世界へと変わってゆく。


だが何故、虎はマリオを追いかけてくるのか?

それは地球でもこの世界でも動物は逃げるものを追う性質があるからだ。

しかし今更逃げるのを止めても、鋭い牙が生えた口に飲み込まれるのがオチだろう。


「考えろ、考えろっ」

 力で敵わない相手には知恵で勝つ。

古今東西の昔話には、そういったものが多い。

そんな先人達には及ばないが、マリオの頭にも一つの考えが浮かんだ。

「…これならっ」

 ブレスを避けてジグザグに走りながらマリオは周囲を見回して何かを必死に探す。


「あったっ!」

 進行方向にある小さな沼。

その周囲に生えている赤い色の葉を見つけて歓喜の声を上げる。

やって来たばかりのリスエールだが、何故かマリオの頭の中にはこの世界に生息する植物達の情報が入っていた。


その間にも刻々と虎が此方に向かって近付いてくる。

波打つ白銀と黒の毛並み、白く鋭い牙、太い四肢。

それらを前にして、その迫力に思わず息を呑む。


「やるっきゃないっ」

 覚悟を決め、マリオは虎を引き連れて沼へと向かう。

「ごめん、ヤグニマ草たちっ。摘ませてもらうよっ」

  叫ぶなりマリオは辺りの草を両手一杯に掴み取る。

そのまま振り返るなり、虎の足元をすり抜けるようにダッシュした。


「うおぉぉぉん!」

 次の瞬間、その口からマリオ目掛けてアイスブレスが放たれた。

だがそれは完全に悪手だ。


マリオが信じられぬスピードでブレスを避けてみせる。

するとマリオが受けなっかったブレスは、たちまち虎の足元を厚い氷で覆ってしまう。

虎は自らの魔法で凍らせた大地に足を囚われ、まったく身動きが取れなくなってしまった。

しかし抜け出そうと暴れる力は凄まじく、すぐに氷に幾つもの亀裂が入ってゆく。


「今だっ」

 その機を逃さず大きく開けられた虎の口元めがけてジャンプする。

「くらえっ」

 手にあった草を喉の奥に向かって投げつけると、マリオは虎の鼻面を蹴って急いでその場から離脱する。

しばしの後…暴れていた虎の身体が痙攣を始め、やがてゆっくりとその身は大音響と共に横倒しになった。


「やったっ」

 安堵の息を吐き、マリオはへなへなとその場に座り込んだ。

「上手くゆくか賭けだったけど、無事に倒せて良かった。

ヤグニマ草に感謝だな」


『ヤグニマ草』…中枢神経に作用して摂取後すぐに強力な麻痺を引き起こす。


 再び頭の中に浮かんだ知識を反芻しながらマリオは倒れた虎にそっと声を掛けた。


「痺れ効果はそう長くは続かないから、しばらくしたら元に戻るよ」

 安心させるように軽くその前足をポンポンと叩いてから、マリオは足元のヤグニマ草へと目を向けた。


「助かったよ、ありがとう。…乱暴に毟っちゃってゴメン」

 所々が短くなってしまった一群に手を伸ばし、申し訳なさげに整えてゆく。


「お気になさいますな、我が(あるじ)。すぐに元のように茂りますゆえ」

「へ?」

 いきなりの背後からの声に驚いて振り向くと、そこには白皙の美貌の持ち主が立っていた。

男性とも女性ともつかない中性的な容姿。

長く豊かなエメラルドグリーンの髪、同色の澄んだ大きな瞳、すらりとした肢体を薄地の白と萌黄色の衣装が包む。


「えっと…君は…」

「これは失礼。我は世界樹の化身にて…ドリュアスと呼ばれる者でございます」

 恭しく頭を垂れる仕草も美しく、その姿はまさしく神話に登場する木の精霊そのものだ。


「神託を得て我が主をお迎えに上がったのですがお姿が見えず、探し続けて漸く見つけることが出来ました。ご無事で何よりです」

 自分があちこち動き回ったりしなければ、ちゃんと迎えが来たという事実にマリオはガックリと肩を落とした。


「その…ドリュアスさん?」

「呼び捨てで構いません。我が主」

「…主?」

「はい」

「僕が?」

「はい」

「君の?」

「ええ」

「…ごめん、何がどうなってるのか説明してもらえる?」

 頭を抱えながら混乱中のマリオに、ではこちらにとドリュアスは先に立って歩き始めた。

その後に付いて歩き出すと。


『レベルが上がりました』


「はい?」

 頭の中に響いた声に慌ててステータスを出して確認してみる。

すると確かにレベルと数値が


 Lv.18


 HP 240/240

 MP ∞  


 に変わっていた。


「ホントにレベルが上がってる。やっぱりゲームみたいに戦うとレベルが上がるんだな。でも出来るなら争い事は避けたいな」

 戦闘経験などない、ごく一般人のマリオからしたら当然の望みだ。


「お優しいのですね、我が主。

それゆえ氷虎を毒草ではなく痺れ草で倒したのですか?」

「うん、まあそんなところ。勝手に縄張りに入り込んだ僕にも非があるし」

「…主はそのように考えるお方なのですね」

 マリオの言にドリュアスが花が綻ぶようにニッコリと笑う。

その壮絶なまでの美貌に圧倒されつつマリオは困ったように口を開いた。


「いや、だからその主ってのは…」

「それについてはあちらでご説明いたします」

「…よろしくお願いします」

 あっさりいなされ、マリオはため息と共にドリュアスの後を追って歩き出した。





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