第6話 これからの目標
目標って、大事ですよね
4歳になった。特に何も変わらない日々。相変わらず僕は部屋の中で魔法の練習をしている。2年前の反省から、しっかり窓にも硬化魔法をかけている。
今は中級魔法までしか、無詠唱をすることはできない。上級魔法を無詠唱で使おうとすると、指先に集まった魔力を制御しきれないのだ。まぁ、だからって諦めるような事はしない。まだ僕は5歳だ。時間はたっぷりある。
「燃え盛る炎よ、我が呼び声に答え、眼前の敵をやき尽くせ!<煉獄槍>!」
黒と赤が混じった僕の身長ほどの大きな炎の槍が、部屋の壁に命中する。
ドガァアアアン!!
あちこちに飛び散る火の粉。しかし、この部屋に置いてある大量の本は、既に<魔法倉庫>の中に退避させている。だから安心して魔法を使える。火の上級魔法は、液体以外の物なら基本的に燃やせる。しかし、魔力を供給しなければ、石など、基本的に火が燃えない場所だと、5分くらい経つと鎮火する。
だから、この部屋が燃えていてもなんの問題もない。熱気は風魔法で窓の外に送ってるしね。だけどこのままだと別の問題が発生しそうだなぁ。
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「ハッ。嫌な予感が・・・まさか、オルカ様が危ない!」
私は背筋に寒気を感じた。こういう時はだいたい、オルカ様が何かをやらかしそうな時だ。前もそうだった。あれはオルカ様が3歳の春ーーーーー
シュバッ ズオオォオオオォォォ・・・
背筋に悪寒を感じて、ふとオルカ様の部屋を城の中庭から見ると、そんな音を立てながら空の遥か彼方へ飛んでいく赤いものがあった。
魔力を目に集めてみてみると、それは超巨大な火弾だった。あんな大きさの火弾なんて見たことない!驚きを無理やりねじ伏せ、私はすぐに魔力を足に集中させて走り出す。少し遠いので、階段をジャンプで登る。オルカ様の部屋の中に入ると、そこには何も無かった。何も無かったというのは文字通りの意味だ。大量に置いてあった本も、本棚も、ベットも、テーブルも、すべて消えていた。そこにいたのは、オルカ様ただ1人。
「な・・・!?ど、どうなっているの!?」
私が思わず呟くと、オルカ様が答えた。
「すみません。魔法がどれくらい飛ぶのか少し実験してみたくて」
部屋の物をどうしたのか、なんて事も言えない。それほどに驚いた。なんとオルカ様は魔法庫と思われるものから、本棚やテーブルを出して並べ始めたのだ。信じられない。この歳で魔力を完全にコントロールしているなんて。
完璧に、私のプライドは打ち砕かれた。
私だって、努力をしてきた。家が貧乏貴族で、最早平民並の暮らしだった。お金を稼ぐ人がいなく、私は自由に生きる冒険者に憧れた。
それからは血の滲むような努力をした。アルバイトをやって、魔法の練習も、剣の練習もした。貴族のプライドに満ち溢れていた私は、その時に捨て去った。10歳になると、冒険者になって、迷宮にも潜ったりした。そのうち、有名になってきた私はあるパーティに勧誘され、一緒に戦った。その時にお宝を見つけ、家への仕送りにした。
そんな事をやっている内に、私のパーティに指名依頼が来た。貴族の護衛だ。当日、貴族の居る馬車まで行くと、そこには10人ほどの騎士がいた。かなり家柄の高い貴族だったらしく、魔物に襲われて騎士が全滅し、その魔物達を私が1人で殺した時に、追加でかなりのお金をもらった。
「よく私を守った。追加報酬だ、受け取れ」
勿論、パーティ全員にだ。その時はそれで終わりだと思っていた。数日後、家で訓練をしている時に王女の使いを名乗る女の人がやって来るまでは。
「メーナ=スフレ、あなたを城のメイドに取り立てるとおっしゃる方がいます。これからは城に住むように。」
それからはトントン拍子で私の意志など関係なしに、メイドになる事が決まってしまった。その事をメンバーに話すと、みんな祝福してくれた。だけど、私は知っている。その後に私以外のただ1人の女の子が、声を殺して泣いていたのを。歳の差が大きかったため、私のお姉さんみたいだった。その時は本当に後悔したものだ。
だけど、今思うとあの時の私の決断は間違っていなかったと思う。結果的に収入は少し減ったが、安全に、そして安定的にお金を稼ぐ事が出来るようになった。
しかし、そんな事をしても無意味だったと、目の前の少年が思い知らせてくる。努力なんて無駄、才能が物を言う世界だと。そんな私にオルカ様が声をかけてくる。
「えーと・・・とりあえず、この事は秘密でお願いしますね?」
「か、畏まりました。ここで見たものは決して他言しません」
「ありがとうございます!」
1そう言った彼の笑顔は、とても眩しかった。
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少しすると、メーナさんがやって来た。こ、これは少しまずくないですかね。今部屋の中燃えてるんですけどー。
「オルカ様!また何かしてぇえええ!?部屋が燃えてる!すぐに消火しなきゃ!豊潤なる土よ!我が呼び声に答え、眼前の敵を妨害せよ!<泥弾!>」
おおー。結構でかい泥の塊が燃えている場所にかけられた。少し蒸気を出して、炎は消えた。いやー、本当は水の魔法で消そうと思ったんだよ?だけど、火に水かけたら水蒸気とかすごい出るし、出した水が下の階に漏れ出したらと思うと実行に移せなくて。言い訳じゃないよ?一般的な考えだ。え?一般人は部屋の中で壁に火をつけたりしない?ここ異世界だよ?一般常識なんて何の役に立つのさ?と思ったら、以外とすぐに役に立った。
「オルカ様!私にも限界というものはあります。出来るだけ約束は守りますが、フォローできない事もあります。しかし、それとこれとは話が別です!二度とこのような危ない事はしないで下さい!」
彼女の言ってる事は正しいので、ここは素直に謝っておく。一般常識って大事だよね。
「すみません。二度とこのような真似はしません」
「分かってくれればいいんです(こういう年に合わないしっかりした部分もあるから、余計に自信なくすんだよね)」
メーナさんが気持ち少し、肩を落として出て行ったのを確認すると、僕は考える。やっぱりあれしかないな。
空間魔法でもかなり難しい、亜空間創造を覚える事を決意する。使えるようになれば、こんな風に怒られる事も無くなる。だけど、魔法庫を使えるようになるまでに1ヶ月かかったのに、これを覚えるには何ヶ月かかるんだろう?
とりあえず、これからの目標は『怒られないように頑張る!』だ。僕はそっと、心のメモ帳にメモをした。
キャラの心で話す言葉使いが被ってしまいそうで怖かった。
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