パート11
結局幸は俺と真里菜の分のケーキを食べてお腹が満腹になったみたいで、小さな口を開けてあくびをしていた。
「眠そうだな幸。寝ておくか?」
「………………」
……こくり。
少し頭で船を漕ぎながら、それでも幸ははっきりと頷いた。
俺は幸を布団まで運んであげると、もう幸は目を閉じてゆっくりと眠っていた。
「おやすみ」
そのまま真里菜達の方に戻ると、ケーキを食べていた時の穏やかな雰囲気はどこに行ったのか、開口一番に香里さんが俺に訪ねてきた。
「それで幸一さん。これから幸ちゃんの事をどうするつもりなんですか?」
「しばらくは居候させようかと思ってます」
「ちょっと幸一、あんた本気で言ってるの?」
まあ確かに。ただ家の前で倒れていたから、という理由だけで居候させようとは思ってない。
俺なりにだけど、きちんとした理由がある。
「幸から聞いたんだけど、いま幸は『家出中』らしい」
「家出?」
「いろいろ説明する前に、ちょっとこれを二人に見てほしいんだ」
俺はさっき検索した記事を二人に見てもらう。
「これがどうかしたんですか? 別にあまり関係無いと思えるんですが……」
「そこに書かれている研究所は、ここからあんまり離れていない場所にあるみたいなんだ。もし幸がここから逃げ出したとしたら、アパートの前で倒れていたとしてもつじつまが合う」
「そ、そうかもしれないけど……。でもそれって、幸一の言う事が正しかったら、でしょ?」
「ああ。もしかしたら幸とは無関係かもしれない。だけど、幸の体について少し考えてみろ」
普通の家庭で、もし幸が育っていたとしたら。
学校では気味悪いといじめられるだろう。それだけじゃない。両手が動かないのだから、ノートも取れない。給食を食べることだって出来ない。
ならもし学校に行かずに家にずっと過ごしていたらどうなる?
家庭によって変わると思うけど、おそらく病院などに入院させられて、一人で過ごす事になるはずだ。
しかも普通じゃありえない、テレパシーを幸は使う事が出来る。その事をマスコミや誰かにばれたら、大騒ぎになる事間違いなしだ。
だけどそういう話は世間では発表されたりしていない。多分だけどこっそりと幸についていろいろ調べられるはず。だから、俺はここからそう遠くないこの研究所が気になった。
「この研究所で幸の体について調べていて、それが嫌になって幸は逃げた。それならいろいろとつじつまが合う」
「確かに流れとしては合ってるけど……。ちょっと無理矢理じゃない?」
「し、仕方ないだろ。正直な所、俺だってこんな事が現実にあるなんてまだ思えないんだから」
「それにしてはテレパシーとかあっさり信じたよね……」
「だってこうも目の前でされたら、普通信じるだろ」
「普通は信じないわよ!」
「落ち着いて下さい真里菜さん」
やんわりと香里さんが止めてくれたので、しぶしぶと真里菜もまた殴りかかってきたりはしなかった。うーん、さすがは香里さんといったところだろうか。
「それでは幸一さんが学校に行っている間などは、私が幸ちゃんの世話を見てあげますね」
「え? いいんですか?」
「はい。どうせやる事なんてありませんから」
それは一番助かる話だった。幸をあまり一人にさせないようにと思ってたけど、よくよく考えれば俺は高校生。学校に行かないといけない身分なのだ。
だから俺がいない間は香里さんにお願いしようと思ってたんだが……。こうもあっさり解決して良かった。
とりあえず今日は真里菜は帰る事にして、お開きという事になった。




