パート50
俺は真里菜を後ろで待機させておいて、目の前にいる男に近づく。けれど男はその場から動かず、かといって俺に攻撃をしようとはしてこない。やはり、俺が向こう側に行こうとしない限り、男は俺を攻撃してこないはずだ。
「さてと……まずはあんたの目的を聞こうかね」
「……言ったはずだ。俺らの目的はこの世界から不幸を無くそうと――」
「俺が聞いてるのはそっちじゃない。俺はあんたらの組織の話じゃなくて、あんた個人の目的について聞きたいんだ」
「俺だと?」
怪訝な表情をする男に対して、俺は質問を続ける。
「確かに俺は途中からあんたら組織の話を盗み聞きしてたが、それでもあんたの行動に関してはちょいと疑問点がある。今のあんたの行動、俺らを幸ちゃんの元に行かせないんじゃなくて――危険だから行かせられないって感じられるぜ?」
「…………」
男の後ろでは、未だに幸ちゃんを中心にあちこちから鉄くずなんかが飛んでくる。けどこっちは範囲外なのかそこまで飛んでこない。まるで俺たちを巻き込まないかのように。
にも関わらず、幸一があの中に飛び込んでるけど……まああいつの事だ。そこまで心配しなくていいだろう。こういうときだけ、あいつの不幸は発動されないし。
それはともかくとして、もしこの男より向こうの方に近づけばきっとあの鉄くずに巻き込まれる。それが分かっているから、この男は俺たちを先に行かせないようにしている。
「……もし、一般人に死なれてしまったら困るのでな。そうならないようにお前らを足止めしているだけだ」
「変な心遣いありがとよ。けどな、俺らに対してそんな心遣いは無用だぜ?」
「そうはいかない。この実験が終わるまで、ここにいてもらう」
「実験? その内容は、幸ちゃんをこんな目に遭わせる事なのか?」
「違うな。今回の実験は――実験体Fに溜めこまれてきた不幸が、どれほどの被害を及ぼすのかだ」
「な……!」
後ろでも、真里菜が息を飲んだのが分かった。
「先ほども言ったが、彼女にはあと少しの実験しか残されていない。彼女が今までため込んできた不幸、作り出された不幸は通常よりも数倍は軽いだろう。それゆえに、その不幸を解放したらどれだけの力となるのかが分かる」
「そ、そんなのを調べてどうするつもりよ!」
「決まっている。兵器として売るのだ」
「兵器だって!?」
さすがにこれは、予想外すぎた。
この男がさっきまでいた奴とは違う考えを持っているとは思っていたけれど……まさか幸ちゃんを兵器として利用としてるなんて。
「理屈は分からないが、あの少年は実験体Fとは相性がいい。もしここで彼女を押さえ込むことが出来るとしたら――」
「もう、黙っていろ」
男が最後までいう前に、俺は一瞬で男の懐に潜り込んで鳩尾に拳を叩き込んでいた。
そしてすぐに顎を膝で蹴り上げると、浮いた体にそのまま回し蹴りを放つ。
話すのにいつの間にか夢中になっていた男だったからこそ、俺の最初の動きに気づくのに遅くなって出来た芸当だ。最後の蹴りをまともに喰らった男はそのまま横に吹っ飛んで、頭を壁に打ち付けてそのまま気を失った。
俺はときどき飛んでくる鉄くずに気を付けながら男の元に近づいていき、男の懐を調べる。すると身分証明書みたいなものが出てきた。
「これは……どっかの密売かなんかか?」
外国語で書かれていて読み取れなかったが、まるで海外ドラマで出てくるような身分証明書だった。
ということは、この男たちの組織は人の不幸を使って兵器に仕立てる組織なのだろうか。
「とりあえず、警察に電話しておくか……」
少なくとも、こっちの方はこれで片付いた。
あとはお前だけだぜ、幸一。




