パート8
「お、おいどうした!?」
床に打ちつけた頭や背中の痛みを無視しながら、俺は幸に詰め寄った。
けど俺が何を聞いても、幸はただただ涙を流しているだけだった。
「………………(……ごめ、んなさい)」
「え?」
「………………(……私の、せいで)」
何を言っているのか、意味が分からなかった。
だけどこのままだと、幸はずっと泣き続けてしまう。
俺は幸の手首を掴んで風呂場の中に入れて、頭から思いっきりお湯をかけてやる。
「…………!?」
突然お湯をかけられた幸は当然のごとく驚いて、俯いていたけど少し鼻や口に入ってしまったみたいで、小さくせき込んだ。
「…………(な、何するんですか?)」
「…………」
そして俺は、無言で幸の両頬を引っ張ってやった。
「…………!(ひゃっ!)」
「のびーるのびーる。幸のほっぺ、結構柔らかいな」
「…………!(ひゃ、ひゃにふるんれふかぁ!)」
お、怒ったか?
それでも俺は幸の両頬を掴んだまま離さなかった。
しばらくむにむにと伸ばしたりして遊んでから、最後は無理やり笑ってる表情を作った。
「ほら、今のでもう泣かなくなっただろ?」
「…………?(え?)」
「人は泣いてるとつらくなるんだよ。だからたとえ泣いてても、どれだけきつくても笑うんだよ。それだけで気は楽になるし、幸せになれるぜ?」
「………………」
幸はしばらく茫然としていたが、俺の言葉がようやく理解できたのか、大きく頷いた。
……つか、よくよく幸の顔を見てみたけど、結構可愛いな。これが俺の親友でいうと、美少女って奴か。
それから俺と幸は二人で一緒に風呂に浸かりながら、幸からいろいろと話を聞いていた。
どうしてあんな所に倒れていたのか。
なぜ声が出なくて、さらに両腕も動かせないのか。
それは、今ケータイで調べたこの記事が重要になっていた。
『またしても取材拒否! 謎が謎を呼ぶ怪しげな研究所!?』
見出しはこんな風に始まっていた。
その記事は俺もあまり聞いた事が無い新聞会社が出していて、一見誰も見なさそうな記事だった。だけど今の俺にはこれ以上の情報はない。
まずその謎の研究所というのは、場所がここから近い山奥にあるみたいだった。もし幸がここから逃げたとしたら、このアパートの前で倒れていたのも納得できる。
記事を書いていた人は好き勝手に研究所のしていることについて書いてあったから、あまり信用はしない方がいいかもしれない。でも、幸はこの逃げ出した研究所が一体どんな事をしていたのかだけは、決して話そうとしなかった。
「うーん……」
とりあえずは保留にしておこう。情報があんまり集まってないのに動いたりしたら、幸の身に危険があるかもしれないし。