1章ー1 見慣れぬ景色
気が付くと、真っ暗な世界に立っていた。
─何も見えない、聞こえない。 いったいここは……いや、待てよ。俺ってさっきまで何してたんだっけ……
すると、急に目の前に一筋の光が射し込み、辺りが明るくなっていく。
「うっ……」
視界がだんだんと元に戻り、いつもの景色に…戻らなかった。
夜だったはずの町は、見たことのないような景色が広がり、冬に近づき、冷え込んできたはずの気温も、ポカポカと温かい陽気に包まれている。
建物は西洋に建てられたようなスタイルが並んでおり、自分の住んでいたいつもの町とはだいぶ違っている。
「……は?」
─しばらくの間、彼は立ち尽くしていた。
「…学校帰り、遊びに行こうと着替えが終わった直後、気が付くとここに立っていた。これはつまり……」
と分析をした後、少し間を空けて、
「…異世界…か?」
彼の推論が正しいかのように、目の前を馬車が通過していく。
周りの人の服装も、自分の着ている普段着とはだいぶ異なっている。
─落ち着け…ここは深呼吸、深呼吸。
そして、彼…如月ジュンヤは大きく息を吸い込んで、
「なんじゃこりゃーー!!!」
と、叫んだ。
周りの人々は驚き、こちらを見てきた。
「あ、すんません。」
周りの反応を見る限り、言語は日本語で間違いなかったようだ。
─よかった。まじ言葉が通じなかったら詰んでたな…あとは文字なんだが…
ジュンヤは周りを見回し、手がかりを探す。
「おお!よかった〜、文字も日本語だな」
言語の通じない未来を一瞬懸念したものの、近くにあった店の看板を見て安心する。
「そこの兄さん、見ない服装だな。何処から来たんだ?」
店の人に声をかけられた。
「…遠い遠い、日本というところからきたのさ」
「ニホン?聞いたことのない地名だな」
─やはり日本はこちらの世界では通じないみたいだな…
「ところで兄ちゃん、この剣どうだ?最近入ったんだ。旅をするなら剣は必要だぞ?」
「あ、え…遠慮しとく。わりぃなオッサン、また来るから!」
そういって走り出すジュンヤ。
今剣を買ったとしても、役に立つとはとても思えない。
「おう!待ってるからな!」
─よかったー、おっちゃん優しくて。もしいかついおっさんだったら絶対やばかったな…
数十メートル走った後、だんだんとスピードを落としていって思った。
─さて……どうしようか。
ものすごく先を考えていないジュンヤの一言で始まる異世界生活。
ただそれだけの、物語である。