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幼馴染への想い!

はい、続きです。

 特に断る理由もなく、俺は渡辺の提案に乗った。あくまでもデートではなく遊ぶ為である。

 アミューズメント施設へ行くと思ったのだが、渡辺が向かったのは先程入った店舗だった。

 そう言えば、ここへ来る予定だったと言っていたな。

 とりあえず、渡辺に続いて店に入って行く。

 渡辺は鼻歌交じりに次々に服を手に取り、自分に似合うか確認していく。

 たまに「これなんてどうかな?」と訊ねてくるが、正直言って俺は女物の服に疎い。あのイケメンたちのようなセンスはない。だから「いいんじゃないか?」と素っ気なく答えてしまう。デート相手(仮)に言われたくないセリフにランクインしていそうな言葉だった。

 渡辺は呆れた様子で「うわ~そんなだから橘ちゃんに愛想尽かされるんだよ」と、痛い所を突いて来た。返す言葉もない。

 頼りない俺を置いて、渡辺は一人ブツブツ言いながら服を選別していく。


「じゃあ、ちょっと試着するから待っててよ……覗くなよ」

「覗くか!」


 渡辺はニヤニヤしながら試着室に入って行く。

 なんなんだ? 覗いてくれというフリのつもりか? 覗くなよ、覗くなよ、覗くなよ……覗けよ! のノリか? 俺にそんなノリを期待されても困る。相方を見つけてそいつとやってくれ。

 というわけで、待つこと3分。カーテンが勢いよく開かれた。


「じゃーん! どお? どお?」


 どお? と聞かれても困るが、一応見てみることにした。足元から頭のてっぺんまで観察する。

 すらっと伸びる生足は見ていて寒そうだ。スカートは短く、ちょっと風が吹くと下着が見えるんじゃないかと心許ない。Tシャツは丈が短くおへそが見えている。何よりぴっちりしていて体のラインが出過ぎている。おまけに首回りが広く、胸の谷間が見えている。一応上にもう一枚羽織っているが、こちらも丈が短く、お腹は隠せていない。

 総じて言うなら、布面積が少なすぎる。

 観察している間、渡辺はグラビアアイドルを意識したようなポージングを次々に決めていた。動くたびにスカートが翻りヒヤヒヤする。そして、キメのポーズを取り動きを止めた。

 詳しく解説すると、右足を前に出し、前屈みとなってその膝に両手を乗せている。両腕で挟み込み胸を強調しているようだ。そして、顔を上げ上目遣いでこちらを見ている。が、若干睨んでいる感がある。

 早く感想を言え、という事だろう。


「スカートが短くて見ていてヒヤヒヤする。Tシャツの丈が短い、腹が冷えるぞ。ピチピチし過ぎ、胸元開きすぎ、そんなだから胸を真っ先に見られるんだ。全体的に露出が多い、布を増やせ。以上だ」

「……あ、うん。忠告ありがとう」


 渡辺は若干引いていた。

 おかしいな。感想を言ったつもりが忠告になっていたようだ。


「あのさ、私いつもこんな格好をしてるわけじゃないからね」


 確かに、さっきまでは9分丈の細めのパンツと、VネックのTシャツにブラウスを羽織っていた。露出は意外と控えめではあった。


「でもね、私みたいな体型をしてると、ダボついた服とか、首の絞まった服着ると太って見えるのよ。そう見せない為にも、多少体のラインが出る服だったり、胸元が開いてる服を選ぶしかないのよ。見られるのは、私に魅力があり過ぎるから、ってことで我慢すればいいし」

「そうなのか。苦労してるんだな」

「まあね。それなのに、やっぱり神野は他の男子とは違うのよね」

「は?」

「この服着たのはね、実験も兼ねてたのよ」

「実験? なんの実験だよ」

「神野が最初に見るのはどの部分かって実験」


 なんだそれは? 何が目的でそんな意味のわからない実験をしたんだ?


