冒険者対策、始めました!②
◇3◇
骸骨の弓兵から遅れること15分。
食事を終えたサキュバスは大広間を訪れていた。
搭の5階にあるこの部屋は、レイドボス戦用の大部屋だ。
大勢の冒険者が入っても余裕のある広さになっている。
(もっと狭かったら、入れる冒険者も少なかったかな)
そんなことを考えながら室内を見渡す。
昨夜の戦闘が嘘のように、綺麗に掃除されていた。
魔法で焦げた床も、剣が刺さった壁も元通りだ。
「失礼します。サキュバス入ります~」
部屋の中央には二人のMOBがいた。
一人は先程食堂であった骸骨の弓兵、通称スケさん。
もう一人は、今朝の夢でも出てきた漆黒の首なし甲冑、デュラハンである。
今は、首の上に頭が止められている。
「おはようございます。サキュバス殿」
デュラハンが振り返り、声をかけてくれる。
「おはようございます。デュラハンさん」
骸骨の弓兵も、軽く手をあげて答える。
「こういう相談には一応呼んでおいた方が良いかと思って、声を掛けておいたっす」
「一応とはなんだ、一応とは」
「呼びたくはないけど渋々って意味っす」
「おい……」
「あ、ありがとうございます。デュラハンさんにも聞いてもらいたいです」
サキュバスは小走りに二人のもとにたどり着く。
「冒険者について、だそうですな」
「は、はい……」
「まぁ、立ち話もなんっすから、ちょっと落ち着いた場所に行こうっす」
そんな骸骨の弓兵の提案に二人は頷く。
それを見た骸骨の弓兵は、扉のひとつを目指して歩き出したのだった。
◇4◇
大広間にある扉を抜けると、左右に長い廊下がある。
右に行くと食堂などの共用施設、左に行くとMOB達の部屋がある。
骸骨の弓兵が向かったのは、左側。その最奥の部屋だった、
「さ、着いたっす」
サキュバスは、部屋の扉をよく確認してから呟いた。
「あの……ここ、わたしの部屋ですよね?」
「そうっす」
「どうして?」
「来てみたかったっす」
「そんな理由ですか!?」
とは言え、相談にのってもらうわけだから無下にも出来ない。
サキュバスはドアを開けると、二人を室内に招き入れた。
二脚しかない椅子を二人にすすめ、自分はベッドに腰を下ろす。
お茶でも煎れようかと思ったが、この部屋には給湯設備がなく、デュラハンも気を使わなくて良いと言ってくれた。
「さて、早速本題ですが、サキュバス殿の冒険者対策ということですな」
「はい。姉のようにはいかないですけど、少しは活躍しないと……。 このままだとまったく勝てそうにないので……」
デュラハンは、顎に手を当て考え出した。
「あまり気にされずとも良いのですが。 そうですな、まず、何をもって勝ちとするかですが。冒険者PTの全滅ですかな?」
「い、いえ、さすがにそこまでは……。 う~ん、冒険者を1人か2人倒す……とか」
「もうちょっと高い目標の方がよくないっすか?」
「そ、そうですか? それじゃあ、え~と、3人……」
「もう少し高く」
「え、えぇ~と、じゃあ……」
サキュバスはこめかみに手を当てる。
分かりやすい勝利条件、勝利条件……
「……冒険者を、撤退させる、とか?」
「それっす」
「それでいきましょう」
「ええっ!?い、言わされた感がありますけど!?」
「気のせいでしょう」
「気のせいっす」
この二人、絶対仲良しだ。
「わ、わかりました。冒険者を撤退させられるように、がんばります……」
こうして、第一回冒険者対策会議(仮)が始まったのだった。
◇5◇
「そもそもですけど、わたし冒険者倒しちゃって良いのですか?」
たしか、この搭が過疎ったのは姉が冒険者を倒しすぎたせいだったはずだ……
「無論です」
と、デュラハン
「我々としても仲間であるサキュバス殿が敗北するのを良しとは思っておりません。 冒険者側も、あまり調子に乗せるとマンネリ~…とかほざく輩が出ます」
「強すぎても、弱すぎてもダメってことですか?」
「そうですな。程よい緊張感が大切なようです」
冒険者ってめんどくさい……
「でも、それなら良かったです。心置きなくやっつけられます!」
方法はこれから考えますけど。
「そうですな。その粋です」
「サキュバスちゃんは戦ってみてどんな感じっすか?」
骸骨の弓兵の質問に、サキュバスは天井を見つめながら答える。
「どんな感じ、う~ん、やっぱり戦いにくいですよね。お約束多いですし……」
先制攻撃禁止だけでも相当不利だ。
「あ、あと発動条件もひどいです」
骸骨の弓兵は首を傾げる。
「発動条件ってなんすか?」
「あ、えっと~」
骸骨の弓兵達、一般のMOBには、発動条件が無いようだ。
サキュバスがデュラハンの方に視線を向けると、デュラハンは、承ったと大きく頷いた。
「発動条件とは、その名前の通り、魔法やスキルを発動する為に満たさなければいけない条件のことだ」
「スキルや魔法って、いつでも撃てるもんじゃないんすか?」
「それが、そうでもないんです。わたしの場合HPトリガーと言って、HPが減らないと使えない魔法があるんです」
しかも、そういう魔法に限って強力なのだ。
「残りHP1割から全力出せるって、おかしくないですか……」
そういうお約束なのだから仕方ないのだけど、つい文句が出てしまう。
「他にも、使用武器や天候、場所、支援魔法がついてることや、敵に状態異常がついてるなど、様々な発動条件があるのだがな」
「ふ~ん、強いMOBは大変っすね」
「MOBだけではないが……」
「あ!それで思い出しました!」
サキュバスが勢いよく身を乗り出し、人差し指で、頭の上を指差す。
「これです、これ」
「天井……ですかな?」
「ああ~、初日に頭ぶつけたらしいっすね」
「内緒にしていたのに、なんで知ってるんですか?!」
デュラハンが、さっと顔を背ける。
「ま、まぁ、それは良いです……良くないですけど」
顔を赤らめたサキュバスが、ふるふると首を動かす。
「……じゃなくて、HPバーです」
今は消しているが、戦闘時には表示させるお約束がある。
サキュバスのHPが赤い線で可視化されているのだ。
「冒険者達は、あれを見てトリガー技のタイミングを測っているようなのです……あれ必要ですか?」
「我々にとって必要かと言われれば……不要でしょうな」
「そっすね」
「え、じゃ、じゃあ……消しても」
骸骨の弓兵が両手を上げる。
「でも、戦闘中は表示させなくちゃいけないお約束っす」
「う……」
「マスターに相談することはできますが、HPバーが表示されていない間は、会話が冒険者達に駄々漏れですしな。 勤務中一切喋らなければ可能かも知れないですが……」
「息苦しくて死ぬっす」
「う、うぅ……」
サキュバスはがっくりと肩を落とした。
「次の議題……いきましょうか」