1章ー9 決意を固く
粉塵爆発。それは、高濃度の可燃性の粉末が大気中に浮遊し、そこに何かしらの方法で着火することで引き起こる。
小麦粉とランプ。これだけあれば、材料は揃っている。
「ただ、自分の安全までは保証できないな…」
その通りだ。
粉塵爆発は超高火力故に、自分の身の安全までは保証することは出来ない。
まずそれ以前に、実際に粉塵爆発を行った事がない。
当然、起こらない可能性もあるのだ。
相手は相当な実力者だ。もし何らかの防御方法があったとしたら、それはただの無駄うちとなってしまう。
だからこそ、勝算は無いに等しいのだ。
絶望的な状況を前に、ジュンヤは自分の手元にある小麦粉の袋とランプに目を落とす。
「それでも……」
拳を強く握り、顔を上げる。
「やるしかない!!」
そして、ジュンヤは走り出す。
目指すは上の階。上からであれば、小麦粉を撒き散らすことができ、更に爆風のダメージも軽減することができる。
不意をつかれたリグレットは、ジュンヤの突然の行動に少し反応が遅れる。
「っ!逃がさないよ!」
リグレットは掌から闇の炎を射出し、ジュンヤを止めようとする。
ジュンヤはそれを紙一重で避けていく。
一度でも当たってしまえばゲームオーバー。
─避けろ、避けろ、そして走れ!まだ、まだ終われないんだ!
迫り来る炎を避けつつ、階段を目指す。
しかし─。
「!!ぐぁっ!!」
リグレットが放った炎が壁を破壊し、その破片がジュンヤの肩へと突き刺さる。
激痛が、ジュンヤの体を駆け抜ける。
リグレットによって痛め付けられた体が、更に悲鳴を上げる。
膝を付き、袋を落として傷口を押さえるジュンヤ。
─今、ここで諦めたら全てが楽になって終わる。
そんな誘惑がジュンヤの頭をよぎる。
全てを投げ捨て、命さえも終わらせたい。
悪魔の囁きが、ジュンヤの脳内を蝕んでいく。
─まだだ…まだ、終われない…!!
それでも、体に残る生存本能が、ジュンヤの体を突き動かしていく。
何のためにここまでやるのだろうか。
異世界生活をこんなにあっけなく終わらせたくないからだろうか。
リグレットに勝ち、名誉を得るためだろうか。
金…名誉…ヒロイン…否。
「シャマ…アリス…」
仲間のため、友達のため。
たとえ出会ってから一時間もたっていなかったとしても、仲間なのだ。
この異世界で、希望の道を開いてくれた仲間なのだ。
ここで終わるわけにはいかない。
まだ、終われないのだ。
─それは、かつてジュンヤの支えとなってくれたあの人と同じように……
「負けない…絶対に!!」
そして、また走り出す。
迫り来る炎を避けつつ、階段を目指す。
「─あった…!」
ようやくたどり着いた階段。
炎によって崩落寸前だが、ジュンヤは躊躇いもなく駆け上がる。
文字通り必死の思いで二階へたどり着いた。
肩に突き刺さる破片が痛む。
しかし、それ以上に強い決意がある。
「何をするんだい?」
リグレットの言葉に嘲るようすはなく、自分の身の危険を察知しているようだ。
「…これで決着はつく。気合いで乗り切る!!」
そう言って、二階から小麦粉をばらまく。
パラパラと降り注ぐ小麦粉にリグレットは何をしているのかわからないというような表情をしている。
「これで………」
ランプを落とす。落ちていく。
一度きりのこのチャンス、逃すわけにはいかない。
「!!!」
リグレットは危険に気づくが、もう遅い。
「終わりだーーー!!!!!」
ジュンヤは持っていた剣をランプ目掛けて投げる。
火事場の馬鹿力ならぬ、火事場の馬鹿命中力を発揮し、真っ直ぐランプへと飛んでいく。
そして─────
凄まじい炸裂音と爆風によって、食料倉庫は崩壊していった。
ただの糞中学生対"暗黒の使徒"リグレット・クレア、戦いがようやく、決着。