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冒険者対策、始めました!③

 ◇6◇


「そもそも、どうやったら冒険者は撤退するのですか?」

 サキュバスの疑問にデュラハンは、人差し指をぴっと伸ばして話し始めた。


「まず、主力や、指揮官がやられた場合、撤退する可能性が高いでしょうな」


 サキュバスが目を輝かせる。

「おぉ!それいいですね」

「その、指揮官や主力が倒せないって話じゃなかったすか?」

 骸骨の弓兵(スケルトンアーチャー)がカラカラ笑っている。

 う、その通りですけど……


「で、でも、全員倒さなきゃと思うより……ずいぶん気が楽です」

「しからば、その方法を考えましょう」


  う~ん、とサキュバスは頭を抱え込む。

「がんばってダメージを与えても回復されちゃうのが痛いですよね……」

 終わらないマラソンを走ってる気分だ。


「回復魔法や蘇生魔法には使用回数に制限があるみたいっすよ」

「え?そうなんですか?」


 デュラハンが相づちをうった。

「それは聞いたことがありますな。なんでも冒険者は体内に蓄えた分の魔力しか使えないとか」


「え、じゃあ、魔法を撃たせ続ければ、魔力が尽きるのですか?」

 冒険者も、結構不便なんだと、少しだけ親近感を覚える


「理屈ではそうです。ただ、ポーションを飲むと回復するようです」

「なにそれずるい!?わたしも飲みたいです!」

「戦闘中にポーションを飲むレイドボスは、ちょっとカッコ悪いっすよ……」

「何より、サキュバス殿からしたら回復する量は微々たるものです」

「うぐ……」

 やっぱり親近感なんてなかった。


「もちろん、ポーションも無限に持ち込めるわけではありません。道具袋ストレージに入れているとしても、限界はあるでしょう」


「それを使い切らせれば良いわけっすね」


「それはそうなんですけど、きっと余裕を持って用意してますよね?」

「でしょうな」

「そっすね」


 軽々肯定されてしまった。


「まぁまぁ落ち込まないでほしいっす。ポーションを減らすだけなら、サキュバスちゃんだけじゃなく、下層の自分達も協力できることがあるかも知れないっす」


「ス、スケさん」

 何て頼もしい。

「まぁ、とは言っても、レイドに挑もうとするPTパーティー相手じゃ、1秒も持たないっすけどね」

 たのもし……あれ?


「まぁ、そうだろうな」

「そ、そんなあっさり。なんとかなりませんか?」

 骸骨の弓兵(スケルトンアーチャー)は、いやいやと首を振る。


「無理っす。あんな災害みたいな集団、フロアのMOB全員でかかっても瞬く間に殲滅されるっす」


 なんて身も蓋もない……

 ただ、サキュバスとしても自分が勝てないのに、がんばってとは言えない。


 何か、MOB頼みではなく冒険者達にダメージを与える方法を考えなければ。


 サキュバスは何気なく窓の外を見る。

 朝の天気は何処へ行ったのか、今はどんよりと曇り、サキュバスの心を表しているかのようだ。


 ため息を吐き、室内に視線を戻そうとした時、窓の縁に何かが見えた。

 あれ?と思い目を凝らす。

 よく見ると、窓の向こう側には小さな蜘蛛が巣を作ろうとしている。


 蜘蛛の巣……


 あ!


