謎の作業内容
明日から旅に出る為に、住んでいる場所、長屋みたいな激安アパートを出る事になった。
ドレナク氏の話だと、王都に行くのに主要な街を二、三回って行くそうだ。
向こうに到着してから作業をして帰って来ると結構期間が掛かると言う。
その間にアパートの支払いが滞ると荷物を外に放り出されてしまう。ていうか、住んでないのに払うのが勿体ない。
半年住んでいれば細々としたものが結構ある。
絶対に必要じゃないもので捨てられない荷物は、店の裏の物置に纏めて置かせて貰う事にした。
翌日の早朝、いざ出発! という事になった。
店の営業時間の関係上、前日の営業が終わった後に親父さん達に挨拶をしておいた。
だから俺には見送りが無い。
馬車の後ろに荷馬車が三台、これがドレナク氏の持ち物で、その他の荷馬車は行商達が便乗してくっついてきている。
護衛の数はその荷馬車ごとに決めているらしい。
俺の仕事は下働きだけど、料理屋の仕事と違って勝手が分からない。
「君には野営の時の準備や食事の係をしてもらうよ」
「っす!」
出発前にうろちょろしていたら、そう指示されたので、移動中は大人しく荷台の上に座って景色を眺めているだけだ。
異世界の景色を堪能出来る機会がこの半年無かったから、これはちょっと嬉しい。
でも、物珍しさも丸一日眺めていれば目減りする。
自然が一杯で環境破壊なんてありそうも無い緑色の景色。それを延々と見てても退屈だった。
陽が傾いてきた。
下働きの俺は言われている野営の準備がある。
自分の分は後回しで、ドレナク氏や商会の人間、護衛の人達の食事の世話だ。
準備をしながら腹がグーグー鳴る。
店で貰ってきたグロラビ干し肉を前もって齧っておけば良かったと後悔した。
後片付けが大体終わり、焚き火の周りでボソボソと商隊の人間の声がしているのが聞こえる。
「ご苦労様」
残り物を食べていると、ドレナク氏が俺に声を掛けてきた。
「お疲れさまでーす」
椀を片手に中腰になり頭をぺこりと下げて挨拶する。
「食べながらでいいですよ」
「すんませんー」
お言葉に甘えて座って食事を再開する。
「流石料理店に居ただけあって、手際が良いと商会の者達が感心しておりますよ。スープに入っていたのは何の肉だったのでしょうか」
「ああ、あれはグロラビの干し肉です。レッドの親父さんが商会の方達に振る舞う様に持たせてくれてたんで」
「なるほど。そうでしたか。大兎の干し肉があんな味になるとは驚きですな。次にトッタに訪れた際は是非レッドさんのお店に求めに行かねば」
金持ちの老人だから、若者人気の格安なグロラビの肉は普段食べ付けてないのかもしれない。
レッドの鍋では干し肉にする時に特別な味付けをしていて、それをスープで煮込むといい味になる。
親父さんの肉料理は安い肉でも凄く美味いからな。
親父さんもドレナク氏の商会が買い付けるかもしれないと考えて、俺に肉を持たせたのかも。
そうだったら目論みは上手くいったって事だ。
ところで、どうしてもドレナク氏に確認したい事があった。
本店でどの位の期間働けばいいのか、作業内容を聞いても曖昧にされ明確にしてもらえていない。
直ぐにはトッタの街に帰れないとい言われ、それでその時は頷いてしまったが、やはり元日本人としては雇用詳細を聞く事は大切だと思うのだ。
今回、自分の所属はレッドの鍋のまま出向のような扱いで来ている。
ドレナク商会の人間になったわけではない。
働く期間や作業内容が、明確に定まっていないという不安を誘う今の状況を解決すべく、丁度この機会にと質問する事にした。
一応念のためだ。
「あの〜。向こうで人体実験的な事はされないですよね。実際は何をすればいいんでしょうか。後、大体でいいんで、どの位滞在するか教えてくれませんか?」
ドレナク氏に聞いてみた。
「わはは。ユーゴさんは心配症ですなあ。人体の実験はしないですよ。ご安心下さい。期間はあなた次第ですから、こちらからは何とも」
笑い飛ばされ朗らかに言われた。
「はあ」
多分平気なんだと思う。思いたい。
半年異世界で暮らしているといっても、こっちの常識が未だに馴染めないのもあるし、驚く事もある。
だから、俺の方が頓珍漢で変な質問をしているのかもしれないのだ。
深く突っ込んで聞けないのも常識知らずな部分があるからなのだが、ニコニコしたドレナク氏を見ていると疑ってしまう。
(あの薬は高価だっていうんだし、やっぱ、おかしいって。下働きして返せる金額じゃねーよ。あ〜もやもやするなあ。何か隠してんだろ? 教えてくれたっていいじゃんかよ)
「下働きで俺次第の作業というのが思い浮かばないんですが」
下働きは上役から指示されて動くもんだ。
あなた次第なんて言われても意味不明だった。
「まあまあ。あちらに行けば分かります。ですが、そうですね。不安なのでしょうから、これだけはお教えしましょうか。会って頂きたい方がおられるのです。その方の所で下働きをするという事になりますね」
「それは、誰と聞いても?」
「いえいえ。申し訳ないのですが、あちら様との契約でして、口外出来ませんので。それは今はご勘弁下さい」
「……そ、そうですかぁ」
(コレって変なフラグ引き当てちゃってない?)
益々謎が深まってしまった俺は、半端に聞かなきゃ良かったとその後の旅の間後悔した。
そして、トッタの街と同じ様な規模の街を二つ経由し、俺は商隊と共にとうとう王都に到着した。




