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緑の王さま異世界漫遊記  作者: 太地 文
17/94

17、魔導列車に乗ろう


「ここがコマドリ亭か」

「うん、繁盛してるみたいで良かったよ」

 ゴーザの名物だという肉がたっぷりのうどんに似たピリ辛の麺料理で昼食を済ませてからマリオ達はコマドリ亭へと足を向けた。

この街を出る前に挨拶くらいはしておこうと思い寄ったのだが、周囲は入店の順番を待つ人で長い列が出来ていた。

マリオが直した花壇の周囲にも人だかりが出来ていて、どうやらすっかり街の名物スポットになっているようだ。


「マリオじゃねぇか」

 店を眺めていたら列に並んでいる人から声を掛けられた。

「ユゲルさんっ」

「お前がこんなに凄い草木魔法師だったとはな。

此処だけじゃなく駅の庭もお前が造ったんだって?」

「いえ、庭を造ったのは駅の専任の庭師さん達ですよ。

僕は少しだけお手伝いしただけで…」

「だがこの世の楽園みたいな綺麗な庭だって評判だぞ。

あれは普通の庭師が出来る仕事じゃないと見た誰もが褒めている」

「や、それは言い過ぎですよ」

 困り顔でポリポリと頭を掻くマリオの傍にリョクが寄ってきた。


「知り合いか?」

 リョクの問いに頷いてからマリオはユゲルを紹介する。

「この街に入る時にお世話になったAランクハンターのユゲルさんだよ。

ユゲルさん、この人は旅仲間のリョクさんです」

「おう、よろしくな」

 片手を上げて挨拶するリョクに、ユゲルは値踏みするような視線を向けた。


「珍しい草木魔法師のマリオを利用するために近付いた…」

「ああっ?俺がそんなセコイ奴だとでも言うつもりかっ!」

「訳じゃなさそうだな」

「当り前だっ。だいたいなっ、こいつには返しきれねぇ程の恩があんだよ。その恩人をどうこうするような卑怯な真似するわきゃねぇだろっ」

「確かにこんな単細胞に利用なんて高等なことは無理だな」

「てめぇ、ケンカなら幾らでも買ってやんぞっ!」

「ダメだよっ、こんなところで暴れたらお店の迷惑になるでしょ。

ユゲルさんもあまり煽らないでください」

 メっとばかりに睨まれて、スマンと2人仲良く頭を下げた。


「何だその眼はよっ」

 リュックの外ポケットからマリオの肩に移動したタマから小馬鹿にした視線を向けられていることに気付いたリョクが怒りの声を上げる。

「ミャウ」(やーい、叱られた)

「こ、この。バカ猫にくせにっ」

「ウナッ」(バカはそっちだろ)

