パート10
怒っていてあんまり手加減をしていなかったからか、俺はそのまま吹き飛ばされてしまった。
その時に、吹き飛んだ方向が悪くて幸まで巻き込んでしまった。
「い、って……。わ、悪い幸、大丈夫か?」
「…………(うん、平気)」
こくん。
思いっきりぶつかったにも関わらず、幸は別に気にしている様子はなかったみたいだ。
「あ、幸ちゃん!? ちょっと幸一、あんた何してるのよ!」
「お前のせいだろが!?」
まったく、これだから責任転嫁してくる幼馴染は……。
「そうじゃなくて! 今あんたが幸ちゃんにしていることよ!」
「え?」
何って、お前に殴り飛ばされてそのまま幸も巻き込んじゃって……。
……あれ? 俺なんで幸を押し倒してるような格好になってるの?
「…………?(あ、あの、どうしました?)」
く、やばい。
さっき風呂の時も思ったけど、本当に幸は可愛い。これは十人中十人が頷くほどの美少女だと思う。そんな幸を事故とはいえ、こんな風に純粋な眼差しで見られると……。
「ついつい襲いたくなっちゃうんだぜ……」
「いやいやそんな事思ってませんからね香里さん!? いかにも俺がそう考えてるみたいに言わないで下さいよ!」
「え、思ってないの?」
「思ってねーよ!」
香里さんはともかくとして、真里菜にもそう思われるとは……。普段の俺のイメージってそんなに変態なのか?
……まあ襲うまでにはいかずとも、その近くまで考えていたのは内緒だ。
一緒に倒れてしまった幸を起こして、再びケーキを食べようとしたら、ある事に気付いた。
「………………(……あ)」
おそらく俺が幸を巻き込んでしまった時と同様に、どうやら一緒に幸の食べていたケーキも倒してしまったみたいだった。そのせいでせっかくのケーキは床に落ちて、ぐちゃぐちゃになってしまっていた。さらに追い打ちをかけるように俺のコップも倒れていて、中身がケーキにかかっている。これじゃあもう食べられない。
それでも無表情の幸だったが、どことなく悲しげな雰囲気があった。
「……悪い、幸。俺のせいだな。俺のはいいから、代わりにこのケーキ食べてろ」
「ちょ、ちょっと幸一!? どうみても悪いのはあたしでしょ! ごめんね幸ちゃん。あたしのケーキも全部食べちゃっていいから」
「…………(い、いえ。幸の事は別に気にしなくていいのです)」
ふるふると首を振って遠慮する幸。
「変なとこで我慢しなくていいんだって」
「そうよ。というか主に幸一が悪いけど、あたし達のせいで幸ちゃんのケーキが食べられなくなったんだから、このくらい当然よ?」
おいそこの幼馴染。さっき自分の方が悪いって言わなかったか?
でもまあさすがに長い付き合いだけあって、考えている事は一緒だった。どちらが悪いにしろ、迷惑をかけてしまったのだから、このぐらいは俺たちの間では普通だ。
昔はよく近所のおばさんとかに迷惑かけてたからなー……。子供の頃やんちゃばかりしていたのは、もう懐かしい思い出だ。今では頭が上がらないだけだけど。
「…………(で、でも……)」
「いいからいいから。ほら、あーん」
遠慮している幸に、少し無理矢理にだけど真里菜が自分のケーキを食べさせている。でもまあ、多少はそうしないと幸はきっと最後まで食べてくれないだろう。
そんな様子を香里さんはほほ笑みながらずっと、母親のように見守っていた。




