1章ー2 裏路地での出逢い
…軽く彼の紹介をしよう。
彼の名前は如月ジュンヤ。(きさらぎ じゅんや)
黒髪黒瞳、まあ日本人なんで当たり前。
今年受験生の15歳である。
人よりなんでもそつなくこなすが、特にこれといった才能はない。
一応サッカー部に入ってはいるが、サボりがち。
もともとたくさんの異世界系小説は読んでいたが、自分には魔法は似合わないと思い、3年間剣道をしていた。もっとも、作法などは全くといっていいほど身に付いていない。
悪巧みやイタズラも好きで、よくクラスメートにイタズラを仕掛けている。
最高で、一日に5回のイタズラを仕掛けるという高記録も叩き出している。
特に不良というわけでもないのに、生徒指導を受けた回数は100回を越える。
生徒指導の主任も、いくら注意をしても止めないため、最近では注意も少なくなってきている。
「そんな俺が、どうして…」
町の裏路地に座りこみ、頭を抱えるジュンヤ。
「てかヒロインは?俺のヒロインはどこだー!」
召喚ものの定番、ヒロインの登場だが、何故かいつまでたっても現れない。
「まず俺が召喚っておかしいだろ!もっとこう、才能のあるやつを呼べよ!召喚者さん人選びミスってるよ!それに、季節おかしいでしょ!日本は冬だったのに、何でいま呼び出すのかな!タイミングってもんがあるでしょーが!」
散々召喚した人をディスった後、自分の持ち物を確認する。
「財布、ケータイ…あ、クーポン期限今日までじゃん。あとは……おお!諭吉さん!」
偶然入っていた一万円札に喜びを隠せない。
しかし、
「やっぱこっちだと金銭とか全く違うのか?そうだとしたら俺無一文だし、金稼がねーとだな。あーでももしかしたらヒロインが俺を助けてくれ…」
「──さっきから聞いてりゃ兄ちゃん、随分わけのわからねーこといってんじゃねーか」
不意に声をかけられ、顔をあげる。
そこには、自分よりかなり強そうな男が二人立っていた。
二人とも自分より2、3歳かは年上のように見える。
さっきからといっていたあたり、始めからジュンヤをターゲットにしていたのだろう。
チンピラ二人の持ち物を確認。
1人は腰にナイフをつけており、下手に抵抗すると刺されるかもしれない。
もう1人は何も持っていないものの、殴りあって勝てる相手とはとても思えない。
いつもであれば、爆竹だのエアガンだのを持ち合わせていたものの、現在は使えそうなものをほとんど持っていない。
「…えっと…どのようなご用件で?」
「見りゃ分かるだろ?痛い思いしたくなきゃ金だしな」
「あいにくこっちは一文無しでして。では、失礼しまーす」
自然な雰囲気で二人の間を通り過ぎようとしたものの、すぐに押し返される。
「ぐっ…」
「誰が行かせると言った?」
やはり通す気はないようだ。
──どうする俺…戦って勝てる訳もない。かといって逃げ道もない。うわ、さっきの店で剣買っときゃ良かった…あ、でも貨幣が違ったら意味ないか。いや、ともかくどうすれば…こういう時は…
「あ、待て!」
こういう時は逃げるのが一番。ここ、テストに出ます。
いきなりの行動で少し反応が遅れたものの、すぐにその後を追ってくるチンピラたち。
──冗談じゃねぇ!あんなやつらに絡まれるくらいなら逃げる!
幸いにして、逃げ足だけは一級品だ。
サッカー部で鍛え上げた脚力を駆使し、どんどんと逃げていく。
少しだけ、ほーんの少しだけサッカー部に入っていたことに感謝した。
階段を駆け上がり、角を右、左、左、右…しかし、
「行き止まりかよ…」
生憎この世界の土地勘は全く無いため、見事に行き止まりに引っ掛かってしまった。
「くそ…もう逃げられねーぞ」
後ろを向くと、先程のチンピラ二人が息を切らして立っていた。
しばらくの間にらみ合いが続いたが、ジュンヤは覚悟を決めた。
──よし、もったいないがスマホを投げつけるしかない!その内にもう1人にタックルして逃げ去る!不意打ちなら俺でも怯ませることくらいは出来るはずだ!
そして、頭の中でカウントを始める。
ポケットにあるスマホを握りしめ、体勢を低くする。
─3…2…1……
足を強く踏み込むその直前、
「─そこまでだ」
と、声が聞こえた。
その声には、三人を止めるだけの覇気が込められていた。
三人とも声のした方へと振り向くと、そこには…
「君たちの悪徳は、僕が許さない」
そう言って、声の主は、腰にある剣を引き抜き、構えた。