第一話
第一話
昔々の大昔。
場所は薄気味悪い古い城。
そこに一人のお姫様が住んでいました。
いや、この場合、幽閉されていたというのが妥当でしょうか。
そのお姫様はとても内気で、人と顔を合わせることが大の苦手です。
しかし、恋愛に対する憧れは強く、いつか白馬に乗った王子様が現れて、自分をこの薄気味悪い古城から救い出してくれると夢見ているのです。
ただし、いつも障害となるのは彼女の性格。
内気も度が過ぎると、いけないようです。
お姫様曰く、「私は王子様が現れても顔を見られない、目を合わせられない。だって、目があったら、カチンコチンの石のようになってしまうんですもの」
という訳で、古城に現れた若者たちは何人もいるのですが、姫様の性格が災いして、今まで誰も彼女を救い出すことが出来ないのです。
お姫様、お城の中の石像を王子様に見立てて、出会いのための練習をしたりします。石像はどれも屈強で逞しい若者ばかり。お姫様、石像と分かっていても顔を赤らめます。内気なお姫様は相手が石像でも恋愛の練習が出来ないようです。
そんなある日、一人の若者が古城に現れました。
剣と盾で身構え、乗り込んできた若者は今までとは違う雰囲気を出しております。
お姫様はそれを古城の物陰から見つめ、「この人なら、きっと」と胸を高鳴らせました。
お姫様は古城の柱に姿を隠し、恐る恐る先を進む王子様の背中を目で追っています。何と逞しいお背中でしょう。お姫様、完全に虜になっています。そして、お姫様、先回りして王子様を待ち受けます。
何て切り出そう、お待ちしていました?ここから救い出してくれてもよくってよ?妄想が膨らみます。それとも、瞳を閉じてベッドに横たわり、王子様が目覚めのキスをしてくれるのを待とうかしら?もう発想が恋する乙女を通り越して、ファンタジーの世界を彷徨っています。
そうしている間にも王子様はお姫様の寝所を訪れて、二人はついにご対面。
しかし、お姫様はいつものように正面から相手の顔を見られません。
ただ、今回は若者の方も顔を合わせないようにしています。
「この方はきっと私と同じように照れているのだわ。だって、鏡のように磨かれた盾を見ながら、私を見ているのですもの」
お姫様は自分と同じように内気な若者だと思ったようです。
そして、このお方なら、きっと自分を古城から助け出してくれると信じたようです。
お姫様は一歩一歩、若者に近づきます。
胸の高鳴りは彼女の天然パーマのような髪をざわつかせます。
頭の中では白馬に乗って、古城から連れ出される自分の姿を想像して、顔を赤くします。
完全に乙女な感傷に浸るお姫様が若者の肩に手をかけたとき、異変が起こりました。
若者は急に持っていた剣を振り下ろしたのです。
お姫様、何が起きたのか、すぐには理解できません。
ただ、頭を強かに床に打ちつけて、痛いというのは分かります。
しかし、それだけではありません。
首のない自分の体が小刻みに震えながら立っているのが見えました。
「あれ、私、頭と体が離れている・・・・」
頭の周りは流れ出る血で真っ赤に染まっています。
そんな状況の中、彼女は髪の毛を掴まれ、持ち上げられます。
彼女の髪の毛はそれぞれが意思を持つ蛇のようにのた打ち回り、最期の抵抗をします。
しかし、首一つになった身ではそれも長続きしません。
蛇の髪の毛たちは次第に元気がなくなり、グッタリと力尽きていきます。
そして、古城のお姫様こと、蛇の髪を持ち、見る者を石に変えるギリシャ神話の怪物メドゥーサも息絶えたのです。
こうして、若者、ギリシャ神話の英雄ペルセウスは見事、メドゥーサを退治したのです。