第二話
第二話
見事、怪物メドゥーサを討ち取ったペルセウス。
蛇の髪を掴んだまま、未だ開いたままの怪物の瞼を閉じます。折角、討ち取ったのに油断して目と目があったら大変です。
何しろ、この城の中には多くの石像が飾られています。メドゥーサが恋愛の練習にしていた石像たちでございます。
その石像、どれもこれも苦悶と恐怖の表情を浮かべた戦士ばかり。これ、元は怪物退治に名乗りを上げた腕自慢の猛者ばかりです。
いや、そのなれの果てというべきでしょうか。
ペルセウスはこのことをよく知っていたから、対策を立てていました。
鏡のように磨いた盾で、メドゥーサを映して、目と目を合わせないようにして、近づいたところを剣でバッサリと斬る。
鏡に映せば、石にならないのか、それは賭けのようなものでございましたが、何とかうまく行ったようです。
ペルセウス、胸を撫で下ろします。
何しろ、メドゥーサ、顔が怖すぎます。勇者ペルセウスもビビりまくりです。
勝てたのが奇跡ではないかと思うくらいです。
しかし、時間が経つと、ペルセウスの中で強い自信が生まれます。アドレナリンもバンバン出て、興奮状態になります。
そこで、勝利の雄叫びを上げたりします。
どこかマヌケな勇者でしょうが、根は決して悪い人間ではありません。
ただ、哀しきかな、彼はメドゥーサがどんな気持ちで首を斬り落とされたか、知りません。
恐ろしい容貌でありながら、心は乙女だなんて想像もしていません。
内気で、殿方と目を合わせられないなんて、言っても信じないでしょう。
目が合うとカチンコチンの石になるなんて言われれば、「石になるのは目があった男の方だろうが!」なんて、つっこんでしまうでしょう。
とにかく、哀れな怪物メドゥーサ。白馬に乗った王子様とこの城を出るなんて、夢のまた夢。
しかし、その無念が、その妄想が、奇跡を起こしたようでございます。
彼女が流した血から、今、何かが生まれようとしています。
彼女の妄想が実現化した?
そう思われても仕方がない異常事態。
液体は次第に個体となり、4つ足の動物へと変わっていきます。
それはまるで馬のよう。ただし、ただの馬ではありません。この馬にはなんと翼が生えております。
これぞ、ギリシャ神話の天馬ペガサス。
何で、メドゥーサの血からペガサスが生まれたのか?普通に考えれば非常識な設定です。でも、これがメドゥーサの妄想が現実化したと考えると、少しは理解できそうです。ペガサス、彼女が思い描いた美しい白馬なのです。
ともあれ、ペガサス誕生を目にしたペルセウス。何を思ったのかというと。
「これ、乗っていいのかな、ここに来るまで山あり谷ありで結構大変だったから、これはラッキー!」
ちゃっかり者のペルセウス。どうやらペガサスを自分の乗り物にしようと考えたようです。
さらに、メドゥーサの首を持っていくのも忘れない。一応、退治したことを証明するために必要でしょう。
こうして、古城から飛び出すペガサス。メドゥーサの首を携えた勇者ペルセウスを背に乗せて空を駆けます。
無残な最期を遂げたメドゥーサではありますが、彼女の願望、ある意味、叶えられたのかもしれません。
白馬に乗った王子様と薄気味悪い古城を抜け出すことが出来たのですから。