パート4
「じゃあ最後に、これを飲んでおけ」
俺は持ってきた栄養ドリンクの蓋を開けてから少女に渡そうとした。だけど、少女はその栄養ドリンクを受け取ろうとしない。
「……? 少しでもいいから飲んでおいと方がいいぞ。それとも水の方が良かったか?」
「…………」
ふるふる。
首を横に振ったということは、飲みたいんだよな。
でもさっきから両手を動かそうとしないし、一体どういうことだ?
「…………」
「ん? なんだ?」
急に少女は口を開けたり閉じたりしてきた。まだお腹が空いているのか? それなら言ってくれれば……。
(いや、待てよ)
もしかしてこの子、喋れないんじゃないのか?
だとしたらさっきから頷いたり首を振ったりして、はいとかいいえとかを表してるんじゃあ……。
「お前、今思ったんだけど……もしかして喋ることが出来ない?」
「…………」
こくん。
やっぱり、そうか。なんらかの病気だろうか? それとも生まれつき?
それを聞こうにも、この子は喋る事が出来ないんだから聞いても無駄だろう。それにこういう事はあんまり聞いちゃいけない気がする。
でも話せないとなると、ふつうは手話とかで会話したりするはずだ。と言っても、俺は手話なんてまったく知らないけど……。
……いや、まさかな。まさかさっきから手を動かしてないのも、動かせないからじゃないよな?
「もう一つ聞きたいんだけど……その両手も、もしかして……」
「………………」
……こ、くん。
何も聞いてないのに、少女は頷いた。
ウソだろ、おい。喋る事も出来ないで、しかも両手すら動かせないだって?声が出ない病気とかは知ってるけど、両手も動かせないなんて聞いた事が無いぞ。
だとしたら、病院とかに連れて行った方がいいんじゃないのか。
いや、だけど……。
(……あー頭痛くなってきた)
もういいや。今はそんな事考えないで後にしよう。
そもそも俺って、物事とか深く考えるキャラじゃないしな。
とりあえず今俺がしないといけないのは、この子に栄養ドリンクを飲ませるためにストローを取ってくる事だ。
「ちょっとストロー取ってくるから、待ってろ」
「…………」
少女が頷いたのを見てから、俺はまた台所にストローを取りに行こうとした瞬間。
「うわっ!?」
ちょうど立ったときに、空になった鍋に足を入れてしまったらしく、そのまま少女が眠っている布団の方に……。
(って、このまま倒れたらまずいだろ!?)
咄嗟の判断でなんとか手を動かして、どうにか布団へのダイブは防ぐ事が出来た。ブリッジみたいな格好になったから、腰が少し痛めたかもしれないけど、ダイブしなかった代償としては安いもんだ。
が、なんか倒れている最中に栄養ドリンクが倒れたような音が聞こえた。
でもまあ、この子が飲めないみたいだから蓋は開けてない、はず……。
……あれー、おかしいな?
なんかどんどん右足が濡れていくのはどうしてかなー?
「ウソだろ、おい……」
見てみると、どうやら倒れた際にひびが入ったみたいで、そこから漏れ出ていた。