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霞ヶ浦物語〜若鷲は蒼天に翔ぶ〜  作者: 筑波 十三号
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一九四五年初春 取材

「いったい。なんの用だ」

そういったのは哲生だった。

 そしてその話し相手は記者だった。彼は哲生のいる筑波海軍航空隊に取材するという名目で哲生に会いに来ていたのだ。

 陽は沈み辺りはもう真っ暗ですっかり夜の様相を呈していた。その倉町は宍戸の海軍指定食堂の奥の座敷に胡坐をかいていた。もちろん哲生も同じように座っている。

「まぁ、取材だ」

そう答えた。

「取材っ東京の空襲の事か」

「まぁな」

「それなら東京にいけばいいだろ」

「おれは防空実施部隊の取材に来たのさ」

「そんなこといても何も教えてくれなかっただろ」

「そうだな」

「で、本当の目的はなんだ」

そういわれた記者哲生の顔を数秒間見た。

 するとそこにビールが届く。それは記者が数分前に注文したものだった。そして仲居にはそのとなりお通しも置いた。

「まぁ飲め」

そういうと哲生の前に置かれたコップにビールを継いだ。

「イカがきてからじゃダメか」

「ダメだ」

「せっかちなやつだなぁ」

「それがおれの売りなんでね」

「もっといいもの売れよ」

そういうと記者は深くため息をついた。

「お前、香奈ちゃん好きか」

「なんだよ。いきなり」

「だからアタリメがきてからがいいっていったんだよ」

そういうと記者は一度口にビールを含んだ

「お前さ。下士官だよな」

「ああそうだが」

「甲種予科練習生。もう少ししたら士官だ」

「よほどのことやらかなければだがな」

「で、お前お将来は安泰だ。で、有望でもある」

「だからどうした」

「おまえ、なんで香奈ちゃんをもらってやらないんだ」

哲生は無言になった。記者はその彼を見ながらお通しの枝豆の皮をむいてそれを口に放り込んだ。

「あのさ・・・」

記者はビールを飲もうと一度口にコップをつけた。

 が、哲生は何かを言おうとしてのであわててそれを飲み込んだ。その二人の間にアタリメが横ぎった。

「おれ、この前米軍機と戦ったんだ」

「ああ」

「おれ、やつらの後ろ取ったんだよ」

「米軍機のか」

「ああ。でさ、おれ狙い定めたんだけど・・・」

そういった哲生は言葉に詰まった。

「どうした」

「そいつが怯えきった顔でおれに命乞いをしやがった・・・」

「だから迎撃できなかったのか」

「ダメか・・・」

「いや、ダメじゃない」

倉町はそう言おうとした。でも言えなかった。

「ダメだよなぁ」

哲生が記者より先にそう言ってしまったのだ。記者はその言葉に無言になるしかなかった。

「今おれはこうしてビールを飲んでいる。でも明日はどうだろ。明後日は、一年後はどうだ」

そういった哲生は目の前のコップをとった。

 彼はビールが苦手だった。というか下戸だ。まったくというぐらい酒を口にしない。その彼が進んでビールが入ったコップをとった。

「おれは明日、出撃するかもしれない。もしかしたら明後日も出撃するかもしれない。もしかしたらおれは奴らを撃墜するかもしれない。もしかしたらおれがやつらに撃墜されるかもしれない」

哲生がそんな話をしていると女将が焼きイカをテーブルに置いた。

 それを聞いた記者はそのイカを口に運びながらこういった。

「お前の言いたいことはわかった。でも、それでも香奈ちゃんと一緒にいたいとはおもわないか」

そういわれた哲生はコップをテーブルに置いたままそれを握ったままだった。そのコップは空だった。彼はその空いたそれをずっと握ったままだった。

 彼は海軍の飛行機乗りだ。確かに一見するとそれは華やかに見える。が、この時代の飛行機技術はまだまだ未熟だった。それに乗って飛び立って無事に帰ってこれる保証はなかった。戦闘となればなおさらだ。彼はきっと自分のいついなくなってしまうかわからない境遇が香奈を不幸にして今うのではないか。記者は彼がそう考えているように思えた。

「本当にこのおれと一緒になったらあいつは幸せになれるんだろうか・・・」

哲生は一言そうつぶやいた。


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