「どうかしましたかな?」

 デュラハンが水を向ける。

「わたし、良いこと思い付きました」






 ◇7◇

「罠を作る?」


「はい! 搭のあちこちに、対冒険者用の罠を作るのはどうでしょう」


 罠だけで冒険者を倒すのは難しいだろうけど、じわじわダメージを与えたり、行動を阻害してMOBが攻撃したりするだけでも、かなり効果があるんじゃないだろうか。



「良いかもしれませんな。問題はどのような罠を作るかということですが」

「そっすね。自分達も楽になるのはありがたいっす」


 表情の読めない二人だが、好意的に受け取ってもらえたようだ。


「えっと、必ず通る道に、落とし穴を設置するとかはダメですよね」


 デュラハンが頷く。

「そうですな。姉上殿のように、どうあっても攻略できないとなると冒険者達が来なくなってしまいます」


 う~ん、罠罠……そういうのに詳しい友人がいたけれど、どんな話をしていたっけ……

 サキュバスは、ぎゅっとローブの袖を握り、頭を捻る。


「攻略不能じゃなくて、ある程度ダメージになって……あ!じゃあ、こう坂道を大きな岩がごろごろ~って転がってくるやつは」


「ヤル気満々っすね。」


「搭は基本的に平らなのですが」


「で、ですよね……」


 階段が坂になっているけど、そこを塞ぐと通行できなくなるのでやっぱりダメだろう。

 他に他に


「あ、トゲトゲの天井が落ちてくるやつ!」


「それもヤル気満々っすね」


「残念ながら、搭の天井はどこも3m程度です。トゲ付きの釣天井を仕込めば確実に気づかれるでしょう」


「う……」



 骸骨の弓兵(スケルトンアーチャー)が、骨むき出しの右手を挙げる。


「フロアを毒液で満たしたらどうっすか?」

「えぇ!?だ、大丈夫ですか?そんなことして」


「1、2階層のMOBは、アンデットばかりなので毒は効かないっす。」


 そうなんだ。知らなかった。


 デュラハンが渋い声を出す。

「それだけの毒液を集めるのは中々大変だぞ」


「森にいるベラドンナの花粉から簡単に作れるっす。まずは1フロアから試してみるのもありっすが……」


 そう言いながら骸骨の弓兵(スケルトンアーチャー)は1つの小瓶を取り出した。

 骸骨のマークが描かれた小瓶の中には、ドロッとした紫色の液体が入っている。


 サキュバスは恐る恐る小瓶に触れた。

「これが……?」


「そ、ベラドンナの花粉から作った毒液っす。 自分は弓に塗って使ったりするっす」


「あ、スケさん、弓兵でしたね」

「忘れてたっすか……」


 サキュバスは小瓶の液体をゆらゆらと揺する。

「これ、開けても大丈夫ですか?」


「大丈夫っすよ。触ってもじわじわHPが減っていくだけっす。飲んだらどうなるかは分からないっす」


「飲みません……」


 きゅぽん、と、ゴム詮を抜く。

 変化は劇的だった。


 瓶から溢れ出た刺激臭に、サキュバスは鼻を抑える。


「ふがっ!!? な、なにほれ!!?」


 サキュバスは慌てて、瓶に詮をする。

 涙目になりながら、顔の前で手をパタパタさせてみるが、鼻に付着した臭いは、まったく取れない。


 デュラハンと骸骨の弓兵(スケルトンアーチャー)が、不思議そうな顔をしている。

「どうしました?」


「な、なんれ平気なんれすか……まど!窓開けてくださいー!?」





「ひ、酷かったです……」


 一行は、改めて大広間に戻ってきた。


「そんなに酷かったすか?」

 骸骨の弓兵(スケルトンアーチャー)は、事も無げに聞いてきた。


「酷かったです!本当に酷かったです!!」


 部屋の窓を開け放ち、換気しているが、戻るまでにあの臭いが消えてくれるだろうか。

 サキュバスは、くんくんと自分のローブを嗅いでみる。

 うっ……まだ臭いがする。


 ゲンナリしながら、大広間の中央まで戻ってくる。


「それで?毒の床作戦はどうするっすか?」


「無しです!絶対ダメです!」

 冒険者を撃退する前に、毒耐性の無いMOBが倒れます。特にわたしが!


「臭いはともかく、掃除も大変そうですしな」

 デュラハンも、うんうんと頷いている。


「はぁ、壁も床も石造りですから、簡単には変えられませんし……」


「そうですな。下手に弄って崩れられたら元も子もありません」


 サキュバスは、しゃがみこむと、床に敷き詰められている石を撫でる。

 綺麗に切り揃えられた石が隙間無く並んでいた。


 あ!


「ん?どうかしたっすか?」


「わたし、良いこと思い付きました!」


「さっきも聞いたような気がするっす」

 デュラハンと骸骨の弓兵(スケルトンアーチャー)は、顔を見合わせたのだった。

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