パート2
★ ★ ★
……。
…………。
………………。
……………………う、うう。
どこ、ここ……?
それに、これ、布団……?
温かい……。
でも、一体誰が……?
そういえば、さっき何か、飲まされたような……。
……誰か、来る?
逃げなくちゃ……もっと遠くに……。
誰かに迷惑をかける、前に……。
★ ★ ★
「このぐらいでいいですかね?」
「そうですね。それ以上するとこげてしまいますから、もういいでしょう」
いま俺と香里さんは、寝ている少女の為におかゆを作っているところだった。
香里さんいわく、空腹で倒れたのなら初めはおかゆなどの軽い食べ物の方が食べやすいとのこと。腹に溜まるものならうどんとかでも良かったんだけど、それだと少女が起きてくるのを待っている間に麺が伸びてしまいそうだから、やめておいた。
あとは香里さんに任せて、一度あの子の様子を見にいくか。
「ちょっと容態見に行ってきます」
「分かりました。いくら可愛いからといって、襲っては駄目ですよ?」
「いや襲いませんから!」
そう言って、少女が寝ているはずのリビングに行くと……。
「まだ寝てるか……っておい!?」
なんと少女はいつの間にか起きていたらしく、無理矢理体を動かして起き上がろうとしているところだった。
「大人しく寝ておけって。今のお前はあんまり動いちゃいけないんだから」
「…………っ! …………っ!」
俺がそう言っても、少女は無視して起き上がろうとする。
仕方ない。俺は少女の頭に手を乗せて、起き上がれないようにする。こんだけ小さい少女だから、これだけの動作で充分だろ。
「……………っ!」
「いいから大人しくしてろ。もうすぐ――」
「おやおや幸一さん。いたいけな幼女をもう手駒にしているんですか?」
後ろから香里さんの声がした。どうやら出来上がったお粥を持ってきてくれたらしい。
「だからしてませんって! ……あれ香里さん、飲み物持ってきてないんですか?」
「はい。というより、持ってこれなかったです」
確かに両手で鍋を持っているから、飲み物なんて持ってこれないだろう。まったく、何を当然な事を俺は言わせてんだ。
「じゃあ、代わりに持ってくるんで、先に食べさせておいてください」
再びキッチンに入って、冷蔵庫を開けて飲み物を探す。
といっても、ジュースとかの類ってあんまり飲まないしな……。コーラとかはあるけど、炭酸とかはお粥に合わないだろうし。
それなら、消去法で牛乳でいいか。
「……って、賞味期限が切れてる!?」
だ、だったら自家製お茶で……作ってねえ!? ミネラルウォーターは……って、よく考えてみたら俺はそんなの飲んだ事ねえじゃん!
「な、なんて不幸だよ……」
結局、俺はまた栄養ドリンクを持っていくことにした。多分、栄養不足だと思うから。
「言ったでしょう? 持ってこれないって」
「あれはそんな伏線だったんですか!? つか、どうせならもっと先の伏線を張ってくださいよ!」
「あなたはおそらく百年以内に死にます」
「そりゃ当たり前ですよ! むしろそれで死ななかったら俺、どんだけ長生きしてるんですか!」
「あなたはこの先、幸せが訪れるでしょう」
「お、それは嬉しい伏線ですね」
「いえ、幸一さんにじゃなくこの子にです」
「そっちかよ!」
「そんなことより幸一さん、さっきからこの子一口も食べてくれないんですよ」
「え?」
それを聞いて、鍋の中身を見てみるとまったくお粥の量が減っていなかった。食欲が無いのか?
「あと、私は用事があるので急いで行かないといけないのです」
「マジですか……」
子供の扱いにはあまり慣れていないのに、俺一人でこの子の様子を見ないといけないのか……。
いつもは俺をからかってばかりの香里さんも、申し訳無さそうな顔をしている。
「すみません。どうしても行かないといけない用事で……」
「ああ、いやいいです。なんとかしてみます」
そう言ってはみるものの、内心はどうしよーとか思っている俺がいる。
香里さんは結構時計とか気にしながら、慌ただしく出て行った。あんなに急いでいる用事があるなら、さっさと行けば良かったのに、とか思ったけど、この子の事を思ってギリギリまでいたのだろう。
いつも俺をからかってばかりだけど、こういうところは優しいんだよな。
「さて……こっちの方もどうにかしないとな」