「私の場合、大抵の男子はまず胸、次にお尻か足に目が行くのよ。顔を見るタイミングは人によっていろいろだけど、顔を最初に見ることはないかな。なのに神野はつま先からだったのよね。脚フェチなのかとも思ったけど、さっきの忠告でハッキリしたよ」

「どうハッキリしたんだ?」

「ズバリ! 神野は女に興味がない!」

「は?」

「そう結論付けると納得できるのよね。私の胸を見ないし、胸を触っても興味ないって言い切るし」


 おかしなことを言うな。渡辺は見てほしいのか? 俺に興味を持ってほしいのか?


「つまり、神野は女より、男の方が好き!」

「なっ!?」


 なぜそんな結論になる? 女性の嫌がることをしないことがいけないことなのか? 恋人でもない相手に見られて嬉しいはずがない。それとも、敢えて見てやることが礼儀だとでもいうのか? いや、確かに露出しているという事は「見てもいい」と、捉えることも出来る。「見る」「興味を示す」が正解なのか? 見られる側に立ってないからわからないな。

 渡辺は俺の反応が楽しいのか、ニヤニヤしている。


「なんてね」

「は?」

「冗談よ冗談」


 どのあたりが冗談なんだ? 女に興味がないってところか? それとも実験自体が冗談なのか?


「神野はさ、橘ちゃんにしか興味がないんだよ」

「は?」


 またしても何を言い出すんだ?


「前にも言ったけど、橘ちゃんみたいな可愛い子が側にいて、好意を寄せてくれてるんだもん、そりゃ他の女になんて興味出ないよ」

「……」

「ハァ、自覚ないみたいだからハッキリ言ってあげるけど、神野はさ、橘ちゃんのことが好きなんだよ」

「は?」

「だから、相手がイケメン二人だからって引く事ないんだよ。引いちゃったら、本当にあのどちらかに橘ちゃんを取られて後悔することになるよ?」


 俺が身を引いた? それは違う。今の俺にはあの中に割って入って行く資格がないと思っただけだ。

 しかし、そう思った時点で、俺がハルの事を好きであると言っているようなものだ。

 確かに俺は、幼い頃ハル君に憧れていた。ハル君みたいに格好良くなりたいと思っていた。母さんにも、ハル君の事が好きだからハル君みたいになりたいと公言していた。下手をするとハル君になりたいとさえ思っていたかもしれない。あれは憧れではなく好意だったのかもしれない。

 再会したハルに好きだと言われ嬉しかったことは確かだ。しかし、そのハルが女になろうとしていることにショックを受けただけだ。俺のためとはいえ、俺のためだけに女になろうとしていることがショックだったのだ。

 でも、今日ハルたちを見て考えが変わった。性別なんて大した問題ではないのだと。大切なのは中身、姿形ではないのだと思い知らされた。俺はその一番大切な部分であの二人に負けていたのだ。

 しかし、幼かったあの頃の想い、10年間積み重ねてきた想いは誰にも負けないはずだ。ハルもずっと俺の事を想い続けてくれていた。だったらぶつかっていくしかないだろう。

 たとえ玉砕したとしても……。


 渡辺が俺を誘ったのは、俺に素直になるよう話をする為だったようだ。用の済んだ渡辺は、先ほどの実験用の服ではなく別の服を買って帰って行った。

 最初に来た時に買うと約束していたからではなく、元々買うつもりの服だったらしい。尾行に付き合わせた事と、俺の背中を押してくれた恩を返す意味でも奢ってあげようとしたが、「別の形で返してくれればいいよ」と言って断られてしまった。

 別の形と言われても、どうすればいいのだろう? まあ、渡辺の喜びそうなお礼を考えておこう。

 


