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霞ヶ浦物語〜若鷲は蒼天に翔ぶ〜  作者: 筑波 十三号
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一九四三年 停留所

 かつて阿見には路面電車が走っていた。当然ながらその駅があった。その駅は土浦海軍航空隊の目の前。その付近に商店が立ち並びそこから霞ヶ浦海軍航空隊まで海軍道路がまっすぐ伸びていた。もちろん鳴門屋もそこにあった。が、今ではその姿は消え失せている。現在は路面電車に代わってバスが走っている。

 そこにバスが到着した。そのバスがいなくなるとそのきは幾人もの学生。それは七つ星。予科練生が降車しぞろぞろと土浦海軍航空隊の正門へ向かい歩き去った。そしてそこに一人だけ残った。

 それは哲生だ。彼は土浦まで本を探しにいった。そしてその町内の本屋をすべてまわった。それは香奈に贈る本を買うためだ。彼は卒業前に香奈に何かを残して言いたかったのだ。おりからの戦争で物資が不足している。結局、哲生は手ぶらで帰ってきたのだ。哲生は歩き出した。行先は海軍航空隊。とても鳴門屋による気はなれなかった。

 その哲生の目に何かが映った。それは人だ。ゆっくりとだが。その人は駅に向かって歩いていた。

「よ、哲生」

「なんだ、あんたか」

彼があんあたと呼んだ人物はほかでもない。記者だ。鳴門屋に居候同然に宿泊している帝国グラフのかれだった。

「見つかったか」

「ほっといてくれよ」

「そう、ふてくれなさんなって」

「いいからほっといてくれ」

哲生はそういおうとした。でもいわななかった。それを言い終わる前に記者は紙の包みを彼の鼻先に突き付けた。

「風の又三郎だ」

哲生はそれを無言で見た。

「宮沢賢治か」

「あいにく銀河鉄道の夜じゃない」

「いいのか・・・」

「いらないなら持って帰るぞ」

今度はそれを持っている記者の顔を見た。

「本当にいいんだな」

彼はそういうとそれを受け取り大事そうに鞄にいれた。

「これは貸しだからな」

「あ」

「この貸しは必ず」

「ああ、忘れたころに忘れとくは」

倉町はそういって哲生に背を向け後頭部の後ろで手を軽くふって鳴門屋に戻って行った。







 

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