パート56
そんな事気にしなくていいのよ、とユキはケーキを食べ終わったのかお茶を飲みながら言った。
「こういうのは言ったもの勝ちなのよ」
「そういうものなのか……?」
「そういうものよ。それで話を戻すけど一時的にとはいえ、私の体質はあいつの目標に一番近い物が作られた。そこで私と同じ体質の量産をしようと、あいつは考えたの。けれどそう簡単に上手くいくものではなくてね。失敗ばかりが続く毎日。そして、今までの体質の中で一番の災厄を作り出してしまった。それが――実験体、F」
「…………!」
実験体F。
今、俺の代わりに洗濯物を畳んでいる幸の事か。
「よりによって、不幸を生み出してしまう体質が出来ちゃうなんてね……。そのせいで、彼女の体質によって何人もの子が死んでしまったの。彼女の生み出した不幸によって」
「…………」
「あまりにも制御出来ないその体質を抑えるために、あいつは私と二人きりの部屋に閉じ込めることにしたの。私だけが唯一、彼女の体質を受けても生きてられる実験体だったから」
そこで、幸とユキは出会ったのだという。
二人はもともと双子のように似ているからか、すぐに仲良くなった。だがその時の幸は自分の体質に対いて責任と罪悪感で、すでに精神はボロボロだった。
「だから私は、自分の名前をあげたの」
「名前を?」
「ええ。日本には言霊というものがあるのだけれど知ってるかしら?」
「ええと……」
聞いたことはあるが、意味までは覚えていない。
「言霊というのは、言葉には霊的な力が込められているという意味ですよ」
思い出せなかった俺の代わりに、高橋さんが分かりやすく説明してくれた。
「幸一君がさっき質問してくれた通り、私のもともとの名前は『幸』。幸というのはそのままの意味で幸せという事。そこで私はこの名前を彼女にあげることによって、言霊の力で彼女の体質を抑えることにしたの。そして代わりに、実験体Fの救うことが出来る存在になるために『幸』と名乗ることにした」
だから、俺の過去で名乗っていた時の名前と違うという事なのか。
不幸の反対は幸せ。対極であるこの二つをぶつけてやれば、中和されて幸の体質は抑えられる考えという訳か。
「私のこの考えは、成功したわ。けれどその代わりに、副作用を起こしてしまったの」
「それが、幸の体に起こった異常って事でいいんだよな?」
「ええ」
つまりはこういう事だった。
幸の体質は不幸を生み出して周りに被害を及ぼす体質。その体質を言霊によって抑えることによって、周りに放出されることはなくなったが、抑え付けてる幸の体はそれに耐えきれず、様々な障害を発生させることになってしまったと。
なんて……なんて、可哀想な話なんだよ、これは。
不幸を無くす云々の話なんかじゃない。それよりも前に、不幸というものから逃げることの出来なくなった二人があまりにも可哀想すぎる。
こんなの……人がやっていい事じゃない。




