一九四五年夏 神社
予科練生達が到着してからどれぐらいの時間がたっただろうか。堀口がやってきた。予科練生を誘導し取り残されたものはいないか確認を済ませた彼はここまで走ってきた。といってもそうしていたのは最初のうちだけで残りの道中は息を切らせながら歩いて来た。
「こんなことならもう少し運動しとけばよかった」
堀口はそう一言つぶやいた。
その神社は長い坂の上にあった。彼はその彼もやっとの思いで坂を上り切った。その彼の目にそこの鳥居が見えた。そんな彼の目の前で悲劇が起きた。
彼の頭上に焼夷弾という鬼を乗せた飛行機が轟音をたてここの上空に到達したのだ。焼夷弾とは焼夷剤を充填した爆弾で爆風や破片で対象を殺傷、破壊する爆弾とは違い火災に追い込むのだ。その爆弾は木造建築が多い多い日本の街ではかなり効果的だった。
その飛行機は何か空気が切り裂くような音をたてながら爆弾を何十発も落としていった。そのうちの一発が彼の目の前で爆発したのだ。
それは鹿島神社の防空壕。予科練生が非難しているところだった。その瞬間、自分の目を疑った。それは幻だ。彼はそう思った。でも違った。彼の周囲でも同じような轟音が響いていたのだ。
堀口は信じられなかった。自分の目を疑った。そして愕然とし膝を落とした。何もかもが終わったような気がしたのだ。
「何があったんだ」
そういったのは記者だった。
彼は空襲警報を聞いて香奈を探しに来たのだ。その彼はまず彼女がいつも釣りをする湖畔に行き商店街を確認し最終的にここにいるかもしれない。そう判断して長い坂を駆け上がってきたのだ。
「記者さん」
「情けない声をだすな。あんた予科練の先生なんだろ」
彼は堀口にそういった。
でもその言葉が今の堀口には痛み以外のなにものでもなかった。その堀口は消え入りそうな声で言った。
「防空壕に・・・」
爆弾が直撃した。堀口はそれを言葉にしなかった。いや、出来なかった。
「そうか。で、生予科練生はどうした」
「中です」
そう言われた倉町はえっという驚きの声をあげた。そして防空壕の方向を見た。それは記者にとってその付近はもうもうと黒煙をあげ業火をあげて燃えていた。
焼夷弾に充填された焼夷剤は人体や家屋などにまとわりつき水をかけても落ちなかった。それが発火するとたちまち業火をあげ焼き尽くすだけではなくその炎が大量の酸素を消費し着弾点からはなれていても酸欠によって窒息死、あるいは一酸化炭素中毒死することもあった。その可能性と爆弾が落ちてくる可能性と合わせて彼らがいる場所ももちろん安全ではない。
堀口はよろよろと立ち上がり歩き出した。
「どこへ行く」
そういって記者は堀口の腕を掴む。
「生徒を助けないと」
「待て」
記者は堀口にそういった。彼もできる事なら予科練生を業火の中の防空壕から救出したかった。が、今は無理だ。堀口の予科練生のために身を挺して救出しよう。そういう気持ちを否定する気はなかった。が、目の前で燃えているのは米軍の爆撃機がばらまいた焼夷剤だ。これは空飛ぶ鬼がばらまいた地獄の炎だ。そして今ここにる自分たちはそれを消火する道具も術ももっていなかった。今のまま抗えば意味もなく焼死することになるだろう。
「あそこには香奈さんも・・・」
堀口は消え入りそうな声でそういった。
「本当かよ」
記者はその言葉に驚きの声をあげた。
その彼は朦朧と前を防空壕の方向を見たまま記者の腕を振りほどこうとした。
「やめろ」
「はなしてください」
「ダメだ。消防に連絡すのが先だ」
倉間tはそういった。それはごく当然な言葉だったが同時にそれも無意味でもあった。このとき土浦海軍航空隊付近の町中が家事になっていた。この神社同様に炎が燃え盛っていた。もちろん米軍がばらまいた焼夷弾が原因だ。
「生徒が・・・」
「今、いってもお前も焼け死ぬだけだ」
二人がそんなことをしているとひゅーと投下音がした。
そして続いて爆音がする。
二人はその空を見た。そしてその次の瞬間、その場で爆音がした。
「いったん引くぞ」
倉町はそういて堀口の腕をつかんだまま彼を無理やり連れて行こうとした。そういっているうちに彼の耳に爆撃機の発動機の音が近づいてくる。記者は頭上を見た。彼の目には爆弾の投下口をぱっくりと開けた飛行機が映った。
「ウソだろ」
その後、二人がどうなったか誰も知らない。




