オプジーボに乾杯。
「オプジーボに乾杯」
彼はシャンパングラスを掲げた。
ノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑氏に
無数のフラッシュが浴びせられていた。
彼はテレビのニュースを見つめ、ニヤリとした。
「でも。この俺がガンや苦痛のない世の中に・・・
そして、人類を救済・・・」
笑みがこぼれてくる衝動を彼は抑えきれなかった。
「人間の免疫力はガンに勝つ・・・」
だったら、なぜ人間はガンになる?
ガン細胞は免疫を抑制するタンパク質「PD1」を発生させるという。
このPD1を抑え込み、人間の免疫力を活性化するのが『オプジーボ』というわけだ。
これまでのガン治療は、手術による切除、抗ガン剤、放射線・重粒子線治療だったが、
ガン治療への新たなアプローチだ。
「この治療が広まるにはまだ数年いや十数年かかるだろう」
『オプジーボ』はまだ非常に高額だった。
年間1千万円かかるという。
「この俺が人類を救済する」
彼は天才だった。
が、医学の心得はなかった。
しかし、彼には以前から温めていた秘策があった。
それから5年が経った。
『天才科学者、ガンから人類を救出』、ネットニュースが躍った。
「6割しか効かないけどな」
彼はネットニュースに苦笑した。
一部マスコミは当初、インチキとか宗教的と言ったが、
効果は絶大で、費用も十数万円、それに副作用もなかった。
マスコミ関係者自身がガン治療を受け、
その記事が広まると、次第に信ぴょう性に上がったのだった。
しかし、その方法を知れば、インチキというの最もだろう。
彼は人間の免疫力を高めるのに、催眠術を使たのだった。
プラシーボ効果のようなモノと言えばピンと来る人もいるだろう。
ただのビタミン剤を非常に効果がある薬と偽り、患者に与えると、
暗示の力なのか、病気が治ることがあるのだ。
しかし、彼の使った催眠術は、通常の催眠術とは異なった。
超深層心理に働きかけ、免疫力を十数倍に高めるのだ。
それは、死の恐怖を与え、彼が発見した危機管理遺伝子のスイッチをオンにするのだった。
でも、催眠治療なんて、一部のしか治療できない?
しかし、彼は天才だった。
天才ハッカーの。
「VRを使えば、いいだけさ」
VR、ヴァーチャル・リアリティ、仮想現実だ。
彼が、開発に5年かかった特殊ゴーグルより、超催眠にいざなうのだ。
「これでガンから人類を救済できる」
彼はニヤリとした。
「苦痛からも・・・」
彼は超催眠により、人類をハッキングし、争いごとをなくしたのだった。
『祝、ノーベル賞』シリーズ好評掲載中!