成り行きで、始めました!②
◇3◇
「ここっすよ」
骸骨の弓兵に案内された大広間には、大柄な黒い甲冑が立っていた。
「は、はじめまして
本日より姉の代わりに働かせていただきます。サキュバスといいます。ええと、、よろしくお願いします」
サキュバスがペコリと頭を下げる。
甲冑がこちらを振り向く。
「おぉ、遠路はるばるようこそ。どうぞよろしく………」
黒い甲冑が身体を傾けると、ぐらりと動いた首が盛大な音をたてて床に落ちる。
ガッシャーン!! という大音響が石造りの大広間に鳴り響いた。
「わーーーっ?!」
驚いたサキュバスが飛び退く。
「いや、失敬、失敬」
頭のない黒い甲冑は、頭を掴みあげる。
固まるサキュバスを見ながら、
骸骨の弓兵が、ため息をついた。
「旦那、毎回言うっすけど……。 何かある度に、頭を落とすデュラハンあるあるは、あまり面白くないっす。」
「………そうか? 緊張がほぐれるかと思ったんだが」
「完全に怖がらせてるっす」
ねえ?と骸骨の弓兵が視線を向けてくるので、サキュバスはうんうんと頷いて見せた。
それを見た黒い甲冑…あらためデュラハンは、渋々首元の留め金をバチンと締める。
「姉上殿にはうけたのだがな」
「落とした頭を、投げられたり、蹴り飛ばされたりしてたのを『うけた』判定なんて、その心臓がうらやましいっす」
「心臓なんて無いし、やらんぞ」
「知ってるし、いらないっす」
「あ、あの………姉が大変失礼いたしました………」
2人がサキュバスの方を振りかえる。
「おぉ、すまなかった。あらためて、私はデュラハン。レイドボスの近衛を勤めております」
◇4◇
この世界のモンスターは強さと役割等によっていくつかの区分がある。
<MOB>
所謂、一般のモンスター。同レベル帯ではもっとも弱いが、数が多い。
<エリートMOB>
見た目はMOBに似ているが、総じて能力が高く数が少ない。特殊な能力を持った者や、指揮官のような役割の者もいる。
レイドボスの近衛、つまり取り巻きもこのエリートMOBである。
<レイド・ボス>
拠点などを防衛する、非常に強力なモンスター
他のMOBに比べて、圧倒的なステータスと、多彩な特殊能力を持っている。 数は非常に少ない。
「あらためまして、本日より配属になりました。サキュバスと申します。戦闘は………あんまり得意ではないのですが……精一杯がんばります。よろしくお願い致します」
サキュバスは深々と頭を下げる。
「はっはっは、いやそう堅くならずに。ご自分のもうひとつの家と思って、くつろいでください」
デュラハンは、うんうんと頷きながら続ける。
「さて、実はまだ少し準備が残っておりましてな。簡単な説明と案内を………スケ、頼めるか?」
「もちろんっす! こんな可愛いコのお相手なら、手取り足取り喜んでやるっす。 まずは、俺っちの部屋まで案内するってことでいいっすね?」
「えっと………あの……」
「すり潰すぞ、骸骨野郎」
「冗談っす、旦那。マジギレしないでほしいっす。」
微笑ましい(?)口喧嘩を始めた2人から視線をそらし、サキュバスはぐるりと室内を見渡す。
ダンスパーティでもするのかなというくらい、大きなフロア。
正面の大扉と奥にある玉座の間にはガランとした広いスペースがある。
天井は普通の建物と同じくらいの高さ。もう少し高ければシャンデリアが似合いそうな造りだと思った。
……あれ?
ふと疑問に思ったことを、サキュバスは聞いてみる事にした。
「あの、ここって、レイド・ボスさんのお部屋ですか?」
「あ、正確にはちょっと違かったっすね。ここは、レイド・ボスが戦うための部屋っす」
喧嘩をやめた2人がこちらを向く。
「ご心配なく。自室は別にありますので」
「あ、そうなんですね! レイドボスの方は、今はお部屋にいらっしゃるのですか?もし、お忙しくなければ、ご挨拶と……」
サキュバスはごそごそとローブの中にしまってあった道具袋をあさる。
「それと、お土産を持ってきたのですが……あ!地元名産のお団子です。」
そう言って、四角い箱を取り出した。
「「えっ……?」」
「あ、もちろん、お二人の分も……あ、え~と、食べられます?」
「あ、食べれるっす。喜んで、いただくっす」
両手を出す骸骨の弓兵に一箱渡すと、サキュバスはデュラハンの方を向き直る。
「デュラハンさんも、いかがですか? 豆をつぶして甘くした餡がかかってるんです。 美味しいですよ」
「お、おぉ、これはかたじけない。では、おひとつ……ってそうではなく!!」
「わぁっ?!」
デュラハンが、ずいっと一歩前に出る。
「今なんと?」
「ええ!? えぇと、その、豆をつぶしたあと、甘く味付…」
「いやそこではなく!」
「いや旦那、意外とうまいっすよ」
「お前はちょっと黙っとれ」
すでに食べ始めてる 骸骨の弓兵を尻目に、デュラハンは続ける。
「レイドボスに挨拶とおっしゃいましたか?」
「は……はい……」
サキュバスは一歩後ずさる。
「姉上殿から、聞いていなかったのですね……」
「…………………………………………………………………………え? なにを……ですか?」
一瞬骸骨の弓兵を見たデュラハンは、サキュバスと目を合わせながら
「…………サキュバス殿。姉上殿に代わり、本日から……」
ゆっくりと告げたのだった。
「あなたが、ここのレイド・ボスです」