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幼馴染を尾行する!

はい、続きです。

 ハルたちが向かったのは複合スーパー。ここは映画館や、ボーリング場、ゲームセンターと言ったアミューズメント施設も入っていて、高校生が気軽に遊びに来れる優良店だ。

 しかし、ハルたちが向かったのはそちらではなくスーパー側、衣料品、ブティック等が多く並ぶフロアだった。

 会話を弾ませながらウィンドウショッピングに興じているハルたちを俺たちは尾行している。

 今のことろおかしなところはない。仲の良い友達同士で遊びに来たように見える。いや、まあ、少し仲が良すぎる気がしないこともないが。

 すると、気になる物を見つけたのか、とある店に入って行った。


「あ、あのお店、可愛い服があるんだよねぇ。私も今日来るつもりだったんだぁ」


 渡辺が目を輝かせている。ここへ来る途中に俺を見つけてしまったという事か。


「よし、入るぞ」


 店の中はさほど広くはない。近づき過ぎるとバレてしまうだろう。外で待っていた方がよかっただろうか。いや、外からでは、ディスプレイされているマネキン等が邪魔で中の様子が窺えない。それではつけてきた意味がない。

 俺たちは棚やマネキンの影に隠れ尾行(監視)を続ける。

 

「あ、これ可愛い」

「そうだね、ハルに似合いそう」

「こっちもいいな」

「どれどれ?」


 そんな楽し気な声が聞こえてくる。ハルという呼び方だけでも彼らの親密度が窺える。

 ハルは気に入った服を体に当てて姿見で確認していく。その中には彼らがいいと言った服も含まれていた。確かにどれも可愛らしく、ハルが着たら似合いそうだ。悔しいが彼らのセンスはなかなかのものだ。イケメンは何をさせてもイケメンらしい。

 しかし、その服はなんだ? 少しばかり露出が多くないか? 胸元が開き過ぎている。家でもそんな露骨な服は着ていなかっただろう。その二人に勧められその気になっているのか?

 俺はマネキンを掴み若干乗り出していた。

 

