一九四五年春 訪問
「香奈ちゃん、がんばるね」
そういったのは倉町だった。今日の昼食は今日も吹かした薩摩芋だった。以前は彼の食事の支度は里美がしていた。が、今はその彼女はもういない。今は芳郎が用意している。
「はい、おねちゃんの分まで働かないと」
そういって彼女はせっせと店を手伝った。
店内には倉町と香奈以外に芳郎もいたが厨房の奥にいて出てこなかった。静は買い出しかなにか用があるようで外出中だった。
この日は日曜じゃない。だから予科練生も教員も休みじゃない。だから昼間は誰もこなかった。いやこないはずだった。そんな平日のある日突然来客があった。
「こちらに坂下秋絵さんという方がいらっしゃるときいたんですか・・・」
来客はそういって暖簾をくぐった。
「はい、あ、今日は秋絵さんは出かけててまして」
秋絵は里美の死後、この店で働く時間が増えた。その彼女は現在静と出かけていた。
「そうなんですか」
そいうとその男は少し考えこういった。
「では、高村香奈さんはいらっしゃいますか」
「はい、わたしですが」
香奈は少し不思議そうな顔をしてそう答えた。
「あ、ぼくは筑波海軍航空隊で整備をしている友部といういいます」
「は、これは哲生がいつもお世話になってます」
「その坂下上飛曹なんですが・・・」
そいうと友部は上着のポケットに手をいれ封筒を取り出しそれを手渡した。
その封筒には丁寧な文字で高岡香奈様へと書かれていた。そして友部は手にもったもえぎ色の風呂敷包みを差し出し
「坂下上飛曹のお母様がもどられたらこちらをお渡しください」
そういってそれを香奈に手渡した。
そしてその友部は香奈のお茶の勧めを丁寧に断り
「ぼくはこれで帰ります」
そういって鳴門屋を後にした。
記者は友部が店を出たのを確認するとでなんだってといってその手紙の内容を尋ねた。
「なんですかね」
そういって香奈はその封筒を丁寧に開封した。
そして香奈は中から便箋を一枚取り出し細い指でそれを広げ目読をはじめた。その香奈はその手紙を読み進めるにつれ顔が青ざめていき読み終わる頃にはへなへなとその場に萎れるかのように倒れこんだ。
「香奈ちゃん、香奈ちゃん。芳郎さん、香奈ちゃんが!」
記者は香奈をだきとめるとそう叫び彼女の父親に助けを求めた




