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霞ヶ浦物語〜若鷲は蒼天に翔ぶ〜  作者: 筑波 十三号
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一九五年夏 防空壕へ

 彼女は防空壕のある鹿島神社までの道中先行していた予科練生に追いつき合流した。そこには日立の空襲で妹を亡くした大田少年の姿があった。彼は軍人ではない香奈の同行を快く受け入れた。それは他の予科練生も同様だった。彼らは乙種予科練習生だ。

 彼ら乙種の予科練生と哲生が卒業した甲種予科練生の仲は悪かったらしい。それは同じ予科練生であるのに就学期間や卒業後の昇任の速さの違などからの不満から来ていたようだ。この乙種予科練に比べ甲種予科練はそれは早かった。いわゆる妬みというやつだろう。

「おねえさんは坂下上飛曹の婚約者なんですよね」

誰か突然にそういった。それは香奈の後ろからした。

 彼らの多くは予科練おばちゃんといわれた香奈の母の店の常連である。この乙種予科練生の多くが芳郎がつくった料理を食べ静と談笑をしていた。だからか香奈が同行するのに不満をもらすものはなかった。

「ううん、ちがうよ」

彼女はその声にそう答えるとえーとおいう驚きの声があがった。ここにいる彼らは彼女がその甲種予科練出身の坂下哲生の幼なじみだとうことを知っている。哲生と彼女が親しかった。その事実を知っているものは少なくなかったようだ。予科練を卒業し飛行機乗りになった哲生は地元の英雄でもあった。そのせいもあり彼女の青宿の商店街では彼と彼女の仲を知らない者はいなかった。いっても香奈はまだ哲生と婚約はしていなかった。それどころか交際していたという自覚もなかった。

「自分、坂下上飛曹を尊敬しているであります」

ある予科練生がそう言った。

 予科練出身の哲生は今や軍神様だ。彼は神風特別攻撃隊。通称神風特攻隊に志願し見事散華したのだ。どうやら彼らは同じ海軍兵として、予科練の後輩として哲生を尊敬しているのは彼だけではなかったようだ。

 その道中、彼女はその話を何人もの予科練生からその活躍を聞かされた。

「哲生は米海軍の対空斉射を蝶の様にかわして敵空母の艦橋に体当たりしたようです」

「坂下上飛曹の一撃が致命傷になりその艦は噴煙を上げながら轟沈したらしいであります」

 その彼らは皆、そう自慢げに彼女に話した。香奈はそのことを喜べなかった。確かに哲生が活躍することはうれしい。彼の話が聞けたことも彼女にとって喜ばしいことだったし彼らが哲生を尊敬してくれていることもうれしかった。でも彼女は今でも哲生に生きてほしかったと思っている。その散華の知らせも間違いであった。そう思う気持ちも胸の奥のどこかにまだあった。彼女は哲生が好きだった。心のどこかで哲生の妻になることを望んでいたような気がする。そうなれなかったとしても彼には幸せであってほしい。元気でいてほしいという気持ちがあった。

 彼女にとって彼らの気持ちは受け入れがたかった。


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