冒険者対策、始めました!⑦
◇12◇
青髪の騎士を先頭に、冒険者達が屋上にたどり着いた。
外壁と同様、石造りの床。
円形の屋上に障害物はなく、身を隠す場所もない。
外壁沿いには、腰の高さまで石壁が作られているが、申し訳程度の高さでしかなく、吹き飛ばされれば5階建ての塔より落下する事になるだろう。
当然、落ちて無事でいられるわけがない。
隣に立つ巨漢のオーク、ウスレが声をかけてきた。
「おい、クーファ。ここは新ステージか? これはちょっと不味いんじゃねえか?」
青髪の騎士、クーファも、盾を構え、レイドボスの方を向く。
「俺も初めて見た。掲示板にも書いてなかったと思う」
「ねぇ、どうするの?」
後ろにいた赤髪の女盗賊が不安そうに声をかける。
軽装備の彼女は、握っていた短剣を腰につけていた鞘に戻すと、背中の弓にゆっくりと手を伸ばす。
後ろのメンバーもざわついている。
「あれ、届かねえだろ……」
クーファは、サキュバスを見上げる。
「どうするかな……」
ここは、屋上。
天井はない。
目の前のレイドボスは、コウモリのような翼を羽ばたかせ、悠然と空を飛んでいたのだ。
◇13◇
「ふむ、驚いているようですな」
眼下のデュラハンが、剣を構えながら呟いた。
ばさばさと羽を動かしているので、若干聞き取りづらい。
「ふっふっふ~、上手く誘い込めました。 この高さなら剣も両手槌も届かないでしょう!」
動揺が見て取れる冒険者達を見下ろし、サキュバスは上機嫌だ。
弓や魔法による攻撃は届くだろうが、冒険者達の矢や魔力には限りがある上に、今までの経験上威力はさほどでも無い。
それに比べ、サキュバスはHP発動条件さえ満たしてしまえば、強力な魔法を際限無く撃ち続けられるのだ。
端に追い詰め、羽ばたきで突風を起こし、吹き飛ばしてしまってもいい。
相手の射程外から攻撃する作戦に、若干負い目を感じないでもないが……
「なんて言ってる場合じゃないです!今日こそは、きっちり勝たせてもらいまふっ!?!?」
ガッツン!!と言う衝撃音と共に、何かに頭を強烈に殴られた。
「いっった……な、なになに?」
ウスレのメテオインパクト並みのダメージに、目を白黒させながら辺りを見る。
この高さまで武器での攻撃が届くわけがない。
弓や投石なんかの遠距離武器の威力でもない。
あとは……
冒険者PTの真ん中。
密集した冒険者に守られた数名の魔法使いが、オレンジ色の光に包まれながらなにか呟いている。
魔法!?
それにしても威力が高すぎる。
今まで魔法でこれ程のダメージを受けたことなんて無いのに……
その場を動かない冒険者PTに、デュラハンが突撃を行う。
飛び出した青髪の騎士が、盾でデュラハンの大剣を受け止めた。
大きな火花を散らしながら、衝突した大剣と盾。
突進のスピードも加わったためか、単純にデュラハンの膂力が上回ったのか、青髪の騎士が大きく後ろに下がる。
代わって飛び出したウスレが、大上段からハンマーを振り下ろす。
「ちっ」
舌打ちと共にデュラハンは後ろに飛び退く。
目標を失った両手槌が床に突き刺さり、砕かれた破片が宙を舞った。
「お、おぉ~……っじゃなかった!」
呆けている場合じゃない。
我に帰ったサキュバスは左手をつきだす。
『火炎球!!』
頭大に膨らんだ火球が一直線に冒険者に向かって飛来する。
狙いは魔術師
「させないって!炸裂矢!」
赤髪の女盗賊が放った矢が、サキュバスの火球と衝突。
空中で爆発する。
「う……矢に爆弾をつけてるの?」
爆発の閃光にサキュバスは目を細める。
その隙に、魔術師達の詠唱が終わったようだ。
まばゆい光が、冒険者の一団を包む。
魔術師達が、声を揃えて魔法を発動させた。
『『流星群!!』』
?