「やるかっ、ごらっ 」

「もう、ケンカしないの」

 すぐに険悪になるが、それでも互いを嫌っていないのが分かるので、こうして丁度良いところでマリオが止めるのが最近のお約束になってきた。



「マリオ君が来てるのかいっ?」

 そんなやり取りをしていたら店から女将が飛び出してきた。

どうやら今までの話を聞いていた客がマリオが来ていることを女将に教えたようだ。


「あんたには感謝してもしたりないよ」

 感激した様子で女将はマリオの手を取り、次いで店の前に並ぶ列を見やった。

「お役に立てたなら良かったです。でもこうして繁盛してるのはお店の料理が美味しいからです。僕がしたことはきっかけに過ぎません」

「嬉しいこと言ってくれるじゃないか。今日はタップリ食べていっておくれ。

もちろん私の奢りだ」

 しかしその申し出にマリオは緩く首を振った。


「いえ、これだけ待っている人がいるのに横入りは良くないです。

それに今日はこれから旅に出るんで挨拶しておこうと思って寄っただけですから」

「律儀だねぇ。ま、あんたらしいけど。でも旅に出るって…子竜車でかい?」

 この世界には鉄道の他に二足歩行の大型トカゲが引く車両があり、乗合バスのような使われ方をしている。


「いえ、魔導列車です」

「昼過ぎに出るやつだね。分かった、だったら見送りくらいさせておくれ」

「はい、ありがとうございます」

 軽く頭を下げるマリオに笑みを返すと、また後でと女将は足早に客で溢れている店内へと戻っていった。

鉄道のおかげか、かつてと違い旅はかなり気軽に出来るものとなったので、こうした別れもあっさりしたものだ。


「旅って…何処へ行くんだ?」

 驚いた顔で聞いてきたユゲルにマリオが笑みと共に答えを紡ぐ。

「まずはウェステリアへ。それからカトウ鉄道の本線に乗ってグルっと各国を回ってみるつもりです」

「そうか…若いうちにいろいろ見て回って経験を積むのはいいことだ。

だが気を付けろよ。中には人の命を塵芥(ちりあくた)のように扱う非道な(やから)もいるからな。危ないとなったらすぐに逃げるんだぞ」

「ええ、僕は戦闘はからっきしですから」

「任せろ、俺がいる限りこいつには指一本触らせねぇよ」

 素直に頷くマリオの横で、そうリョクが胸を張る。

「大きく出たな。…まあ、裏はなさそうだ。

こいつのおかげでゴーザの街に笑顔が増えた。俺たち街の住人にとっても恩人って訳だ。だからマリオのことを頼んだぞ」

「おうっ」

「にゃっ」

 リョクだけでなく肩に居るタマからも声が返り、ユゲルは笑みと共にマリオに視線を移した。

「良い旅をな」

「はい、ユゲルさんもお達者で」

 手を振りコマドリ亭を後にする一行にユゲルも大きく手を振り返した。



「おお、マリオさん」

 駅に行くと駅長が満面の笑みを浮かべて迎えてくれた。

「先ほど御着きになった辺境伯ご一家も庭の見事さに感心されておりました。

特に大奥様はたいそうお喜びで」

「それは良かったです」

 笑みを浮かべてマリオはローラの花が咲き誇る庭を見つめた。


「マリオが造ったってやつか。確かに花のことなんざ何も分からねぇ俺が見てもスゲェってのは分かるぜ」

 横に並んだリョクもそう言って楽し気に庭を見回す。


「大奥様からこれを預かっております」

 言いながら駅長は白銀の指輪を差し出した。

「えっと…これは?」

「素晴らしい庭を見せてもらえた礼だそうです。

旅に出るなら何かの折に役に立つだろうとの仰せです」

 渡された指輪をよく見ると、表面に2つの絵柄が彫り込まれている。


「それは大奥様の御印章とカトウ鉄道筆頭株主の印です」

「はい?」

 とんでもない駅長の言葉にマリオは呆気に取られた。

そもそも印章は御印(おしるし)とも呼ばれ、高貴な女性が身の回りの品などに用いるシンボルマークのことだ。

これを下賜されるのは、渡した相手が後ろ盾になってくれることを意味する。


「も、もらえませんっ。こんなっ」

 慌てて駅長の手に指輪を戻すマリオだったが、後ろから響いた拍手に驚いて振り返る。

「ラルフが言った通りの子ねぇ」

 満面の笑みを浮かべてやって来たのは、品の良い濃紺のドレスに身を包んだ高齢の女性だった。

美しく結い上げられた白銀の髪に似合う薄茶の瞳が興味深そうにマリオを見つめている。


「初めまして、ヨウコ・エルサ・カッセルよ」

「失礼いたしました」

 その言葉が終わる前にマリオは急いで腰を落として控えの礼を取った。

地球での作法だが誠意は伝わるだろう。


「あら、驚かせてしまったみたいね。どうか立ってちょうだい。

お友達のようにね」

「え?」

 言われて横を見れば、リョクは立ったまま腕を組み『何だこいつ』とばかりに睥睨している。

焦って服の裾を引っ張るが、当のリョクはまったく意に介さない。

しかも…。

「なんで頭下げてんだ。頭領として偉いのはコイツの亭主や息子だし、金持ちってんなら稼いだのは親父だ。コイツ自身は何一つ成してねぇじゃねえか」

「り、リョクさんっっ」

 無礼この上ない言葉にマリオと駅長が真っ青になる中、ヨウコ夫人から愉快そうな笑い声が上がった。


「確かにその通りだわ。でも久しぶりね、私にそう言ってくれる人は。

近頃は誰もが私の顔色を伺うばかりでつまらないことこの上ないわ」

 あっけらかんと言い放つとと彼女はマリオの手を取って立ち上がらせた。


「素敵な庭をありがとう。子供の頃に戻ったようにワクワクして幸せな気持ちになれたわ」

「気に入っていただけたのなら嬉しいです。でもこの庭が素晴らしいと思えるのは専任の庭師の人達の工夫と努力の結果です。僕はほんの少しお手伝いをしたに過ぎません」

「…あなたは本当に父が教えてくれた言葉通りの人ね」

 マリオの言に感心しつつ、夫人はそんなことを口にした。


「私の父が渡来人なのは知っているわね」

「はい、有名ですから」

「その父が暮らしていた世界のテレサさんという高名な修道女の言葉なのだけれど


『自分をよく知っている人は、悪口にもお世辞にも左右されません』


 弱さや欠点を自覚している人は、悪口を言われて動揺することも、おだてられて思い上がることもありません。

どんな時でも自分らしく生きられるのです…というものよ。

私もそんな人になりたいと幼い頃から努力をしてきたわ。

でもいつしか日々の些事に追われてその大切な言葉を忘れてしまっていた。

私に思い出させてくれてありがとう」

 輝くような笑顔で綴られる言葉に、マリオも笑み浮かべて口を開く。


「僕よりもリョクさんが言ったことを素直に受け入れた貴女の方がその言葉に相応しい人だと思います」

「あら、ありがとう。あなたのような人にこそこの指輪を渡したいわ」

 夫人が改めて指輪をマリオの手に握らせようとするが、当のマリオは緩く首を振ってそれを押し返す。


「いただけるに値することを僕はしていませんから」

「…そう、残念ね。でも何か困ったことがあったら遠慮なく言ってね。

カトウ鉄道の駅事務所に行けば便宜を図ってくれるわ」

 さすがは筆頭株主と言ったところか。

夫人の申し出に今度はマリオも素直に頷いた。

「はい、ありがとうございます」

「良い旅をね」

 そう言って手を振る夫人に頭を下げ、マリオとリョクは列車へと向かった。



「残念、振られてしまったわ。

指輪を簡単に受け取るようならその程度、あっさり切って捨てるし、受け取らなかったら見どころがあるからウチの陣営に引っ張ろうと思ってたんだけど…どうやら私の計略を見破ってたみたいね」

 経営者の顔で笑う夫人に、はいと傍らに控えていた駅長が頷く。


「優しく幼い容貌とは裏腹に、マリオ君は(したた)かなところがあるようです」

「そんな彼がこれから何を成すのか楽しみだわ。

彼のことは逐一私に報告が上がるようにしてちょうだい。

あの心根も聡明さも気に入ったわ。何より彼の草木魔法は使えるもの。

今回は上手く逃げられたけど次は捕まえてみせるから」

「承知いたしました」

 不敵に笑う夫人に向かい駅長は深々と頭を下げた。





お読みいただきありがとうございます。

明日も「18話 妖魔の襲撃に遭いました」を投稿予定です。

楽しんでいただけましたら幸いです。




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