一九四五年冬 手紙
鳴門屋にはよく郵便屋が訪れる。それはほぼ毎日、その郵便屋は毎日何通もの手紙を持ってやってくるのだ。それは旅館や食堂経営に関わるものもいくつかあったがそれ以上に土浦海軍航空隊の予科練に通っていた兵士から送られてくるものの方が多かった。それの大半はここの経営者夫婦または女将の静にあてられたものだった。が、ときどきそうではないものが一通だけまじっていることがあった。
「手紙ですか」
「うん、哲生から」
それは里美と記者の会話だった。現在ここには里美と記者。店の奥には夜に乙瀬れるであろう客を迎える準備をしている店主芳郎がいた。静と香奈はは外出していた。
哲生は予科練を卒業後海軍の飛行機乗りになるための訓練をうけるため筑波海軍航空隊に配属された。彼は週に何通かそこから手紙を送ってきた。そのあて名は必ずと言っていいぐらい妹の方。姉の彼が姉の里美に宛てられたのは初めてかも知らない。
この当時、予科練に限らず兵士の手紙は軍の検閲を受けた。それはその手紙から情報漏えい。作戦行動や軍の秘密がそこから外部に漏れるのを防止する目的もあったと思うが軍に不都合な事を書かれないよう監視の目を光らせていた。
そのせいか哲生が予科練時代に書いた手紙はその文面の大半を黒く塗りつぶされていた。拝啓と彼の名前しか読めないこともあった。
その哲生も初等訓練も無事に終え筑波海軍航空隊に所属し階級も上級飛行兵曹。上飛曹になっていた。哲生はそこで戦闘機専修搭乗員を育成するための教員とこの米軍機の迎撃の任を負っていた。最近はそのせいもあってか黒く塗りつぶされた手紙が届くことはなかった。
里美は厨房からはさみをもってるとそこから一番近い席に腰かけ丁寧にそれを開封した。その封筒から手紙を取り出そうとするとがらがらと引き戸が開いた。
「そういえば静さんと香奈ちゃんはどうしたんですか」
この日は日曜だった。いつもなら周りには予科練生がたくさんいる。彼らは日曜になるとどかどかとこの鳴門屋を訪れかつ丼や親子丼といった丼ものやカレーやうどんなどを胃袋に毎いっぱい詰め込んで土浦や阿見の町に繰り出していった。どうやらさっきの紳士が昼の最後の客だったようだ。ひと段落浮いたせいか二人の姿が見えなかった。
「ああ、庭で秋絵さんと畑仕事してるよ」
「秋絵さんと?」
「ああ、朝からやってるよ」
彼女はこの近くにある海軍住宅に住んでいた。彼女はそこに一人で住んでいる。彼女は結婚してからすっとそこにいた。初めのうちは客としてここを訪れていた哲生と香奈が親しくなるにつれ両者のの関係が変わっていった。
そ二人がそんな話をしていると引き戸ががらがらと音がした。どうやら来客があったようだ。里美は接客しようといらっしゃいといいながらいすから半分腰を浮かした。が、そこから入ってきたのは香奈だった。
「おねちゃんにだって」
どうやら店の前で郵便屋と出会ったらしくその手紙をわたされたらしい。
「哲生からだ・・・」
そういって辺りを見渡した。哲生から手紙が届く。それはめずらしいことではなかったが、そのほとんど、いやほぼ全部妹の香奈に宛てられたものだ。その里美を見た香奈は店の棚から柄の黒いはさみを取り出しそれを里美に手渡した。
「ありがと」
里美は妹からそれを受け取ると封筒の角を一度切り落としそこに鋏に先を差し込んで開封し中身を取り出した。そして里美はそれを広げるとそれに目を通した。
そしてその彼女はそれを読んでるうちに徐々に顔が青ざめそしてその場に崩れるようにその場に倒れた。
「おねちゃん」
香奈はそういって倒れかけた姉の体を受け止めた。
「お父さん、おねちゃんが」
香奈はあわてて厨房の奥にいるであろう父を呼び寄せた。その父親はその娘の姿をみた父は無言であるがあわててかけよりそしてその里美を店の座敷に横たわらせた。




