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霞ヶ浦物語〜若鷲は蒼天に翔ぶ〜  作者: 筑波 十三号
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一九四五年冬 帰還

「坂下上飛曹」

彼はそう呼び止められた。

 哲生は飛行服を着用し首には赤いマフラーを巻いていた。飛行機乗りのマフラーの色は白と決まっていた。が、この筑波海軍航空隊。ここだけは違っていた。ここでは部隊ごとに色が違っていた。

 彼は現在、筑波海軍航空隊の滑走路にいる。哲生は今しがた任務を終え帰還したばかりだった。その彼が予科練を卒業して数年後、甲種予科練習生だった彼はもう二十歳になり階級は今呼ばれた上飛曹だった。

 この筑波海軍航空隊は元来海軍の飛行機乗りを育成する施設であったが戦況が悪化するにあたり防空実施部隊としての任を負っていた。そしてつい一昨日に迎撃に用いるための紫電と零戦が補充された。それ以前は紫電が五機配置されているだけだった。哲生はそれ以前からその任務に従事しているため補充前からあるそれに搭乗していた。

「坂下上飛曹」

そう呼ばれた哲生は振り返って後ろを見るとそこに若い兵士が立っていた。

「お疲れ様でした」

「友部上整兵か」

哲生にそう呼ばれた彼はこの飛行隊の整備兵だった。友部は彼より少し年上で哲生の紫電の整備担当だった。階級は上級整備兵。略して上整兵。

 陸軍では自分の命を預ける飛行機を整備してくれる整備兵を大事に扱ったようだが海軍では残念ながらそうではなかったらしい。イギリス海軍を参考にしたせいか海軍は貴族志向がつよかったらしい。そのせいか海軍の飛行機乗りはあまり整備兵を大事に扱わなかった。が、哲生はそうではなかった。

 この時代の軍隊は鉄拳制裁は当たり前。海軍ではそれに加え精神注入棒といわれた兵士の尻を叩くための棒があった。哲生はそういうことを好まなかった。だから精神注入棒はおろか鉄拳制裁も行うこともなかった。そのせいか彼は兵卒と呼ばれるか下級の兵士からの信頼され人気もあった。

「はい、今日も敵機を撃墜したらしいですね」

「いや、被弾させただけだ」

「それでもお見事です」

「そうでもない」

「また、ご謙遜を」

哲生はこの友部とよく会話をした。この整備兵は腕よく仕事も丁寧だった。だから哲生も彼を信用していた。哲生は不器用で会話が苦手だったがはその友部とはそれを気にすることなく飛行機の整備や操縦に必要な情報の交換、世間話もすることが出来た。

「それはそうと新しい機体はどうですか」

友部はそういった。この空襲の直前に彼が所属する筑波海軍航空隊に飛行機が補充された。それによって紫電八機、零戦二十四機体制になった。この飛行機の中には紫電の改良機。紫電二一型。通称紫電改もあった。彼はそれに乗り換えたのだ。

「ああ、いい飛行機だ。この飛行機がもっと早くできていれば奴らに好きにさせなかったのにな」

彼はそういった。この時期になるとそれまで無敵だった零戦は連合国のそれに太刀打ちが出来なくなっていた。陸軍では十戦闘機とよんでいたらしいが米国も英国も零戦よりも強力ななエンジンを搭載した戦闘機を投入してきたのだ。この紫電改は海軍がそれを打開するために投入した戦闘機の一つだった。

 その哲生はその会話を終え飛行機の被害状況と状態を伝えそこから立ち去ろうとした。が、その彼は突然何かを思い出したかのか友部に背を向けたまま立ち止まった。

「友部上整兵」

哲生に呼ばれた彼は軽快に返事をして哲生の方を向き気を付けの姿勢をした。

「貴様に頼みがある」

「頼み・・・ですか」

呼び止められた友部はそう答えた。哲生は彼の上官である。だから必要とあれば命令すればいい。でも彼はそうしなかった。彼にそれを言わせたのはそれが原因だった。

「ああ、霞ヶ浦上空でな戦闘があったのは知ってるな」

「はい」

「そこでおそらくの飛燕だと思うが黒い煙をあげ筑波山の方に堕ちていった」

哲生はそういった。それはついさっきまで彼が戦闘を行っていた阿見の話ではない。そこに到達する前。霞ヶ浦上空で爆撃機に対空特攻を慣行しようとしていた陸軍の戦闘機があった。

「本当でありますか」

「ああ、それを貴様にそれを調べてもらいたい」

「そうでありますか。ではすぐに」

「面倒をかけるな」

哲生はそういってそこを立ち去った。

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