一九九五年冬 熱情
それはその夜のことだった。記者は写真を見ていた。それは昼間哲生から預かったあの写真だ。それは哲生が伍長から受け取った封筒に入っていた。どうやら彼はそれを出撃時に所持していたらしく撃墜された飛行機の操縦席に落ちていたらしい。
倉町はその写真をもって戦場に赴いた男のことを考えていた。その男は里美の夫だった。というかなるはずの男だった。その男の人生は順風満帆だったはずだ。帝都の大学を卒業し安定した職に就きそして美しい女性と婚約までした。世の中の男どもにしてみればこんなにうらやましい人生はない。
彼がそんなことを考えていると唐突に襖があいた。それは勢いよくどこかに飛んで行ってしまいそうな勢いで開いた。
そして襖が開いたそこには里美がいた。その里美はひどく酔っていた。泥酔といっていい。もう呂律がまわらず正体がなくなっていた。そしてその手にはビール瓶があった。
「飲んでるかぁ」
「どうしたんですか里美さん」
「倉町ぃ」
そういうと崩れ落ちるようにして彼女は記者の隣に座った。そし身体を預けるようにして彼にしなだれてきた。
「里美さん」
倉町はそういうと少し困った顔をした。
その里美はテーブルを見た。そこにはあの写真があった。あの哲生から預かりさっきまで彼が見ていた写真だった。
「あんた・・・。あたしがきれいだっていったよね」
そういうと里美は記者の手を両手で握った。そうしたかと思うとその手を自分の胸に押し当てた。
「あたしの胸・・・やわらかいだろ」
彼の手には着物越しに彼女の胸の柔らかい感触が伝わってきた。ほんのり膨らんだ程度の乳房ではあったが彼の鼓動を早くさせるには充分だった。
そして彼女はその手を自分の股間に差し込んだ。
「ここもこんなに熱いんだよ・・・」
彼女はそう艶っぽい声でそう言った。
そして里美は彼の顔に自分の顔を近づけた。その男はのけぞるようにして上半身だけにげた。彼女はそれにかまうことなく艶を帯びた視線で目の前の男を見つめとこう言った。
「あたしを抱いておくれよ」
その彼女の顔は記者の数センチ前にある。彼女の頬はほんのり桜色に染まり両方の目は潤んでいた。間近でみる彼女の顔はとても美しく艶ぽかった。彼女色香は男を惑わせるにに充分過ぎる程だった。
記者はその言葉に圧倒された。
「あたしがいい女だっていうならあたしを抱いておくれよ」
彼女はさらにそういって彼に迫った。
「あいつはね。あいつはね。あたしを置いていったんだよ。国が大事だって・・・。あたしより国が大事だってどっかにいちまったんだよ」
そういうと彼女は記者に激しく抱き着いた。あいつとは船島少尉の事であろう。
「里美さん・・・」
記者は彼女の名を呼んだ。その彼は両手を伸ばし彼女の肩をつかんだ。
「里美さん」
倉町は彼女の名前を呼んだ。
「やめましょう」
その彼はそう言って彼女肩をゆっくりと体を引きはがした。
「こんなの悲しすぎますよ」
里美の目の前の男はそういった。その男は真剣な顔でそういった。熱い眼差しで彼女を見つめそう言ったのだ。
「そうかい。そうだよね。あたしが悪かった。今日のことは忘れておくれよ」
そう言って男の手からすっとぬ抜け出すと彼女はすっと立ち上がりその場から立ち去った。