「あの、お客様……」

「あ、ごめんなさい。後でちゃんと服買うので、今はそっとしておいてください」

「はぁ……」


 というやり取りが背後で行われていたが、そんなことを気にしている場合ではない。


「ヤバイ、こっちに来るぞ」

「え?」


 厳選した服を手にハルたちがこちらに向かって来る。

 しかし、レジは向こうだというのにどうしてこちらに来るんだ? ……っ!? 試着か! 俺の背後にカーテンの引かれた試着室並んでいた。

 ここは店の奥、完全にこちらを向いている状態で下手に動けば見つかってしまう。

 俺は咄嗟の判断で、渡辺を引き連れ試着室の飛び込んだ。

 それと同時に、ハルたちは試着室前に辿り着いた。


「あれ? 入ってる?」

「……みたいだね」

「こっちは空いてるみたいだよ」


 間一髪というところか。


「んん!?」


 声を出されないよう口を塞いだのだが、なぜか渡辺が暴れている。


「(シーッ! 声を出すな、見つかるだろ。今手を離すから声を上げるなよ)」


 なんだか、これでは俺が渡辺を襲っているみたいだな。

 渡辺が、コクコクと首を縦に振るのを確認し、渡辺の口からそっと手を退けた。


「(ちょっと! どこ触ってるか自覚ないの!?)」

「(ん? どこって?)」


 右手はたった今退けたところだ。という事は左手か? 見ると、俺の左手は渡辺の胸を後ろから鷲掴みにしていた。

 服越しとはいえ、実際に触れると破壊力が違う。掌からこぼれ落ちそうな程の大きさ、重量、柔らかさが伝わってくる。

 とはいえ、構図的には完全に襲っていた。


「(ちょっと!? いつまで触ってるのよ!)」

「(ああ、すまん。つい確認を。でも安心しろ、俺はお前の胸に興味はない)」

「(うぐっ!? だったら、いつまでも触ってないで手を退けてよ!)」


 やれやれ、騒がしいヤツだ。

 俺が手を退けてやると、渡辺は「(私のアイデンティティを全否定するなんて、ありえない)」とブツブツ言い、恨みの籠ったような視線を向けてきた。

 しかし、今はそんなものに構っている暇はない。すぐ隣の試着室にハルが入ったようだ。

 壁越しに耳を澄ますと、衣擦れの音が聞こえてくる。

 そんな俺を見て、渡辺が顔を顰めこう言った。


「(神野、橘ちゃんの着替えを想像して興奮してんの? えっろーい)」

「(アホか、うるさい、黙ってろ)」


 俺が適当にあしらったことが気に入らなかったのかもしれない。

 渡辺は大きく息を吸い込み、大声を発しようとしていた。

 俺の神経はかなり研ぎ澄まされていたのだろう、すぐにそれに気づき渡辺の口を塞いだ。


「じ(んぐぅ!?)」


 塞いだはいいが、ジタバタと暴れている。あまり騒ぐとマジで気付かれてしまう。


「(悪かった、謝るから大人しくしろ)」


 しかし、渡辺は暴れ続けている。


「(わかったわかった、後で何か奢ってやるから)」


 というと、ようやく大人しくなった。そっと渡辺の口から手を退けると、「(手!)」と簡潔に指摘してきた。

 俺の左手は、懲りもせず渡辺の胸を鷲掴みにしていた。


「(お、おう、すまん)」


 今度は素直に謝っておいた。また暴れられても困るからな。

 渡辺はちょこんと座り、乱れた身なりを整えている。

 それはさておき、今の物音で不審がられていないだろうか。

 カーテン越しに外の様子に耳を傾けると、話し声が聞こえて来た。


「(ねぇねぇ、さっきから隣がドタドタうるさいんだけど)」


 隣にいるハルが不審がっているな。ていうか、着替えてたんじゃないのか? 顔だけ出してるんだよな? な?


「(中で何してるんだ? 今は収まったみたいだけど)」

「(さっき、カップルが入って行くのがチラッと見えたけど)」

「(ああ~なるほど)」

「(うわ~)」


 声を潜めても聞こえてるんだよ! 何がなるほどだ! カップルではないし、あらぬ誤解をするんじゃない! ハルなんて引いてるだろ!

 ま、まあいい、その誤解のおかげで、そっとしておいてくれているみたいだからな。

 すると、隣の試着室のカーテンが開かれた。ハルの着替えは終わっていたようだ。


「ど、どうかな?」

「お、いいねぇ」

「うん、でも、ちょっと露出が多いかな?」

「この服は胸元が開いてるのが売りだろ? これを見て嫌がるヤツなんていないって」

「それもそうだね。何より似合ってて可愛いし」

「えへへ」


 力説してたのは茶髪男の方だな。あの服はお前の趣味か! 黒髪男! もう少し食い下がれ! 何よりハル! なんで嬉しそうなんだよ! 褒められて嬉しいのはわかるけど、胸元ガン見されてるぞ! たぶん!

 とはいえ、似合うというそのハルの姿も気になる。

 俺はカーテンを少~し捲り、そっと覗き見た。

 ……見えない。それはそうだ、ハルは試着室の中にいるんだからな。見るには外に出る必要がある。しかし、外に出てしまえば、俺がいることがバレてしまう。何より今は、あらぬ誤解をされている真っ最中だ。絶対に見つかるわけにはいかない。


「ん?」

「!?」


 俺は背筋がゾクッとし、サッとカーテンを閉めた。

 茶髪のチャラい方が俺の視線に気づいたようで、目が合いそうになった。

 危ない所だった。危なかったのだが……なんだ? 何かが引っかかった。しかし、それが何なのかわからない。ただ一つわかることは、茶髪男の目が獲物を狩るハンターのような目をしていたということだ。

