パート48
「な……っ!?」
そんな馬鹿な。人がそんな簡単に消えるなんて出来るわけがない。
けれど、もうこの工場には五島さんの姿はどこにもなかった。
「どこに……!(消えたの!?)」
目標を失った幸は、手当たり次第に鉄くずをぶつけまくる。その威力は大きく、一度でも当たったら重傷になりそうなくらいのスピードだった。
ドコンッ!
「……………おいおい」
なりそうな、じゃなかった。工場の柱の一部を破壊してしまうくらいの威力なら、確実に重傷を負うだろう。
いったい、どうすれば幸を止めることが出来るんだ?
このままだと、ただでさえボロイこの工場自体が崩れるかもしれない。幸が今行っている無差別な破壊行為は、工場の壁や柱すらも破壊し続けている。
だけれど、鉄くずを操っているその身の周りには、たくさんの鉄くずがあるから近づこうにも近寄れない。
どうすれば……!
「……まったく、ここまで来てまた迷ってるの?」
「え……」
聞き覚えのあるその声に、俺の隣を見てみるとそこには幸と瓜二つの少女がいた。
「昔と、全然変わったわね。いまの幸一君、見ててイライラする」
「え、幸……?」
「説明は後。めんどくさいから、手短に説明だけするわ」
こんな状況だというのに、この少女の声を聞いただけで何故か冷静でいられた。
「こんな目に遭っているあの子を見て、幸一君はまだくだらないことを考えて躊躇してるの? あの子は、幸一君のことを思って、使いたくもなかった不幸を使っている。さっきまで幸一君を巻き込みたくない、早くここから去りたい。そう思ってたあの子が、わざわざ幸一君のために、怒って泣いてるの」
「…………」
「ここまでしてくれたあの子のためにも、さっさと迎えに行ってあげなさい」
幸によく似た少女の言葉を聞いて、俺はやっと決心がついた。
不思議と、飛んでくる鉄くずの中を歩く恐怖はなかった。
一歩一歩踏みしめるその足に、躊躇いはない。
ただただ、幸の元へと歩くだけだった。
(あの馬鹿! なんで自分から飛び込もうとしてるのよ!?)
その頃、真里菜はずっと男とずっと戦い続けていた。
始めは真里菜の方が有利かと思われていたが、経験の差なのか次第に男の方が真里菜を押し始めていた。
「どうした? 周りを気にしてると、足元をすくわれるぞ」
「しまっ……」
そう言われて気づいた時には遅かった。
急いで相手の足技に注意を払ったが、それは男のフェイントだった。
一瞬で腕を掴まれたかと思ったら、背負い投げの要領で投げ飛ばされた。
「う……痛いわね」
なんとか受け身を取ったけれど、それでもすべての衝撃を流すことはできなかった。
「悪いが、俺はここを通さないようにと言われているのでな。それに、どのみちお前は行っても意味がない」
「ど、どういう事よ?」
「あの実験体Fを救えるのは、あの少年しかいないということだ」
それを聞いた真里菜は、違和感を覚えた。
今のこの男の言い方だと、まるで幸ちゃんを助けようとしている風に聞こえる。
さっきまでいたあの五島って男の指示に従っているようで、けど口ぶりからだとそれとはまた別の理由を持っているような……。
「なにはともあれ、お前はそこでじっとしていろ」
男の方からは何もしかけては来ない。けれど、また強行突破しようとしても阻まれるだろう。
この男の言うとおり、ただじっと見てるだけなんて……。
「お前らしくないな、真里菜。そんな簡単に諦めるなんて」




