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パート32

 その後ろ姿を見送ってから、俺も自分の部屋へと向かう。香里さんの部屋は一回にあるけど、俺と幸が過ごしている部屋は二階にある。二階に上がる為には当然階段を使わないといけないんだが……。

 ズルっ!

「へぶっ!」

 ……とまあ、こんな感じにいつもこの階段を登るたびに何故か足が滑る。別にワックスが掛ってるわけでもないはずなのに。

 少し赤くなってしまったであろう鼻をさすりながら、いつものように自分の部屋のドアを開ける。

「ただいまー」

「…………!(おかえりなさい、幸一さん!)」

 すると、奥の方からとてとてと走りながら俺の方へと走ってくる幸がいる。

 一週間前まで、この部屋には俺しかおらずただいまと言っても、何も返事は帰ってこなかった。けれど、今はこうして迎えてくれる人がいるだけで、さっきの鼻の痛みなんか忘れてしまいそうだった。

「遅くなって悪かったな。すぐに晩飯の準備するから」

「…………(幸は平気です。それより、お鼻どうしたんですか?)」

「ああ、実はさっき――」

 転んじゃってな、という言葉をなんとか飲み込む。

 この一週間、幸と一緒に暮らしてきていろいろと分かった事がある。

 それは、幸は人の不幸に過剰に反応してしまう事だ。

 例えば道を歩いている時に石に躓いて転んでしまう。まあこれはよく俺がしてしまう事なんだけど、はたから見れば、それはただの軽い不幸な出来事だ。

 だけど、それを幸はまるで自分の事のように反応してしまう。それがどうしてなのかは分からないけど、しまいには涙を流してしまう。

 だから、俺は軽い嘘をつく。

「――真里菜に殴られてな。またあいつの機嫌を損ねたみたいで」

「…………?(真里菜さんに、ですか?)」

「まあ、幸が気にする事じゃない。じゃあさっそく晩飯作るから、少し待っててくれるか?」

「…………(分かりましたです)」

 コクン。

 幸は頷いて、俺が帰ってくるまでずっと見ていたテレビを、また見始める。

 ちなみに今晩のご飯は、味噌汁と豆腐、そしてメインはアジとまさに日本の伝統である和食だ。


「…………?(公園、ですか?)」

 幸にご飯を食べさせてあげながら、俺は明日の事を幸に話していた。それにこの話は、幸を外の環境に慣れさせるという前提で考えたんだから、幸に言わなければ意味が無い。

「真里菜や洋介だけじゃなく、他にもシュプランの店に行った時に会った菊恵先輩とか、あと俺の妹の京香とかも来るぞ」

「………………?(えと、その……公園って、どんなのところなんですか?)」

 それを聞いたとたん、俺はまたある事を忘れていた。

 幸は、常識的な知識が極端に欠けている。

 だからテレビとかで映る景色や場所が、俺にとっては見慣れたものだとしても、幸にとっては全てが初めて見るものばかりなのだ。

 だから、一日でも早くそういうのに慣れさせていかないと。

「公園っていうのは、いろんな遊び道具が置いてあってだな。そこで皆でその遊び道具を使ったり、ゲームをしたりする場所なんだ」

「…………?(げーむ?)」

「ええと、ゲームってのはだな……」

 結局この日は、晩飯を食べ終わってもずっと公園で遊ぶゲームとかの説明をずっとする事になった。

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