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数日後、予想通り千尋から手紙が届いた。いつものふざけた内容と思ったら、今までとは明らかに違う内容に俺は、胸が締め付けられてしまう。
『今まであなたの事を気にしないでいました。だけどあなたとの過ごす日々は、私にとって幸せでとても癒される時間です。心が温かくなり、あなたの事を想えば鼓動が早くなり、時々苦しくなる感じる日もあります。この思いはなんでしょう、どんな言葉にすればあなたに伝わるでしょうか・・・これは恋と呼んでいいのでしょうか?恋と呼べるなら、私はあなたに恋しています。好きです勝手に伝えるだけの私を許して下さい』
これ以上読めない先輩への気持ちが痛い程分かり、俺は今までと違う手紙にああ、本気なんだな付き合ってしまったのだろうか?情けない事に涙が少し滲んだ。千尋は可愛いきっと先輩とやらも受け入れ、めでたく付き合う事になったのだろう。そう思い、俺から始めた恋文指導は、俺で終わらす事に決めた。当然、突然何の知らせも無く黙って文通が途切れれば、千尋は気になる。心配してか、普通の手紙を二回程一ヶ月の間に出してくれた。
半年間の文通は先輩の為の手紙だったが、これは俺だけの・・・俺だけに宛てた手紙で嬉しい反面、苦しくも感じた。女々しく返事を出そうか葛藤した、それでも俺は返事を出す事はなかった。これで良かったんだ千尋は先輩と付き合えたのだから。しかし、俺が諦めようとしているのに千尋が俺の住んでいるマンション前に、何故か現れた。初め、ばれてしまったのではないか冷や汗を掻いたが、手紙の相手を探しているだけで正体が俺とは気付いていなかった。
千尋は一週間、仕事帰りに終電ギリギリまでマンション前に立って、帰って行く。ずっと同じように、俺も一週間千尋が帰るのを待ち、駅までこっそり後ろから見届けていた。これではストーカーになっているが、千尋が変な男に絡まれても困る。幸い千尋の降りる駅から家までは、歩いて直ぐの人通りが多い所と住所をみて知っている。
「まったく、一週間も何やってるんだ」
千尋の一週間の行動に困惑しつつ、これが俺の為だけの待ち伏せなら、どんなに嬉しいだろう。でも、これは俺が勝手にやめた事によって気になっているだけで、勘違いしてはいけない。手紙を一言、止めると言えば良かったと後悔しても今更遅い。返事を出さなくなって約二ヵ月、千尋は会社の休みの日までも来るようになった。朝早くから来て、一日中マンション前で待ち伏せしている。
「折角の休日、先輩といろよ。振られても知らないからな」
俺のせいで先輩と不仲になっては困る、いや・・・別れれば良いと思っている悪い俺がいた。いつかはばれてしまうと思った俺は、休日もマンション前に立っている千尋を気にしながら大学時代、唯一付き合いがあった男の家に毎週転がり込む。
「透、いい加減泊まりに来るのやめろよ」
「休日誰とも会わないお前を心配してやっている」
「お前が泊まりに来るからだろ。愛しのお姫様に男が出来てショックなんだろ」
毎週転がり込んでいる此処の家主、こいつは早川。ある程度の事は早川も知って、把握している。全てを話しているわけではないが、良き?相談相手でもある。早川は、逃げてばかりじゃ前に進めないそう、助言してくれる。しかし、今更手紙の相手は俺でしたと言えるわけがないし、言ったところで千尋が俺の所に来てくれるわけもない。黙っていた方がマシで、千尋も知らない方が幸せだ。
「仕方ない。三十四のオッサンの為に可愛い子紹介してやる」
「遠慮するそれと、お前にオッサン呼ばれされたくない」
同じ年の癖に、俺ばかりオッサン呼びしやがって腹が立つ。それに、早川の女関係は乱れすぎていて俺には理解が出来ない。あいつの紹介する女など、面倒事に巻き込まれてしまうに違いない死んでもお断りだ。
「十代、二十代に比べたら三十代なんて皆オッサン呼びだぞ」
三十代はまだ若いのになぁ、なんてふざけている早川は世間一般三十代はオッサン呼ばれされていると言っているが、早川の言葉は絶対俺限定で言っているはずだ。これでも顔は悪くないから、逆ナンだってされるぞと言ってやりたかったが、最近老けた感じがして反論するのをやめた。
「まあ、悩んでても仕方ない。失恋は女で慰め、若々しくいる為には全て女だ!」
なに、力説してんだよお前の考えなど聞いていないし、話が下劣なんだ。早川は、毎日の様に女を抱いているから若々しくいられるんだと馬鹿な事言っていた。それって反対に、女が若くいられるのではないか?と口にすれば、一緒に若くなると又もや馬鹿な考えをいう。絶対、女絡みでこいつ後ろから刺されて殺されるな、殺されても文句は言えないだろう。その時は、花ぐらい一本だけでもそえてやる。
書けば書く程、部長のヘタレが出てきてしまう。追記・・・透=部長です。