 大げさかもしれないが、俺にはそう見えてしまったのだ。


「…………」

「(どうしたの?)」

「(ん~いや、何でもない)」


 悩んでいる間にもハルは試着を続け、俺たちは20分近く試着室に閉じ込められていた。



◇◇◇



 次に向かったのは喫茶店。歩き疲れて一休みと言ったところだろう。


「カフェに入ったね。どうする?」


 カフェって、スーパーに入っている店をカフェと言っていいものだろうか。まあ、確かにオープンカフェみたいな店舗ではあるけど。


「神野? 聞いてる?」

「え? ああ」

「あんまり近づくと橘ちゃんレーダーに引っ掛かるかもしれないけど、隅の方に座れば大丈夫かもよ?」


 先ほどの店とは違い、背の高い隠れられるものがない。しかし、外で見張っていると他の客に不審がられ逆に目立ってしまう。


「そうだな。入るか」


 というわけで、カフェに入って行く。

 ハルたちは外側の目立つ席へ、俺たちは店の奥の目立たない席に着いた。

 店の前を通る他の客は、その三人のビジュアルに惹かれチラチラと見ては通り過ぎていく。


「やっぱりあの三人は目立つねぇ」

「……」


 確かに目立つ。傍目には美男美女。一人の女を二人の男が取り合っているように見える。実際には三人共男なのだが。

 三人は丸テーブルにハルを挟んで座っている。注文を済ませると、何やら雑誌のようなものを広げ、会話を弾ませている。

 遠くて何を話しているのかはわからないが、随分と楽しそうだ。。

 ハルが雑誌を指差すと、「どれどれ」と言った感じに二人はハルに寄り雑誌を覗き込む。なんてわざとらしい。ハルと密着しようとしているのがまるわかりだ。

 しかし、ハルは特に嫌がることなくニコニコしていた。

 気を許し過ぎだ。男は狼なんだぞ! と思いはするが、なんだかあの三人を見ていると、あれが普通な感じがしてしまう。そう、不自然な感じがしないのだ。

 それが何だか悔しい。


「神野は何にする?」

「ホットコーヒー」

「はいはい、私はこれとこれをお願いします」


 いつの間にか注文を取りに来ていたようで、渡辺が手早く注文してくれていた。

 向こうの席では注文していた物が来たようで、雑誌が除けられた。

 二人はコーヒー、ハルは紅茶にパンケーキのようなものを頼んだようだ。ニコニコ幸せそうに頬張っている。

 黒髪の男がハルに話しかけると、ハルがパンケーキを食べさせた。「はい、あ~ん」というやつだ。それを見た茶髪の男も催促し、同じく食べさせてもらっていた。


「……」

「これはデートだねぇ」

「!?」


 振り返ると、渡辺がハルと同じパンケーキを頬張っていた。流行っているのか?


「神野、コーヒー来たよ」

「え? あ。おう……」


 こっちを向けという事か。

 俺は渡辺に向き直り、何も入れず、ずずっとコーヒーを啜った。


「私の見た限りだと、あの三人相当仲良いね」


 それは見ていればわかる。


「二対一で組み合わせはおかしいけど、橘ちゃんがどっちを選んでもお似合いのカップルになるんじゃないかな」

「そ、そう思うか?」

「うん。神野には悪いけどね。神野と橘ちゃんが二人きりでいるところは見たことないけど、学校にいる時の橘ちゃんは、壁があるって言うか隙がない感じがするのよねぇ」


 その違いは俺にはわからないけど、よく見ているな。それはきっと、男であることを隠しているからだろう。


「でも、あの二人といる橘ちゃんにはそれがないのよ。あれが素なのかな?」


 そうなのかもしれない。今のハルは俺といる時以上に素になっている気がする。俺といる時は遠慮しているのかもしれない。だとしたら、それはハッキリしない俺の所為だろう。でも、あの二人といる時は素でいられる。あの二人でならすべてをさらけ出せるという事か? それはつまり、すでに男であることを告げているという事だ。そうでなければパットが見えるよう露出の多い服を試着したりはしないだろう。そしてあの二人は、それすらも受け入れ、ああして好意を向けている。

 ハルはどう見てもあの二人の事を好いている。もちろんあの二人もハルの事が好きだろう。それはあの三人の様子を見ていれば疑いようがない。

 その感情が、友情なのか愛情なのかはわからないが、それは当人同士の問題であって、今の俺が口出ししていいことではない。

 ……俺は何をしてるんだろうな。


「渡辺」

「ん?」

「俺、帰るわ」

「いいの?」

「ああ」


 俺はコーヒーを飲み干すと、約束通り渡辺の分を奢り店を出た。

 ハルたちはすでに出ていたようで、そこに姿はなかった。


「神野!」

「ん? なんだ?」

「これから暇?」

「暇と言えば暇だけど」

「じゃあさ、今からデートしよ」

「は!?」


 思いがけない渡辺からの提案だった。


悠は何をしているんでしょうね。

ブクマ、評価、感想お待ちしてます。

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