パート5
「ったく、ついてねえ……」
急いでティッシュで拭いたけど、少しだけ布団に染み付いてしまった。
でもこのぐらいなら、洗濯すればなんとかなるか。特に問題無し。
「……………」
「ん? どうした?」
濡れた靴下を脱いでいると、少女が少し涙目になりながらこっちを見ていた。
「………………(……大丈夫?)」
「え? あ、別にヘーキだって。こんなの日常茶飯事だし」
「………………(……ホント?)」
「ホントだって。それより新しい栄養ドリンク持ってくるから、ちょっと待ってろ」
そう言って台所に向かって、新しい栄養ドリンクとストローを取りに行く。
あ、そうだ。あの子結構汚れてたから風呂も沸かさないと。となると服はどうするか……。俺の服で我慢してもらうか。
晩飯はどうしよう。またお粥を作るか、それともうどんにするか。あとで聞いて――。
「…………ん?」
あれ、さっきあの子喋ってなかったか?
★ ★ ★
なんだかあの人、結構優しい人みたい……。
あのお粥も美味しかったし、少なくともあの組織とは関係無い、のかな?
でも、もしかしたら……。
…………ダメ、だよ。そんな風に人を疑ったりしたら。
もう少しだけ、様子を見る事にしよう。
もしそうだとしたら、すぐに逃げられるようにしないと……。
★ ★ ★
「……いやー、まさかこんな所で会うとは思いませんでしたよ」
「ふふ。私もです」
微笑みながら道を歩いていたのは香里と、幸一の幼馴染である浜端真里菜だった。
香里が持っている箱には『ケーキ店、シュプラン』と書かれていた。そして真里菜が持っている袋の中には様々な野菜が入っていた。
真里菜の家にはよく、田舎からたくさんの野菜が届けられている。そのため、わざわざ幼馴染の為に家までおすそ分けをしに行っていた。その向かっている最中に、同じくアパートに帰っていた香里と出会ったのだった。
「それにしてもよく買えましたね、シュプランのケーキ。あの行列を並んだんですか?」
「いえ、あそこの店長とは顔なじみでしてね。よくこっそりとケーキを貰ってるんですよ。もちろんお金を払ってね」
「へー、羨ましいですね」
「今回は結構たくさん買ったので、良かったら真里菜さんも食べますか?」
「え、いいんですか? じゃあついでに幸一も呼びましょうよ」
「それでは、幸一さんの部屋に一緒に行きますか」
もちろん、香里は今幸一の部屋にあの幼い少女がいるという事は覚えているが、あえて何も言わなかった。
アパートについて幸一が住んでいる部屋の前まで行くと、中からばたばたと走り回っている音がしていた。
「ちょっと幸一? 何してる、の……よ?」
「……………! ……………!」
「おい、こら! まだ全部流してねえから逃げるな!」
真里菜が扉を開けるとそこには、髪に泡をつけて逃げ回っている全裸の少女と、腰にバスタオルを巻いて追いかける幸一の姿があった。
少女は香里と真里菜の姿を見つけると、その後ろに隠れた。
「おい、いい加減に……って、あれ?」
「……幸一、これはどーゆーこと?」
「な、なんで真里菜がここにいるんだよ!? あと香里さんも!」
「今はあたしが聞いてるんだけど……」
わなわなと拳を震わせながら、真里菜は幸一に狙いを定め、
「待て真里菜! これにはいろいろとした事情が――」
「言い訳は、じ・ご・く・で・しろ―――――っ!」
「おちつ……ギャアアアァァァァッ!」
アパートと近所に、幸一の悲鳴が響き渡った。