知らない魔法にサキュバスは一瞬戸惑うが、ふと、気配を感じ上を向く。
赤々と光る隕石が夜空に尾を引きながら、いくつも降り注いできていた。
「え、えええええええええええ!!!??」
避ける間もなく、頭に直撃を受けたサキュバスは、そのまま塔から落下していったのだった。
◇14◇
「うぅ~まけたぁ~~、また、まけたぁ~~」
搭の裏庭では、サキュバスが大の字になったまま倒れていた。
東の空からは、うっすらと明かりが指し夜明けが近づいていることを知らせている。
本日の営業時間も、間もなく終了だ。
「大丈夫ですかな、サキュバス殿」
ガシャ、ガシャと足音を立てながら、デュラハンが近づいてきた。
大剣を仕舞い、頭も首の上に戻っている。
鎧のあちこちが傷つき、へこんだりしているが、大怪我は無さそうだ。
「デュラハンさん……」
サキュバスは、上体を起こし、頭についた砂ぼこりを払う。
角は二本とも折れてしまっている。
「冒険者達は……?」
「いつも通り、宝物庫を漁って帰りました。残っている小規模PTは、下層で戦っていますが、じき帰るでしょう」
サキュバスは、そうですか、と呟くと道具袋より緑色のローブを取りだし身に纏った。
「デュラハンさん……」
「む?なんですかな?」
「さっきはすみませんでした。もっと上手くデュラハンさんの攻撃に合わせていられたら……」
「いや、そんな事は……」
「それと、HPもっと減らされてからの方良かったですかね。でもあれ以上は危ないし、一気に削られるかもですし……う~ん」
ガシャ、と、頭の前で音がする。
顔を上げると、デュラハンが右手を差し向けていた。
サキュバスは、その手を掴む。
黒い手甲は、がっしりと堅かったが、仄かに温かいような気がする。
引っ張って貰うようにして立ち上がった。
「相手の連携は見事でした。我々も精進せねばなりませんな」
手を離すと、デュラハンは搭に向かって歩いていく。
「……そうですね!がんばります!」
サキュバスも、小走りに後ろを着いていく。
「サキュバス殿、次は勝ちましょうぞ」
「はい!次は勝ちましょう!がんばるぞ~!」
上ってくる朝日に目を細めながら、サキュバスは大きく腕を伸ばしたのだった。
『冒険者対策、始めました!』終わり
◇おまけ◇
「ところで、デュラハンさん。冒険者が最後に使っていた魔法知ってますか?」
「いや、見たことはありませんでしたが、恐らく屋外専用の攻撃魔法でしょう」
「屋外専用!?」
「発動条件は何もMOBだけにあるわけではありません。そして、発動条件に屋外と付くものがあったとしても……」
「不思議じゃない……訳ですか」
「最初の一撃で、正常に発動するか確かめたのでしょうな」
「くぅぅ~、あの時に気がついていれば……」
「して、どうしますかな?」
「どうする? って何をですか?」
「今後、屋上で戦いますか?」
「う……」
「…………」
「……し、しばらくは中で戦います。屋上から落ちるのは、もう懲りました」
「承知しました。なに、また他の手を考えましょうぞ」
「そうですね!また考えましょう」
「……サキュバス殿?」
「……?」
「なんだか、少し楽しそうですな」
「え?え?そうですか?」
サキュバスは自分の顔に手を当てる。
「…………そうですね。少しだけ……ほんっっっの少しだけ楽しくなって来た、かもしれません」
「それは何より」
デュラハンがMOB専用の入り口を開けてくれる。
本日の終了時間を告げる鐘が鳴り響いたのだった。
読んでいただいて、ありがとうございます。
2話目、「冒険者対策、初めました!」は、ここで終了になります。
次は1話読み切りを書いてみようかな~と思います。
上手くまとまるかな……
いや、がんばります。
もし宜しければ、読んで頂ければ幸いです。
それでは、