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文通からの恋  作者: 桐嶋リツキ
お付き合い編
8/9

初めてのお泊り!?①

(部長をどうやって運ぼう)


 あんな出来事とはいえ、付き合って初めて手を握った事より千尋は今、鷹塚部長が寝てしまった後を悩む。タクシーに乗せたいが、狭い路地にいる為タクシーを呼ぶのに、大通りに出なければいけない。そのまま置いて行くのも気が進まなく、だからといって少しは人も通るので、人の晒し者になっている二人。

 ベンチが有るわけでも、何処かに寄りかかっているわけでも無く。千尋の力では、鷹塚部長を支える事は無理なので、地べたに二人で仲良く座っている。


「あれ、やっぱりお姫様だ」

「??」

「初めまして。俺、こいつの友人の早川」


 寝ている鷹塚部長を指差して、千尋は友人と聞き挨拶をする。


「で、何でこんな所で寝てるわけ」

「それが色々事情がありまして、全部私のせいなんです」

「ふーん。まあ事情は後でゆっくり、こいつから聞くとして運ぶの手伝うよ」

「本当ですか!助かります。部長の家、此処からだと遠いから」


 気の良さそうな早川に、千尋はほっとして鷹塚部長を運んでもらうのをお願いする。そして鷹塚部長を支えてもらい、千尋は大通りに出てタクシーを探し、後から来た二人と一緒に乗った。その後も部屋まで運んでもらおうとするが、鍵が鞄に入っていなく困っているのも、早川は簡単に鍵を探し当ててしまう。


「どうして部長の鍵がジャケットの内ポケットに入ってるってわかったんですか?」

「ん?こいつ、いつも鍵はそこに入れてるよ」

「でも数ヵ月前、部長が酔って部屋に連れて来た時は鞄に」

「あーあれ、俺が鞄に入れたの」


 数ヵ月前の出来事、千尋と鷹塚部長が付き合う前の、お互いの話をした日。途中まで早川が酔った鷹塚部長を、連れて来ていた事を話してくれた。そして千尋がわかりやすい様に、鞄に鍵を移動したようで、それなら家まで最後まで運んでほしかったと思う千尋。


「でも、仲がいいんですね羨ましい嫉妬しちゃうかも」

「嫉妬?ははっ、それは光栄だね。まあ大学時代からの付き合いだから、そのぐらいは」


 横にした鷹塚部長に、二人合寝室から出て早川は勝手にキッチンを漁る。千尋よりも勝手がわかるようで、あっという間に珈琲を入れてくれる。


「今更だけど珈琲で良かった?」

「あ、はい。ありがとうございます」


 早川から珈琲を貰い一口飲む。ただのインスタントのはずだが、凄く美味しく感じるのは何故なのか、千尋は珈琲をじっと見た。


「ああ、俺ね何故かインスタントでも豆からでも美味しく淹れられるの」

「何故ですか?」

「さあ?だから、高級豆で淹れてますとか言ったらわからないよ」

「それは詐欺ですよ」


 早川に真面目に言ったら、二人で同じ事言ってるから似た者同士で、お似合いだと意味不明の事を言われた。少し鷹塚部長の大学時代の事を聞き、モテていた事や逆ナンがあった事を知って、軽くショックを受ける。早川は今は、お姫様が大事で他に目移りする暇はないよと、安心する様に言ってくれる。


「そういえば、お姫様は名前で呼ばないの?」

「名前って部長のですか?」

「そう・・・あいつの名前」

「それは」


 渋る千尋に、早川は名前を言いそうになるのを我慢して聞く。千尋は渋るだけで何も言わない為、名前を言うのが恥ずかしいのか、名前を知らないのかわからなかった。早川の予想では、後者の方だろうと思う。


「じゃあ俺は帰るよ」

「私も帰りますのでちょっと待っててくれませんか?部長にメモを」

「何言ってるの、お姫様はあいつの看病だろ」

「その・・・お姫様って一体なんですか?」


 ずっと、千尋の事をお姫様という早川に気になって尋ねてみた。


「とお・・あいつが文通していた時から少し聞いていて勝手に俺が呼んでるだけ」

「はあ」

「じゃ、お姫様は泊まり込みで看病宜しく」


 じゃーねー、手を振りながら帰ってしまった早川。数ヵ月前、酔った鷹塚部長を看病した日も泊まる事は無かった。明日は仕事は休み、問題は無いのだが思い掛けない初めてのお泊りに緊張してしまう。


