パート37
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もう、限界だった。
これ以上は、あの人たちの傍にいてはいけない。
本当はとっくの前に気づいていた。いるだけで、いろんな人から心配や迷惑をかけていることを。
でも、離れることが出来なかった。あの暖かくて、優しい場所から。
施設にいるときは、あんなに居心地の良い場所なんてなかった。安息なんてどこにもなくて、ただただ嫌なことばかりで。逃げても意味なんかないのに、あの地獄のような場所から逃げ出した。
そこで見つけることが出来た幸せ。でもそんなの、自分の幸せじゃなくて他人の幸せをただ奪ってるだけだった。
ただの、偽りでしかなかったんだ。
だからもうこれ以上迷惑をかけないように。
あの場所から離れるしか、ないんだ。
★ ★ ★
「幸ー!」
俺は走りながら、大声で幸の名前を呼んだ。だけど声は虚しく響くだけで、俺はまた幸の名前を呼ぶ。
軽傷で済んだあの交通事故のあと、どこを探しても幸の姿は見つからなかった。
とりあえず手分けして探すことになった。幸の足ならそう遠くまで行ってないだろうと思っていたけど、これだけ探しても未だに見つからないのは可笑しかった。
『幸一、俺は今から商店街のほうを探しに行く。もしかしたらおばさん達の誰かが見たかもしれねえ』
「分かった。洋介、そっちは頼む」
時折電話をしてくるみんなに返事を返しつつ、俺もいろんな場所を探し続ける。
けれど幸はまだ駅前にあるシュプランの店、商店街、それに公園にしかまだ行かせたことがない。つまり幸が隠れそうな場所の心当たりがまったく思いつけないのだ。
ここまで探しても見つからないとなると、幸はそれほど遠くの場所にいったのか、それとも誰かに攫われたのか……。
「ん? 誰かに攫われた……?」
待てよ、もしかすると……。
俺は一度立ち止まって、ケータイを再び取り出した。そして電話帳に念のためとして登録しておいたあいつに電話をかけた。
『……このケータイにかけたということは、実験体Fの傍にいた不幸な少年か』
俺が電話をかけた相手は、あの時幸のことを実験体Fと呼んでいたあの男だった。あの時は名刺を受取っていらなかったけれど、もし万が一、何かが起こったときを考えて一応ケータイに電話番号だけ登録しておいたのだ。
「お前、まさかあの時幸を攫ったりしたか?」
『……何のことだ少年? 言っている意味が分からないんだが』
声のトーンからして、嘘をついているとは思えなかった。だけど、信用もできなかった。
『おそらくだが、その様子だと実験体Fはお前の元から離れたか。実験体Fの判断はある意味正しいだろう』
「な……ど、どういうことだよ?」
『実験体Fは隠していたようだが、あの子の存在は不幸そのものだよ。いや、不幸の塊と言ってもいいな。いるだけで周りを不幸にさせ、さらに自分自身も不幸にさせる』
「はあ……?」
言っている意味が分からず、俺は眉を寄せた。
『ん、ちょっと待て……。……――――……、――。……了解しました。すまんな少年、どうやら話はここまでのようだ』
「ちょ、待てよ! 話はまだ――」
『一つだけ言っておこう。お前がまだ実験体Fを探すというなら、その時また会うだろう。実験体Fについてはその時また話してやろう』
それだけ言って、電話は一方的に切られた。
「なんだよ、それ……!」
何も分からずに、怒りだけがこみ上げてきたけど脳のどこかで思考を働かせていた。
俺が幸を探し続けると、またあいつに会うことが出来るって言っていた。
つまり、あいつも幸を探しているってことなのか……?
とりあえず今は考えるのはやめて、幸を探すことに専念した方がよさそうだ。そう思った俺は再び走り出した。




