1章ー3 仲間を求めて
表の路地へと出る道に、1人の青年が立っていた。
赤い髪で、服には金獅子のような紋章が彫ってある。
年はジュンヤと同じくらいだろうか。
身長はジュンヤより一回り大きく、細身の体だが、力強いたたずまいに、つい恐怖を抱きかねない。
「彼への狼藉は認めない。ここで素直に立ち去ってくれれば、痛い思いはさせないし、衛兵にも報告したりしない。さあ、どうする?」
青年はそう言って、握っていた剣をチンピラ二人に向けた。
「あぁ?お前も立場がわかってねーよーだな」
しかし、怯む様子の見られない二人。
1人がナイフを構えて、青年に近づいていく。
──これはなんとなく、先の展開が読める気がする…
「そうか…残念だ」
そして、青年は剣に力をこめると、彼の持っていた剣のまわりの空間が歪み、赤いオーラが集まってくる。
そして、剣は炎に包まれ、赤く染まった。
「『フレアソード』」
そして、彼は軽く剣を振り抜いた。
火炎を取り巻いたその剣は、しなるようにチンピラの体へと襲いかかり、やすやすとその巨体を吹き飛ばした。
チンピラは壁に頭からぶつかり、動かなくなった。
──あーあ、やっぱり。
「安心してくれ、火傷を負わないように火力は加減してある。さて、君はどうするかな?」
刃による斬撃ではなく、峰での打撃だろう。だからチンピラには出血が見られない。
そして、それを見たもう一人のチンピラは、先程までの威勢とはうってかわって、顔が急に青ざめていく。
「冗談じゃねぇ!逃げるぞ!」
そう言って、チンピラは倒れている仲間を引きずって逃げていった。
なかなか重いらしく、一概に素早くとは言い切れないスピードだ。
─こっちの世界にも魔法みたいなもんはあるみてーだな…
チンピラたちが完全に見えなくなったのを確認してから、青年はジュンヤに近寄り、
「ふう、大丈夫かい?危ないところだったね」
「…お、おう。ありがとな、助けてくれて」
「裏路地は人通りも少なくて、助けを求めてもこない場合が多い。十分に注意してね」
戦った後とは思えない爽やかな顔で、注意をする。
「ところで、君は見たことのないような服装をしてるね。旅の途中かな?」
「まあ、そんなとこだな。お前はどーなの?」
「…僕も旅の途中だよ。ここは旅人がたくさん集まってるから、仲間がたくさん出来るんじゃないかなとおもってね」
─へー、旅人がたくさん集まってんのか。召喚者も気遣いの心はあるんだな。
先ほどまでの愚痴とはうってかわって、少しだけ召喚者を見直したジュンヤ。
もし、ものすごい山奥の村に召喚されていたとすれば、間違いなく餓死していただろう。
そこは召喚者に感謝するべきだろうと感じる。
「…旅も1人では心細いところもある。どうだい?僕と一緒に旅をしないかい?」
青年はそう提案してきた。
「お、まじで!?よっし決定!」
急な提案ではあったが、先程の戦いからして彼を仲間にすればかなりの戦力になる。
「ところで、名前を言ってなかったな。俺は如月ジュンヤ、よろしくな!」
「僕の名前はシャマ。こちらこそよろしくね」
そして、二人は握手を交わした。
「じゃあ、早速行こうぜー!」
そう言って、足早に表路地へと走っていくジュンヤ。
二人は表路地に出て、町を見てまわることにした。
「ここはなんて言う町なんだ?」
「ここはギルヴァートと言う町だよ。大きな集会所があることで有名で、そこで旅人が旅の支度をしたり、仲間を集めたりするんだ」
「へぇー、じゃあ、シャマは何で裏路地なんかに来たんだ?集会所へは行かなかったのか?」
「僕も集会所へ向かおうとしたんだけど、なかなか見あたらなくて。それで、裏路地に行ったら君がいたわけだ」
「方向音痴か!?」
「それほどのことでもないよ」
「誉めてないよ!?」
つい心の声が漏れてしまった。
近くの看板から、集会所への道を探す。
「集会所へは…あっちか。よし、行こう!」
ジュンヤは明るくスキップしていく。それに苦笑いしながらついていくシャマ。
集会所に近づくに連れて、旅人らしき人も多くなってきた。
立ち並ぶ店も、市民がよく使う果物屋などではなく、旅に必要な装備などが売っている店が多くなってきた
「よし、ここだね。さあ、どんな人がいるのかな?」
二人は同時にドアに手をかけ、中へと入って…
「うご!」
内側から勢いよくドアが開き、頭をぶつけたジュンヤはあまりの痛みにその場にうずくまる。
「おっと、わりぃな兄ちゃん」
そう言って、中から男が出てきた。
その後に続いて、何人か人が出てきた。この人たちも旅支度を整えて出発していくのだろう。
「ジュンヤ大丈夫?」
心配そうに見つめるシャマ。
「お、おう。大丈夫大丈夫。」
ジュンヤは平気なように装ったものの、正直なかなか痛かった。
ぶつけた頭をさすりながら、ジュンヤたちは集会所へと入っていく。
そして、集会所の中にはたくさんの旅人が酒を飲んだり、話したりしていた。
どの人もかなり強そうな装備をしており、旅への支度を整えていた。
「うおー!やっぱ集会所ってテンションあがるな!」
「聞いてた通り、凄い人数だ。これなら、良い仲間が見つかりそうだね」
二人は近くの椅子に座って、飲み物を飲もうと、ウエイトレスを呼ぼうとする。
─やべ、俺金ないんだった。まあいいや。シャマにおごってもらお。
─これはいけない、僕お金ないんだった。ジュンヤにここはおごってもらって、後で返そう。
それぞれ全く先の事を考えていない。
──すると、
「そこのお二人さん、隣座ってもいい?」
─鈴の音のような、女性の声がした。