「あ、コンビニで色々買わなきゃ」


 弟から自分の私物は絶対に、彼氏の家に置くなよと釘を刺されていて何一つ千尋の物はない。デートらしいデートも無かったうえ、鷹塚部長の家にはこれで二回目だった。だから、置きたくても置く事さえ出来ないでいた。起きてしまう事も考え、メモ書きを残し近くにあったコンビニまで小走りで行く。

 そして、千尋が鷹塚部長の家を出て直ぐ、部長が起き出した。


「喉乾いた・・・なんで俺、家にいるんだ」


 千尋との出来事を思い出せない鷹塚部長。酒を一気に飲むと、記憶が曖昧になるところが難点だった。テーブルの上にある、メモ書きを見て少しずつ思い出していくと顔が真っ青に近い状態になる。


「俺、マジ恥ずかしい。この年で何やってるんだ」


 ソファーに座り、項垂れて自分の行いに恥じている鷹塚部長。水をがぶがぶ飲みながら、天井を深い溜息と共にぼーっと見る。ふと、千尋が何でコンビニに行ったのかを思い出し、暫く待ってみたが中々帰って来ない。コンビニは直ぐ近くにあるはず、何時いつ行ったのかもわからないで、鷹塚部長は段々不安になってきた。


「千尋は、少し抜けてる所があるし・・・まさかな」


 変なむしに付きまとわれていないか心配になってきた鷹塚部長は、携帯片手に慌てて家を飛び出す。エレベーターが凄く遅いと思いながら、早く来いともどかしく感じる。やっと来たと、ろくに前も見ないで中に入ろうと扉が開いた瞬間誰かとぶつかる。


「す、すみません。慌てていたもので」

「此方こそ、すみません」


 お互いが謝り、お互いが顔を見合す。


「千尋!」

「部長、もう大丈夫なんですか?」


 ネクタイが緩く曲がって、慌てて出て来たと知らせる別々の靴に千尋は笑ってしまう。


「笑うな」

「すみ、ません・・・くっ、ご、ごめんなさい」

「心配したんだぞ」


 千尋から荷物を奪い、先に自分の家に早足で帰ろうとする部長が可愛くて、千尋は後姿をこっそり携帯のカメラで撮影して保存した。カシャっと音がして、鷹塚部長が振り向き慌てて携帯を隠す。


「何やってる早く入りなさい」

「はーい」


 恥ずかしがっても待っててくれる鷹塚部長に、千尋は笑顔になる。一緒に家に入って不思議そうに、コンビニで買ってきた物を見る鷹塚部長。


「で、何だこれは?」

「えーっと、お泊り用の物です」

「お泊り用?誰が何処に泊まる」

「私が、部長の家にとま・・り、ます」


 何ふざけた事を言ってるとでも言ってるかのような、怖い顔に千尋は小さな声になってしまう。確かに家主である、鷹塚部長に許可も得ず泊まろうとしていたのは良くない。だが、早川から言われてた事に一理あるかもなんて思い、不謹慎だが初めてのお泊りと喜んだのは本当。事情を話せば、今直ぐ帰れと荷物を突き帰され、玄関の方へ追いやられる。そんなに邪険にする事もないじゃんと、千尋はムキになって足で踏ん張って動こうとしない。


「はあ、俺は平気だ。だから帰りなさい送っていく」

「部長は酔っぱらってるじゃないですか!」

「酔いは冷めた。心配する必要もない」

「じゃ、じゃあ昼間の・・・昼間の件で話があるのですよね?その事について話しましょ」


 意地でも帰らないぞと、千尋の態度に鷹塚部長は溜息しか出て来ない。


「俺の身にもなれ。後で、早川にたっぷり文句言ってやる」


 リビングの方に先に行ってしまう千尋に、誰にも聞こえない言葉をいう鷹塚部長だった。


「部長、早く来てください」


 何をそんなに意気込んでるのかわからない鷹塚部長、初めから話し合うつもりだったがこんな形でちゃんと話せるか、自信を無くしそうだ。千尋の急かす言葉に、仕方ないと諦め続いてリビングに向かう。

色んな意味で無理やり感たっぷりです。隠れ、可愛い部長を目指しているけど難しい。外は厳格、内は可愛いのギャップを書きたい。

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