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ショートショートシリーズ

気前のいい店

作者: なおや
掲載日:2012/05/11

 ある日の夜、サラリーマンの山本と西田は、会社帰りだった。既に一軒、会社近くの飲み屋で酒を飲んでいる。

「いやねぇ、二人揃って千鳥足なんて……」

 すれ違ったおばさんが言った。しかし、二人には届いていない。

「まだ一軒行くだろっ。ヒクッ」

「当然だぁ。まだまだ飲めるぞぉ〜」

 二人はいつになったら帰るのだろうか。今は午後十一時だ。

「山ちゃん。今日の部長はひどかったなぁ」

 西田が話しかけた。

「あぁ、営業ミスを俺らの所為にするなんてなぁ」

 西田も同意した。

「まぁ、気にするこたぁねぇ」

「そうだなぁ。んじゃ、あと一軒だな」

 二人はそう言って、少し歩いた。すると『檸檬』という飲み屋を見つけた。

「なんて読むんだ?」

 山本が聞いた。

「馬鹿っ。『れもん』だ」

 西田が言った。

「飲み屋らしいな」

 山本は看板を見て言った。「ここにするか」

「あぁ」

 二人はそう言って店に入った。

  

「いらっしゃいませ」

 店に入るなり店員が言った。中は飲み屋と言うよりバーのように見えた。二人はカウンター席に座った。

「ご注文は?」

 バーテンらしき人物が言った。名札には『店長 小田』と書かれていた。

「何があるんだい?」

 山本が聞いた。

「うちは、何でも揃えているよ。なんせ今日が——」

「はい?」

「いや何でもありません」

 店長は首を振った。

「何飲む?」

 西田が山本に聞いた。

「俺は……適当におすすめみたいな感じので良いや」

 山本が小田に言った。「じゃあ俺も」西田が続けた。

「はい。ただいま」

 小田はそう言うと一分足らずで、飲み物を二人の前に置いた。

「定番ですが、ジントニックです」

 と言われても、二人はあまりピンと来なかった。二人ともその手の酒には飲み慣れていないのだ。

「いただきます」

 二人は同時に口に運んだ。

「うまい」

 二人は心の底からそう言った。

「ありがとうございます」

 小田は丁寧に頭を下げた。

「他に……焼酎でもあるかな?」

 山本が聞いた。するとカウンターの奥から一人の男が飛んで来た。名札には『マネージャー 坂田』と書かれている。

「すみませんね、お客さん。うちは見ての通りバー。焼酎なんてもんは置いてーー」

「わかりました。すぐ準備します」

 坂田の声を遮って、小田が言った。

「何言ってんだ小田。ここに焼酎なんて……」

「大丈夫です。なんせ今日で……あれなんスから」

 山本と西田には二人の声は耳に入らない。しばらくして、坂田は引き下がり、小田が焼酎を持ってきた。

「うまいなぁ」

 山本は小田に言った。

「ありがとうございます」

 小田はまたしても頭を下げた。

「店長さんも飲みましょうよ」

 西田が言った。

「わ、私ですか? 今勤務中ですから……」

「固いこと言わなくていいでしょう。さあさあ」

 二人に勧められ、小田は焼酎を飲んだ。

「美味いっすねぇ」

 小田が言った。

「さあ、どんどん行きましょう!」

 小田はさらに飲み続けた。

 気前いい店だーー。山本はそう思った。

 しかし、三十分がすぎ、なお小田は飲み続けている。

「大丈夫ですか? そろそろ控えないとまずいんじゃ……」

「へーきですよ! どーせ今日なんスから」

 結局その後も飲み続け、二人が店を出たのは午前一時を過ぎていた。もちろん二人は帰ってこっぴどく叱られた。

 次の日も大変だった。二日酔いは当然のこと。酔いの所為で営業ミス。取引先から取引停止、とまで言われた。二人は、謝り続け何とか助かった。

 この日もやけ酒になることになる。二人は昨日の店『檸檬』に向かった。しかし、そこにあるはずの店はなかった。

「おかしいなぁ。ここで合っているはずだけど……」

「どこかで、道を間違えたか?」

 しかし、どこにも『檸檬』はない。

 少し歩くと、昨日と同じ景色があった。

「ここだよ」

 山本は指を差した。しかし、その店はシャッターが閉まっていた。

「紙がかかっているぞ」

 西田はその紙を読み始めた。

「お客様、各位にお知らせ致します。誠に突然ですが、檸檬は閉店致します。実は昨日最後に来たお客さんが、通算千人目でした。最後に焼酎を頼まれた方です(笑)ご来店、ありがとうございました。店長 小田……」

 手紙を読んだ西田は黙り込んだ。

「昨日が最後だったんだ……」

 山本が小さく言った。

「あぁ……やけに気前が言いわけだ」

 西田は頷いた。

「今日は帰ろう」

「そうだな」

 二人はそう言って歩き始めた。


 二人の頭には笑いマークだけが、消えずに残っていた……。



あまり笑えないかも……笑

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― 新着の感想 ―
[一言] 早速よませていただきました。 すらすら会話がつながって読みやすかったです。 オチにインパクトがあるとなおよかったと思います。
[良い点] 頑張りやのサラリーマン感じですね。 頑張ってください(^^)
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