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霞ヶ浦物語〜若鷲は蒼天に翔ぶ〜  作者: 筑波 十三号
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一九四五年冬 遺品

 哲生はため息をついた。それは彼が手紙を鳴門屋に送る数日前の出来事だった。

「船島少尉の遺品を引き取らせてほしい」

彼はそういって陸軍の調布飛行場を訪れていた。それは東京にあった。彼は宍戸の駅から汽車に乗り小山で乗り換えここまでやってきたのだ。この飛行場に到着すると若い兵士に船島康作の居室まで案内された。

「こにあるものが少尉の遺品です」

若い兵士は右手をすっと伸ばしその位置を示した。それはベッドのの上にそこで軍刀と時計などいくつかの品が並んでいた。事前に連絡を依頼していたためここまで滞りなく行われた。

 哲生は友部から康作戦死の報を聞いた。彼は霞ヶ浦上空で撃墜された陸軍の戦闘機四式単座戦闘機飛燕。それを目撃した。それはもうもうと黒煙と赤い炎に包まれて落下していった。見てもしやと思い友部にそれを依頼したのだ。

 彼はに霞ヶ浦上空で無抵抗機になった飛燕を援護した。もしかしたらその搭乗員は船島康作だったのではと思ったのだ。それは直感だった。

 そして哲生はそれが当たってほしくない。間違いで会ってほしいと思った。もしそれが当たっていれば康作は戦死したことになってしまうからだ。あの状況ではどう考えても生存はありえない。哲生はそう思ったのだ。残念な事に彼の直感は当たってしまった。

 哲生はベッドの上の遺品を確認するとサンドバック状の衣嚢と呼ばれる鞄に。数冊の本、万年筆と数冊の帳面、日常彼が身に着けていたであろう衣類等。それらを丁寧につめた。彼のそれは軍から支給されたもの以外ほとんどなかった。  哲生はそれをしばらく無言で見つめた。彼はなぜ大学を休学し陸軍に志願したのだろうか。なぜ危険が多い飛行機乗りになったのだろうか。

 もし彼が何事もなく大学を卒業していたらどうなっていただろうか。彼は地元の農協に就職も決まっていた。鳴門屋の長女里美との結婚も決まっていた。彼と里美は春に婚礼を上げただろう。

 康作は紋付袴、里美は白無垢を着て三々九度の盃をかわしただろう。きっと鳴門屋は彼らを結婚を祝う人々であふれかえっていたはずだ。その次の日曜は予科練生たちが里美を祝うために訪れたはずだ。

 康作は鳴門屋に婿入りするはずだったらしい。だから彼はそこから地元の農協に通ったはずだ。もしかしたら二人の間に何人かの子供が出来たかもしれない。それは男の子か女の子かわからない。が、きっとそれは幸せな生活だったにちがいない。

 でもなぜ彼はそれを放棄したのだろうか。少なくとも大学を卒業をすれば安定した職よりも美しい妻も手に入ったはずだ。彼にはそれよりも軍のなにに価値があったというのだろうか。

 確かにその数週前に日本は米国と戦争を始めた。ハワイの真珠湾に奇襲をかけたのだ。それが彼に何か影響を与えたのだろうか。哲生はそんなことを考えていた。

 哲生は深いため息をついた。彼はそれがすむと一つづつ衣嚢に詰め最後に軍から支給された時計を入れ紐を引いて口を閉めた。

 哲生は軍刀を手に衣嚢を肩に掛け部屋を出た。その彼は階段を下りこの建物をでようとした。そのときだった。そこで哲生は背後から呼び止められたのだ。

「筑波から来られた方ですよね」

彼を呼びとめた兵士はそういった。哲生は彼の襟を見た。陸軍ではそこに階級章がついていた。その階級章は赤地に黄色線に星が一つ。それは伍長の階級章だった。陸軍では分隊長。十人から十二の最小単位の部隊の指揮官である。哲生の階級は上飛曹。陸軍では曹長にあたる。それは彼の階級より二つ上だ。

「これを」

伍長はそういってポケットから封筒を取り出した。

 

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