一九四五年初春 東京大空襲
吹き流しがたなびいていた。それは激しくあたかもそれが暴れ来るっているかのようだった。そこには強風が吹いていた。
「隊長、どういことですか」
「出撃するなとはどういうことなんですか」
それは隊員の声だった。彼らは飛行機を整備するためのかまぼこ型の建物。格納庫にいた。飛行機は普段は掩体壕という防御と隠蔽を兼ねた施設に格納されていた。出撃時に整備兵がそこから搬出するのだ。
「貴様らの気持ちはわかる。でも今は耐えてくれ・・・」
そういったのは隊長だった。この隊長は海軍兵学校を経て飛行機乗りになった少尉だ。そこを卒業し今はここで教官をしていた。そして防衛のため米軍機迎撃任務をも追っていた。
筑波海軍航空隊の防空実施部隊になっている。ここの飛行兵は普段は若い兵士を教員教官として指導していたが非常時には弾丸を積んだ飛行機に勇ましく乗り込んで飛び立つのだ。教員である哲生ももちろん参加していた。
でも彼らは今はそれが出来ずにいる。
「貴様ら・・・」
そういった隊長の唇は重かった。哲生にはその隊長こそがこの飛行機が飛べない状況に号を煮やしている。そう思った。
「貴様ら今飛行機で飛び立ってどうする。この強風ではいくら零戦が協力だといっても飛べんのだ。今、無理して飛び立てば強風にあおられ宍戸の町に墜落する。そうなればどうなるかわかるな」
そういわれた飛行兵はもう何も言うことできなかった。
「そういうことだ。だから今は耐えてくれ」
「隊長、つらいです」
「隊長、そういうのら今、今ここで死ねといってください」
「隊長!」
哲生はかまぼこ型の建物の少しあいた鉄製の扉から空を見上げ吹き流しを見つめながらその声を聞いていた。




