一九四四年 陸軍病院
「船島少尉、お客さんですよ」
看護婦はそういった。
「おれに?」
そういわれた少尉は少し不思議そうな顔をした。
それはある十二月のの午後の出来事だった。ここは病院でそこにあるストーブの上の薬缶は癇癪をおこしていた。
アメリカはサイパンを陥落後、そこを起点に日本の都市部を爆撃していたが硫黄島をせめ落とすとこんどはそこから戦闘機をとばして爆撃機を護衛させた。
その少尉は震天制空隊の隊員でそこの飛行機の搭乗員だった。アメリカの爆撃機を迎撃するために調布飛行場から出撃し特攻を試みたがそれに失敗した。彼の飛燕はその戦闘機ではなく爆撃機のプロペラ気流巻き込まれ墜落。 土浦の水田に突き刺さるようし墜落しているところを発見された。
その搭乗員だった康作は幸運ことに飛行機からなげだされ落下傘で降下した。命に別状はなかった。その彼は落下傘でその近くの道路に着陸した。そしてたまたま通りがかった警察官に保護された。
その飛燕の搭乗員は打撲していた。その治療と検査を兼ねて柏の陸軍病院に入院していた。この船島という少尉はあの飛燕に乗っていたあの船島康作だった。
彼はどうもとそう挨拶した。男は小脇に風呂敷の包みを抱えていた。康作はその風呂敷に目がいった。
「あ、これですか」
そういて彼は首を少し動かしてそれをみる仕草をした
「よかったらおひとつどうですか」
そういってその中の蓮根と一升瓶を見せた。
「いえ、けっこうです」
康作がそういうと彼はそうですかといってそっれを風呂敷の中に戻した。
「あの、失礼ですが・・・」
がそういうと
「自己紹介がまだでしたね」
そういってポケットに手を入れ名刺を一枚取り出した。
「帝国グラフ・・。あ、記者なんですね」
「ええ、よかったら取材をさせてくれないかなと思って」
「おれに」
「ええ、船島少尉は震天隊の隊員なんですって?」
「なぜ、それを」
「看護婦さんに震天隊員の方に面会したいといったら・・・」
そういわれた少尉はちらっとその看護婦をみた。
康作はその記者から震天隊の事やそこに配備されている飛行機の事。任務についても尋ねた。対空特攻のことだ。
康作は軍の秘密に触れない程度にそれに答えた。それは国防に従事する者として当然の義務だった。
そのせいか当たり障りのない物位なるはずだった。
「正直いうと怖いです」
その中で康作はついその本音を言ってしまった。康作は二十代前半。まだ若輩者といっていいだろ。それでも彼は亜大日本帝国陸軍少尉だ。民衆にはその威厳を傷つけないように心掛けていた。それを言ってしまったのは記者の人柄のせいか、それとも軍務からはなれているせいか。康作にはそれはわからなかった。
「あ、こんなこと言っちゃダメですよね」
康作があわててそういうと記者は
「これ記事にしないことにします」
とそういって返した。
「職務以外のこともうかがっていいですか」
その記者は取材が進むにつれといって康作の素性も聞いてきた。康作はそれに歯切れ悪く子答えた。
「少尉はご結婚されてるんですか」
「いえ、してません」
記者は康作が応えるとこれは失礼しましたといって
「どなたか素敵な人いなかったんですか」
そうたずねた。
「いましたよ。婚約してましたから」
康作はそう答え帝都の大学に通てっいた事や卒業後に結婚する事になっていた事、大学を休学し陸軍に志願した事など記者に話した。
それは記者が手帳を閉じるまで続いた。