◇◇◇



 帰宅すると、先に帰っていたハルが出迎えてくれた。


「ユウ君おかえり。ご飯にする? お風呂にする? それとも、わ・た・し?」


 帰るなりお約束なセリフを言っている。しかもハートマークがいっぱいついている感じがする。

 いつもよりテンションが高いのは、あの二人と遊んできたからだろう。


「ふふっ、これ一度言ってみたかったんだぁ。先にご飯だよね? 準備しとくから手を洗って来てね」


 ハルは、パタパタとキッチンへ駆けていく。

 俺はハルの背を見つめ声を掛けた。


「ハル」

「ん? なあに?」


 そう言って振り返るハルは可愛らしい。

 姿形は変わっていても、俺の気持ちはやはり変わらない。


「あの、話があるから、後で時間をくれないか」

「え? あ、うん……わかった。えへへ」


 何かを察したのか、ハルは照れくさそうにキッチンへ向かった。

 お互い緊張しているのか、夕食は静かに過ぎていった。

 緊張の所為で何を食べたのか記憶にない。うまかったのは確かなんだが。

 そして、リビングでくつろいでいると、その時が訪れた。


「ユウ君、話って何?」


 洗い物を終えたハルがそう訊ねて来たが、俺の話を察しているようで、すでに頬が朱に染まっていた。

 俺はハルが隣に座るのを待ち、口を開いた。


「えっと、まず、一つ謝らないといけないことがある」

「え? 謝るって何を?」


 ハルはまったく予期していなかったのだろう。ハテナ? という表情をしている。


「今日、気になってハルの後をつけたんだ」

「え? それって……え!? ええ!?」

「本当にゴメン! どうしても気になって」


 ハルがどう思っているのかはわからないが、とりあえず取り乱しているのは確かなようだ。


「あ、えっと、それは、私の事を気にしてくれてたってことだからいいんだけど……」

「だけど?」

「あの二人は、その……違うから! えっと、その、そう! 友達だから! ユウ君が思ってるような関係じゃないから!」

「いや、うん。そのことはいいんだ。ハルに隠し事をしたくなかっただけだから」

「あ、うん」

「それでな、彼らのおかげで俺は自分の気持ちに素直になろうと思えたんだ」

「え? ユウ君の気持ち?」

「ああ」


 俺は体をハルへ向け、真っ直ぐにハルを見つめる。

 俺の真っ直ぐな視線にハルも応えてくれる。その澄んだ瞳には俺の顔が映り込んでいた。


「俺はハルの事が好きだ。子供の頃からずっと好きだった。再会して姿は変わっていたけれど、俺の気持ちは変わらない。だから、俺と付き合ってほしい」

「っ!?」


 ハルは両手で口元を押さえ、その瞳は潤み、頬に涙がツーッとこぼれ落ちていった。


「嬉しい。私もユウ君の事が好き。大好き!」


 ハルは俺の胸に飛び込んできた。小さな体が、喜びに震えているのがわかる。

 俺はハルの体をそっと抱きしめる。

 ハルは顔を上げ、潤んだ瞳を俺に向けた。


「ユウ君、これからよろしくお願いします」


 そう言うと、ハルは顎を上げ瞳を閉じた。

 目の前にハルの可愛らしい唇が待っている。

 まだ話すことがあるのだが、それは後でもいいだろう。ハルをずっと待たせていたのだ、これ以上待たせたくはない。

 俺はハルに顔を寄せていく。ハルの顔が近づいて来る。

 俺はずっとこうなることを望んでいた。ずっと好きだったハルと想いが通じ、腕の中にハルがいる。今が幸せのピークなんじゃないかと思える。しかし、唇を重ねれば、更なる幸福を得られるだろう。そして、その先にはそれすらも超える幸せが待っている。二人の幸せの時が待っている。

 俺はこの幸福を胸に刻みつけながら唇を重ね……


「たっだいまぁ―――! 悠! 母さんがいなくて寂しかったで…………しょ―――!?」


 今まさにキスをしようとする瞬間、空気を読まないヤツが現れた。俺の母さんだ。

 母さんはこの現場を目撃し、素っ頓狂な声を上げていた。

 頼むから空気を読んでくれ!


悠の言動が。ついに悠もそっちへと目覚めた?

次話、どんなオチが待っているのでしょう。

ブクマ、評価、感想お待ちしています。


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