一九四五年春 報告
「哲生がねぇ・・・」
そういったのは静だった。彼女は外出さきから帰ってきてから手紙の存在を知った。その店の一つのテーブルに静、芳郎、秋絵、記者があつまり神妙な顔をしていた。
「で、あんたの手紙にはなんて書いてあったんだい」
静は秋絵にそうたずねた。
「はい、内容は香奈ちゃんの手紙とおなじですね」
「そうかい。哲生の散華の話かい」
「はい」
「秋絵さん・・・」
静は彼女に何かいいかけた。
「私は大丈夫ですが香奈ちゃんが・・・」
哲生の母親はそういって静の言葉を遮った。
そのすぐそばに腕を組み難しい顔をした芳郎が立っている。記者はその後ろの席に座り香奈宛ての手紙に目を通していた。
高岡香奈様へ
突然のお手紙と訪問の無礼お許しください。
今回そうさせていただいたいたのは他でもない坂下哲生上飛曹の件に関し
てご報告したかったからです。
今回、坂下上飛曹は沖縄で展開された天一作戦に参加され敵艦への突入
に成功され見事散華をはたされました。
上飛曹の勇士はそれは見事だったそうです。彼は日本男児として海軍航
空兵として見事本懐をとげたことを伝えしてこの手紙を締めくくらせて
いただきます。
筑波海軍航空隊上等整備兵 友部 功
その手紙はそう書かれていた。おそらく秋絵の手紙にもきっとそうかかれていたにちがいない。
倉町はその秋絵の顔に目をやった。彼女は芳郎の向こう側のテーブルに腰かけていた。こうしてみるとその哲生の母親は平然そうに見えた。でもそれはそうみえるだけに違いない。おそらく彼女はそう装っているに違いない。彼女は気丈な女だった。そして軍人の母だった。少なくとも倉町にはそう思えた。
その秋絵は静にこういった。
「すいません、静さん今日はお客さんも少ないことだしこれで失礼させてもらってもいいでしょうか」
そういわれた静は
「そうだね。きょうはごくろうだったね」
と優しく言った。
秋絵は失礼しますと言って店をでた。その彼女は店を出て角を曲がったところで膝をおりしゃがむような姿勢で彼女泣いた。
それは軍人、坂下上飛曹の母ではなく坂下哲生という青年の母親として彼女泣いたのだだ。倉町はそっと窓を開けその彼女の姿を覗き見た。




