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パート1

 いつもの日常。いつもの風景。いつもの時間。

「いや、最後だけ違うか」

 俺こと田中幸一は、幼なじみの家に遊びに行き、その帰りにスーパーに寄って家に帰っている途中だった。

 只今昼が少し過ぎたぐらいの時間。普通なら学校で弁当を食べている時間だ。

 なら何故帰っているのか? それはただ単に、今日が祝日だからだ。

 だからといって、やる事は変わらない。家に帰れば家事をしたり、ゲームやパソコンで暇を潰すくらいだ。

「なんかステキな出会いとかでもないかなー……」

 そんな事を呟きながら歩いていたその時。

 バシャン!

 うっかり、水溜りを思い切り踏んでしまう。そのせいで靴とズボンが濡れてしまった。

「……最悪だ」

 さらに。

 カー、カー。

 ぼとっ。

 空からカラスの泣き声が聞こえたかと思うと、肩にカラスの糞が落ちてきた。

「おいこらっ! 落とすならよく場所を見てから落としやがれ!」

 そんな事を空に向けて言ってみても、すでにカラスはどこかに飛び去っている。

「まったく……いくら休日だからとはいえ、なんでこうも不幸が付きまとうんだよ……」

 そう。もうお気づきかと思うが、俺は何故か不幸な目ばっかり遭う。体質と言ってもいいだろう。

 しかも嫌なことに、交通事故や大きな不幸ではなく、今みたいに小さい不幸が連続で降りかかってくる。その全てが地味にキツイ。どうせなら思いっきり降ってきて欲しい。

 日頃からこういう事に備えて入れてあるポケットティッシュを取り出し、肩についた糞を取る。少し白くなっているけど、すぐに洗濯すれば取れるだろう。

 とにもかくにも、さっさと家に帰ってしまおう。そうすれば不幸なんて訪れないし、今度こそゆっくり過ごす事が出来る。そう思って少し早足で歩く。

 そろそろ一人暮らしをしているアパートが見えてきた所で、俺はあるモノを見つけてしまった。


 アパートの前で、一人の幼い少女が倒れているところを。


「…………は?」

 目をこすってみても、頬をつねってみても、別の景色を見てからもう一度見直してみても。

 現実は変わることなく、倒れている少女の姿があった。

「……あーこれはもしかして、行き倒れってやつか?」

 でもあんなに幼いのに? つか、どうみても子供だろあれ。親とかどうしてんだよ。

 そう思って辺りを見渡しても、親どころか人がまったくいない。つまり、俺がなんとかしないといけないのかよ。

 慎重に近づいてみる。いきなりの事態に緊張しているのか、忍び足になっているのは仕方ないだろう。

 近づいてみて分かった事だが、この少女はもの凄く髪が長い。ほとんど身長と同じくらいに伸びている。もし反対側から見ていたら、ただの黒い物体だと俺は思っていただろう。

 そしてその髪の下にまとっている服だと思っていたものは、ただの白い布切れだった。しかも所々が破けている。まるでどこかのホームレスみたいだ。

 でもこの歳でホームレスって……ありえないよな。いやでも、最近の日本も結構そういう人が増えてるし、可能性としては有り得るかもしれない。

「つか、生きてるのか……?」

 そう呟いた瞬間、少女の小さな手がピクリと動いた。

「マジかよおい!」

 もし死んでるんだったらこのまま警察に通報だったが、生きてるのならなんとかして助けないと。

 急いで仰向けにさせる。少女の表情は青ざめていて、唇は乾ききっていて、今にも死にそうな顔だった。

「と、とりあえず飲み物だな……って買ってねえ!?」

 スーパーの袋を漁ってみたが、飲み物どころかミネラルウォーターすら入ってなかった。そういえば、家にまだあるから買ってなかったんだ。何か飲み物の代わりになる物を探してみると、栄養ドリンクがあった。

「無いよりましか……。おい、今から飲ませるから、きつかったら吐き出せよっ」

 伝わっているかどうか分からないが一応、一言言ってから飲ませる。

 一気に飲ませるんじゃなくて、少しずつ飲ませていく。それでも口からこぼれてるから飲めてるかどうか心配だったけど、コクンコクンと小さな音が聞こえた。ちゃんと飲めているんだろう。

「とりあえず俺の部屋に……」

「あら、幸一さんじゃないですか。いったいこんな所で何してるんですか?」

 少女を背負って部屋に行こうとしたら、後ろから声をかけられた。振り向いて見てみると、このアパートの管理人、佐藤香里さんだった。

「もしかして、立ちションですか?」

「違います! というか女性なんですから、言葉に気をつけてくださいよ!」

「ですが、こんなところでしゃがんでるなんて……ああ分かりました。大ですか」

「だから違う! そして反省してないですよね!?」

「まさか。ちゃんと後悔してますよ。こんなはしたない事を、よりによって幸一さんの前で言うなんてと」

「そう思うなら、少しは自重を――」

「けど、反省はしてません」

「だから反省もしてくださいよ!?」

 ……まったく、この人と会話をすると疲れる。

 香里さんは俺がここに住む事になったときから、いつもこんな感じで俺をからかってくる。

 いや、俺で遊んでるのか? とりらにしろ変わらないけどさ。

「……あら? その子はいったいどちら様ですか? 幸一さんの隠し子ですか?」

「早とちり過ぎです! この子はここで行き倒れてたんですよっ!」

「行き倒れ……?」

 俺がそう告げると、香里さんは少女に近づいて頬を触ったりしていた。おそらく体の状態を確認しているのだろう。こういう時は、未熟な俺よりも人生の先輩である香里さんの方がいいだろう。

「少し危険かもしれませんね。私の部屋は……少し散らかってしまっているので、幸一さんの部屋に運びましょう。そのレジ袋は私が持ちますね」

「すみません、助かります」

 俺と香里さんは、急いで少女を部屋に運んだ。

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